水槽から眺める外
水底を思わせる暗い水族館の水槽の前に立ち、魚を見ていた。
魚は外の世界のことなど知るよしもなく、自分が見られているなどと気が付くこともなく、のんびりと泳いでいる。
それを羨ましく思った。見られていることに気が付くというのは、とてつもないストレスなのだから。
私はつい最近になってそのことを知った。
ゆらゆらゆらと体をくゆらせてながら泳ぐ魚を見てため息を吐く。すると水槽の中で一匹の魚がびくりと体を動かしたのが目の端に見えた。そちらに目を向けれな、岩陰に隠れようと泳ぐ魚の尻尾が見えた。
どうやら私が見ていることに気が付いた、自分が水槽の中にいることに気が付いた魚らしい。
「不幸なやつ」
私はそう呟いてその水槽の前を離れた。
水族館を出た私はちらりと空を見上げる。
そこにはいくつもの巨大な顔が浮き、各々が人間たち一人一人の動きを眺めていた。
人の世界を眺めるあの顔は一体何なのだろう。そんな疑問が頭に浮かぶが、すぐにどうでもよくなった。
水槽の中の魚に人の気持ちなど理解できるはずもないのだ。