第842話 祈りと出発
(必ず勝ってくるからね、コミィくん……)
ミリシタン大陸の朝、
イクタマッキ村で小さな勇者の墓に祈るフル装備の僕ら、
そう、これが、これこそが僕の、出発前にしたかった最後の事だ。
「……よし、これで僕が、やりたい事は終わりました」
振り返ってみんなに告げる、
つきあってくれた正妻側室のみんなに……
そして別でコミィくんのお母さんも来てくれている。
「ほん”に、だいべんばごど、ずるん”がいの”お”」
相変わらず訛りが酷いので、
ここから『脳内翻訳』をしてお送りします!
「はい、モバーマス大陸で、七大魔王の最後を倒してきます!」
「そんな無理する必要も、命があってこそだべ、どうか、どうか」
「大丈夫です、僕には命がふたつありますから、コミィくんの分も」
まあスキルなんですけどね、
一度なら死んでも復活できる、
それでまた死んでもハイトウさんとか蘇生魔法できる人が居るし。
「あんな立派なものまで作っていただいて」「えっ」
「デレス、それはこっちだ」「あっはい」「実はだな……」
お墓からぞろぞろと移動、
朝から賑わっている冒険者ギルドの前へ行くと、
そこには光り輝く、とまでは言わないが立派な子供勇者の像が!
「ニィナさん、これは」
「ああ、コミィ像だ、お母さんの情報を基に、
こちらのドワーフ連中に金を出して造って貰った」
マリウさんもニコニコで僕の傍へ。
「材料は私が提供しました、ここにも祈ってから最終決戦へ」
クラリスさんが花を捧げる、
若き勇者像、うん、立派だっていうか、
こんな顔だったんだ、そして手にしているプライドソードは本物か。
(多分、取れないようにしてあるとは思うけど)
今度は僕は、
心の中ではなく声に出して祈る。
「コミィくんのおかげでここまで来られたよ、
全てはここから始まったって言ってもおかしくない、
本当に感謝しているよ、だからコミィくんのためにも……」
……よし、これで良いな、
見渡すと知った顔も何人か囲んでいる、
昔お世話になった村人たち……思わず声をあげる。
「これから最終決戦に行ってきます、必ず勝ってきます!!」
それに対する反応も、脳内翻訳で!
「おう、何だか知らねえが頑張ってこい!」
「強そうなべっぴんさんばっかだから心配ねえべ」
「また呑もう、一杯くらいおごってやるから」「俺も俺も」「あたしもだよ」
なんだかみんな、
僕のお父さんお母さん、
いや年齢的にお爺ちゃんお婆ちゃんみたいだ。
(ドワーフ達も声援を送ってくれている)
マリウさんにも気付いてるっぽい、
さあ、きりが無いし本当の最終打ち合わせもあるから、
天大樹へ戻ろう、と、その前にぃ……
「コミィくんのお母さん」
なぜか泣いてら。
「生きて帰ってくるんだよ、うぅ」
「はい、討伐が終わったら急いで報せに」
「ほんに、ほんに……ありがとう、ありがとう」
離れてみんなで転移しようとしたとき、
コミィくんの像が、僕に向かって微笑みかけてくれた、
そんな気がちょっとだけした、僕のやりたい最後のことであった。
「では、行ってきます!!」
――そして天大樹一号館へ。
「ふう、これでもう本当に心残り無しです」
時差があるのでおかしな時間だが、
冒険者ギルド受付ではギルマスのモグナミさんや、
ヴェルビンちゃんに眠そうなダペナちゃんも待ってくれていた。
「デレス様、行かれるのですね」
「はいモグナミさん、最終決戦にこのまま出発します、
ということでマリウさん」「はい」「留守番と、その、もしもの」「ご武運を」
もう余計なことは、
言わないみたいだ……うん、行こう。
「ではニィナさん」
「ああ、では『ニィナスターライツ』のリーダーとして言おう、
モバーマス大陸の七大魔王ラスト、クイーン・チッヒーの討伐へ出発する!!」
一応、受付で冒険者カードのチェック、
あと水晶に手をかざして……てこの人数だと時間かかるな、
ちなみに九人パーティーになるので編成上のリーダーは僕になります。
(そうするとスキルで十人までパーティーが組めるんですよ)
でもあくまでチームとしてのリーダーはニィナさんで……
あっ、階段の所からエルドリアさんとかジアンさんとか、
カミーラさんバラカさんとかも、隠れながら? こっちを覗きこんできている。
(来ていいのに、邪魔しちゃ悪いってか)
ていうか、戻って来たのどうやって知ったんだろう?
と思っていると、その原因と思わしき者? が床から生えてきた!!
「にゃはは~~、ついに行くんだね~~」
「あっ、アマタツさん!」「ナタイラちゃん、妹さんがお見送りに来たいけど眠くて起きられないみた~いにゃはは」
「何も心配いらないと伝えて下さい、必ず、絶対にみんな、笑顔で戻ってくるからと」「言っておくね~頑張って~~」
そして受付が全て終わった、
さあ、今度こそ……ニィナさんと頷きあう。
「では行くぞ、黄金樹で最後の打ち合わせ、そして討伐に出発だ!!」
「「「「「「「「はいっっっっっっっ!!!!!!!!」
こうして僕らは、
冒険者ギルド前にある転移洞窟を使って、
天大樹のマザーツリーこと黄金樹へと向かったのだった。
(さあ、この先に実は……僕らが何かあった時の、後継勇者が!!)
行った先には……っておい!!
「寝てるのかよ!!」
誰がかというと、それは……!!!




