第830話 スターリ島と尋常じゃない悪女パーティー
「やはり朝は混んでいるな」
転移スクロールで時差調整してやってきたのは、
ミリシタン大陸とモバーマス大陸の中間にあって、
さらに南下すればシャマニース大陸まで行ける事で有名な、スターリ島だ。
(僕たちが入ったとたん、異様な空気に包まれた)
それもそのはず、
今こちらへ来ている僕を含む八人パーティー、
誰がどう見ても、尋常じゃない悪女パーティーなのですから!!
(これが、僕のやりたかった事です!!)
以前、計らずしもニィナさんヘレンさんに挟まれて、
冒険者ギルドで『あっ、これとんでもなくヤバい悪女に捕らわれてるな』みたいな、
そんなシチュエーションが何回かあったと思うけど、あれのフルパーティー版なのですよ!
「ニィナ様、勇者受付は五組待ちのようです」
「うむヘレン、静かに並んで待とう、受付が男なら、ひと誘惑でもしてやったのだがな」
その言葉にどよどよする冒険者ギルド内、
いや客観的に見てこのパーティーに声はかけられないな、
異質というか異様というか、前から順に心の中で説明しよう、並びで暇だし。
「それにしても朝から暑いな、さすが常夏の島か」
そう言いながらもマントで全身を隠しているニィナさん、
いやお化粧がまるで女魔王なんですが恐ろしい、オーラが凄い、
見ただけで畏怖を感じる、そしてマントの中は例によってマイクロビキニである。
「ちょっと何を見てるのよ、この鞭でしばかれたいのかしら?」
「私の胸を視姦するのは止めていただけますか、眉間にコインを埋め込みますよ」
ニィナさんの両脇を固める悪女ツートップ、
いかにも悪そうな眼鏡悪女のヘレンさん、鞭は卑怯でしょうっていう、
そして見るなと言いつつ谷間を空けた服でいかにも男を(策略に)ハメそうな爆乳悪女ナーレさん。
(この悪女スリートップ、まだウブだった頃の僕じゃあ近づけないね!)
見かけたら冒険者ギルドにすら入れない自信がある、
実はここへ来る前の悪女チェックで不参加組にも見て貰ったのだが、
イワモトさん曰く、この前の三人だけで『コミックヴァルキュリー』に出てきそうだとか、なんだそれ。
(前の列の男冒険者パーティーが、なんかそわそわしている)
そしてそのスリートップの後ろ、
中央は隠れるようにしてポータースタイルの僕なのだが、両隣はというと……
「この国は、この島は初めてですが、露出の多い女性が多いですわね、はしたない」
そう言う彼女は確かに全身を黒いローブで覆っているものの、
巨女のセクシーなライン、特にお胸とお尻が布を突き破らんばかりで、
こっちは『はしたない』なんてレベルじゃない、男を破滅させそうな魔法使い、イライザさん。
(ちょっと年齢がイッてるが、ハニートラップには充分過ぎる)
現に僕は、隣りに居るだけでクラクラして、もはや怯えています。
というシフリン魔法使い派遣所の女所長さんと、更にもうひとりの助っ人、
こちらも年齢がアレだがシュッコA級娼館『誘惑リップス』の新人にしてバケモノ級娼婦こと……
「いやらしい表情の男も多いわね、ティム魔法を使ってないのにティム出来そうだわ」
と言ったラギシーノさん、
その彼女に肩車されている、
今回の従魔は最近、捕獲したばかりの……!!
「ねえ、男を廃人にするのは良いけど、その時はちゃんと私にも吸わせてよね」
そう言ったのはミニマムサキュバス、
なんという恐ろしい組み合わせなんだろう、
とある意味で襲われたら男のプライドなんてズタズタにされそうだ。
(という助っ人ふたり+魔物が、僕の両隣です!)
そして最後方に居るふたりはというと……
「……」
片方は勇者アサシンのナスタシアさん、
悪女を演じると言っても真面目なお方なので、
いつものアサシン装束で目だけ出して、頑張って悪女な雰囲気を出しています!
(うん、アンジュちゃんを外して正解だったな)
いやね、ここであの不気味すぎる謎の死神幻術師が浮いて混じっていると、
どうしてもそっちが悪い意味で目立ちすぎて、悪女集団ではなく『悪の集団』に見えてしまう、
そこは違うんですよ、ようは色物として飛び抜け過ぎちゃう、だからこのナスタシアさんくらいが丁度良い。
(更にWアサシンのもうひとり、そう、天大樹の冒険者ギルド受付で誘った……)
「……」
こちらも無言でついてくるアサシンのモグナミさん、
こっちは黒装束ではなく黒い網の装束ですよ、いやもちろん、
見えちゃいけない部分はちゃんと黒い布で覆ってますよ、薄いし面積少ないけど!
(そして、ナーレさんに近いレベルでの爆乳は何も忍んではいない)
隣りの列の男が生唾を呑んでいる、
そして無表情ですまし顔のモグナミさん、
出発前指導で下手に表情を作らない方が、悪女らしいってなった。
(この最後列ふたりは『何を考えているかわからない』不気味な悪女路線だ)
という八人パーティー、
男どもは遠巻きで見ていて、
女性陣は怖がっている、いや一部の男もか。
(これが、僕のやりたかった、徹底的な悪女パーティーですよ!!)
脳内イメージだとこの中心で首輪の無い奴隷、
鎖の無いペットみたいな状態になっている黒一点の男は、
ゲッソリと痩せているって感じなんだけど、ドワーフ国でお腹いっぱいにされちゃったからね。
(その代わりに、とある仕掛けを……って誰か近づいて来た!)
小麦色のマッチョな男性、
海で溺れたら真っ先に泳いで助けに来てくれそうな、
これはアレだ、おそらくここの顔役だろう、三十代後半か四十歳くらいの男がやってきた。
(すっげえ緊張しているっぽいな)
おそらく、最初の一歩を踏み出すのも躊躇していそうだ。
「初めて見る顔だな、俺はS級冒険者パーティー『もじゃ髭海賊団』のリーダー、アヤレオンだ」
「……言う程、もじゃもじゃでは無いが」「初代がそうだったんだ! ところで強そうな貴女は」
「S級冒険者『ニィナスターライツ』のニィナだ」「……噂は聞いた事があるな」「余計な事は言うな」
釘刺しちゃったよ。
「これはここへ来たS級冒険者にいつも言っているのだが、
ここスターリ島はランクの基準が甘い、大陸のB級がS級レベルだ、
だからS級パーティーも多い、自分たちが特別だとは、その」「忠告感謝する」
うん、きっと『特別だとは思わないように』と言いたかったんだろうけど、
この錚々(そうそう)たるヤバさしか感じない悪女集団は特別過ぎる、そうめったに居ない、
特に中央に低身長の、ポーターの男を飼っている所なんて、他所から見ると……ちょっと耳を澄ませてみよう。
「すげえな、あの黒い集団、男を身体で殺してそうな連中だ」
「むしゃぶりついたら最後、何もかも奪われてサメの餌にされちまいそうだぜ」
「可哀想に、真ん中の少年怯えているぞ、きっと次に会った時は違う男に代わってるんだろうな」
うん、きちんと『ヤバい悪女集団』に見えている、良かった。
(顔役もいつのまにか逃げて行った)
チャンミオだとナンパされたんだけどな、
あれはやはりクラリスさんの存在が大きかったのだろう、
色を白黒で着飾った聖女様、オトゥハさんと並んで清涼剤のようなアクセントだ。
(そのクラリスさんが一番、人を殺めているという)
本当の悪女は聖女のような顔をしていましたとさ。
さて、まだ時間があるようなので、少し遊ぼうかな。
「あの、ぼ、僕、トイレ」
「なんだ仕方ない、連れて行ってやろう、世話してやる」
「そんなニィナさん、僕もう十九歳なのに、うわっ、うわあああああ!!!」
うん、さぞかしみんな、
恐ろしい恥辱プレイを想像してくれる事だろう!!
(やばい、ちょっとゾクゾクする)
さて、受付でどうなることやら。