第825話 ファミリーとファミリー
(ふう……喰い過ぎた、喰わされ過ぎた)
お腹をさすっているとナーレさんが。
「ふふ、デレスちゃん、良かったわよ」
「そんな事後みたいな! ……挨拶のことですよね?」
「私の父相手に、あそこまで引かない貴族も冒険者も、初めてよ」
そりゃあ、免疫がね、
特にニィナさんという、
それはそれは恐ろしい……まだゴマ団子食べてるや。
「ところでレーナさん、あの、こん棒で裏切り者を食事中なのに撲殺しそうなお父さんですが」「はい」
「ナーレさんと引き換えに誰かと交換って流れに一瞬、なりましたが」「結果的にエリクサーを引き出したかったのでしょう」
「もし、もしも本当に『ひとり選んで良い』ってなったら、誰が指名されたんでしょうか」「デレスちゃんよ」「あっ」
そうか、僕を引っこ抜けば、
後の正妻側室、みんなついてくるもんな。
(やっぱおっかないな、このおじさん)
義理の父になるけど。
「さあ、『ニィナスターライツ』の皆さん」
急に黒服紳士のひとり、三十代くらいかな?
が急に喋り始めた、その隣りに立つナーレさん、
あれ? 雰囲気が似てる、ええっとこれはおそらく……
「デレスちゃん、私の兄よ」
「申し遅れた、シノーメソ=ドゥヒョウだ」
「メソ?! メソなの?! あのメソなのー?!」「アンジュちゃん落ち着いて」
どのメソだ。
「ウッホン、ここで『ニィナスターライツ』の皆さんに提案というか命令というか試練なのですが」
えっ、強制?!
「食後の運動をしていただきましょう、さあ、皆さんこちらへ」
「ええっと、ついていく必要は」「どうぞこちらへ、どうぞどうぞ」
ここまで来たらいいか、
満腹のお腹いっぱいで歩きにくいや、
ニィナさんなんて、まだゴマ団子をもきゅもきゅ食べてるし。
(なんだか取り囲まれているな)
向こうにしてみたら警備とか言い訳をするんだろうが、
こちらからして見たら全員まとめて始末させられそうだ、
アンジュちゃんはさすがに浮いて移動している、黒仮面まで付けて。
「この下です、是非、おもてなしを」
「ええっとショーでもやるんですか?」
「そうですね、観客の居ない……この先です」
薄暗い通路を抜けると、
あっ、ここは闘技練習場だ、
高さも広さも十分にある、ただやはり明るさが足りない。
(暗い、と言うまででは無いけどあの地下闘技場に比べるとね)
そしてメソさん(勝手に略してみました)を先頭に、
後ろには横に七人ずらりと並ぶ黒服紳士の皆さん方。
「これが、おもてなしですが」
「食後の軽い運動ですよ、ファミリーとして友好的な」
「一方的ですね」「こういうやり方しか出来ない、不器用なファミリーです」
メソさんが普通に剣を抜いた。
「ええっとナーレさんはどちらに付くんですか」
「もちろん『ニィナスターライツ』ですが、なにか」
「九対八は向こうが不利なので、柵の外へ」「まあ、おやさしい」
とはいえ、ちょっと思う所もあるのですよ、
ナスタシアさんを見ると一瞬ハッとなってから頷いた、
それを見ていたニィナさんも大きく頷いている、わかってくれたみたいだ。
「一応、ご提案ですがデレスさん、八対八で一気に行くか、一対一で連続して行うか、それとも」
「まずは集団戦で、大した事なかったらそれで終わりです、個別対決なんてサービス、する価値があるかどうか見てあげますよ」
「言いますね、こちらが品定めしているのですが」「えっマジで?!」「デレスくんそれボクのせりふー」「ごめんアンジュちゃん」
ナーレさんが笑ってら。
「では皆さん良いですね? 我々ファミリーが勝ったらナーレは諦めて貰いましょう」
「えっ今更?! じゃあ僕が勝ったらシノーメソお義兄さんは『メソ』って呼びますね」
「良いでしょう、着替えとかは無しでこのままですよ」「もちろん、じゃあ僕らの『ファミリー』も……」
と話している最中に、
メソさんが斬りかかってきた!
「おっと」「速いっ?!」「避けた先は私だ」「うぐうっっ!!」
いきなりニィナさんが、
ベルセルクソードで弾いてくれたっ!
他のみんなも、後ろから飛び掛かって来た黒服と交戦している。
「はい、魔法で動けなくさせましたわ」
「ケケケケケケ、ぼーでぶつ! ぼーでぶつ!」
「あらいけない、鞭で強く絞めすぎてしまいました」
あーあ、クラリスさんアンジュちゃんヘレンさん、
この三人でその他の黒服七人は完璧に倒しちゃった、
メソさんもベルセルクソードで改めて抑えつけられているし。
(ていうか、その剣の上から踏むニィナさんの鬼畜さよ)
そして、ナスタシアさんはというと……
「うう……よくわかりましたね」
「御主人様が、デレス様が教えてくださいました」
「ナーレさん、いつから裏切るつもりだったんですか?!」
そう、手にトランプを持って構えたまま、
喉元にナスタシアさんの短剣を突きつけられているナーレさん、
いやね、索敵が反応したんですよ、敵の赤ではなく、なぜか黄色に。
(注意ってことは、完全な敵では無いんだよな)
つまり、ようは……茶番か。
「デレスちゃん」
「今更まだ『ちゃん』呼びですか」
「違うの、こ、これはね……ごめんなさい」
そこへ向かったのは……!!