第800話 義理の父となる公爵と対話
800話まで来られました、ありがとうございます!
皆さんからの評価が急に上がったので最終章はボリュームを増やさせていただきます、
どのくらい長くなるかは未定ですが、もうしばらくはお楽しみ下さい!!
「あっ、ナスタシアさん、廊下で待っていて下さい」
「しかし私は帝国の命で」「ここは家族の会話だから、相手がどう思っているかは別にして」
「……デレス様、それは命令ですか?」「そうだね、こればかりはふたりきりで、ごめんね」
という事で執事さんに案内された、
ニィナさんの実父であるサオンジ=ミシュロン公爵の執務室へ、
僕だってこんな身長だけど、隠居の勇者ポーターだけどニィナさんの夫になる男だ。
(ふうっ、と息を吐いて……)
ここは僕が自らノックする。
コン、コンッ
「来たか、入れ」
「はい、失礼致します」
中では何か書き始めている義父上、となる人が居るのだが、
横のソファーではさっきの正妻さん、さっさと言うだけ言って逃げた、
ムムカ=ミシュロンが相変わらずキツそうな顔で優雅に座っている、こわっ。
「デレス様」「だからナスタシアさん、一緒に入らなくても」
「いえ、一対一では無いようですので」「いやでも、うーーーん」
「いいさ構わない、妻は何も喋らない、それで良いだろう」「あっはい、じゃあナスタシアさんも」
結局、廊下には執事さんひとりがドアの前で立たされて、
僕は促されて公爵の向かいにあるソファーへと座る、
ボクの背後はナスタシアさんが立ったまま……威嚇とかしないと良いけど。
(まあお互い様か、あの正妻さん、睨んできているっぽいし)
もうそれだけで斬って良いんだけどな、まあいいか。
「それで話したい事は何だ」
「どうしてニィナさんに酷い事をし続けたんですか」
「……建前と本音、どちらで聞きたい」「建前で済ませたいのですか」
公爵の視線はまだ書類に向いたままだ。
「建前で言えば『公爵として生きていくため』使える駒は何でも使う、
君も貴族の出ならわかるだろう、ましてや本当の子では無いなら尚更な」
「確かに僕はそういう意味では駒だったかも知れませんが、愛情はそれなりに感じていました」
とはいえ義姉で婚約者には、
酷い目にあったんだけれども。
(ていうかちゃんと僕については調べてあるらしい)
誰かから聞かされたって事もありそうだけど、
ニィナさんが事細かに教えていても、まあおかしくは無い。
「本音を言えば、私は父が嫌いだった」
「伝説の勇者、テイク様ですか、ニィナさんの師匠」
「ニィナは父に懐き、私には懐かなかった」「子供ですよね?」「子供だからこそだ」
大人げない。
「それでニィナさんを酷い目に」
「このあたり語ると長くなるが、聞かせる気は無い」
「そうですか」「命令であれば話すが」「いや結構です」
やっぱり立場的には僕のが上になるのか、
それでもやはりこういう感じなのはまあ、
よっぽどニィナさんが嫌いなのか、それとも……
「他に要求は、話は何だ、聞いて答えるのはおそらくこの場が最後だ」
「ニィナさんに心から謝罪する事は」「無理だな、悪いと思ってはいない、
もちろん『悪い事』だった事は認識しているが、公爵としての正当な判断だ」
……私怨が入っているくせに!
「それでもやはり、ニィナさんに謝罪して下さい」「だから無理だと」
「形で良いんです、心が籠った謝罪が出来ないのであれば、『心が籠ったように見える謝罪』をして下さい、
公爵なら、公爵と言う立場を守るためなら、出来るでしょう……貴方が死んだ後に家を残すためだとしたら」
ここでようやく僕の目を見てくれた。
「ニィナの意思は」「関係ないです、僕が見たいんです、いやニィナさんがどうしても嫌なら考えますが、
どうしてもニィナさんの貴方たちがしてきた事に対する『けじめ』を付けないと、結婚する事が出来ません」
「それは命令で良いのだな?」「はい、宮中伯としての命令です、まだ貰っていませんが」「内定だけで結構」
立ち上がる公爵。
「今からで良いか」
「いえ、僕らが帰る時に、あとその一回だけじゃ済ませませんよ、
結婚式の挨拶でも同じように謝って下さい、あ、あまり生々しい表現は控えて」「わかった」
再び座る公爵。
「もう無いな?」
「あとは……出来ればニィナさんに酷い事をした兄や姉も」
「何をどう聞いているか知らぬが、それ程では無い、むしろムムカだな」
と奥さんに目をやると、
大きなスカートの中から短剣を取り出して、
喉元にあてた、そして目を瞑って……っておいおい!!
「止めさせてください」「……私の命ひとつで足りなかった場合、
妻は自分の命を差し出すと言っている、これでどうか」「いりませんよ結婚式も控えているのに」
「いや、ムムカはここでの、アイリーでの結婚式以外は出ないぞ」「あっ、そうか実の母親が」「そういうことだ」
公爵が手を向けて下げると、
正妻様も短剣を仕舞う、そして目を開き、
また怖い顔に戻った、特に目がね、ほんっと鋭い。
(気を取り直して、公爵にちゃんと言おうっと)
何気にナスタシアさんも、
殺気を振りまいているなぁ……
見なくても気配でわかる、頼もしいのやら何やら。
「とにかく結婚式には実の父として出て下さい、そしてきちんと父として振る舞って下さい」
「わかった約束しよう、ミシュロン公爵家当主としてな、それが全て終わってからで良いか?」
「謝罪ですか」「いや自害だ」「えっ?!」「それともミシュロン家の取り潰しまで望むというのか?」
うーん、
これは圧力のかけ過ぎかな、
あとニィナさんによっぽど酷い事をし続けた自覚があっての行動か。
「死ぬ必要はありませんよ、冷たく言えば結婚式さえ終わればニィナさんはもう僕のものです」
「なら縁が切れる訳か」「そうはいきませんよ、とはいえニィナさんの意思次第な所はありますが」
「懐いている弟や妹との関係か」「あっ、それもありましたね、とにかく貴族ならわかるでしょう、結婚によって生まれる新たな関係性を」
ふむ、という表情の公爵、義父上サオンジ。
「我々を使いたいのか、アイリー国王だけでは不十分か」
「まあ、あの国王陛下はニィナさんの『肉親』ではありませんから」
「ニィナから貰ったエリクサーは陛下に献上した、それでニィナと陛下の関係は十分に強まったであろう」
あっ、そうだったんだ、
本当に利用できるものは利用するスタイルなんだな、
なんとなくニィナさんにこの義父上の血が入っているのが感じ取れる。
「私の実家が、アヴァカーネ家が結びつきたがっているんですよ、
養子とはいえ息子が嫁に貰った公爵家と絶縁状態だなんて人聞きが悪い、
それこそ国を使って圧力をかけますよ」「わかった、最低限の付き合いを建前上、させて貰おう」
まあこのあたりはドライでいいや、
おそらくミシュロン家側だけだろうから、乾いているのは。
「あとは、あるかどうかわかりませんが、
ニィナさんへ兄や姉からの嫌味や嫌がらせは」
「それはもう無い、死にたくないからな、過去の分を出すなら私を斬れ」「嫌です」
まあ、そっちに関してもニィナさんと相談かな。
「……よし書けたぞ、そちらのアヴァカーネ家、そしてムームー帝国、
シュッコとドワーフ国に宛てた手紙だ、ニィナを嫁に出す事に一切文句は言わない、
全面的に同意する内容だ、それとは別にニィナに関するわび状が必要なら言え、いくらでも書いてやる」
無言で奥さんが受け取って僕へ、
って目は見ないようにしよう、ああ怖っ。
「わかりました、あっ、そういえば皆さんに、
ミシュロン家に贈り物が、食べ物ばかりですが」
「外の執事に全て渡しておけ、安心しろ捨てたりはしない」「はあ」「もういいな」
間を置いて扉が開かれる。
「では失礼します、帰る時に改めて僕から言葉を」
「それは玄関で見送れという命令か?」「……はい」
「わかった、ならば見送ろう、私一人で良いな?」「いえ、奥さんも」「二人で良いな」「あっはい」
命令じゃなかったら、
今ここで言えってなってそれで終わったんだろうな、
まあいいや、ニィナさんの所へ戻って相談しようっと。
(出る時に深々と頭を下げて、っと)
ナスタシアさんも下げてくれた、
そして執事さんに贈り物を……
「デレス様、それは後で」「あっ、廊下ですものね」
「ご当主様との話が終われば、通されよとの場所がありますゆえ」
「そこはどこですか?」「はい、ニィナお嬢様の部屋にてございます」
奥さんの、
正妻の実家のお部屋くるううううう!!!
いや、僕が行くのか。