第747話 僕の下した試験結果とその後の行動
「ではクァイトくん、ランク試験結果を発表します!」
「はいっ!!」
緊張の面持ちで直立している、
後ろの猫獣人ふたりも心配そうに立っているな。
「結果は……結論から言えば準Cクラスです!」
「ええっ?!」
「ありますよねビークさん」「ああ、D+だな」
ニィナさんが一時期A+だったからね確か、
あんな感じで言ってみたが、どうやら大丈夫そうだ。
いや冒険者ギルド的には大丈夫でも、クァイトくんは……
「Aでは無いのか……」「スキル込みでの剣の腕はB+だけど、
単純な普通の剣技はDだよ、これでもオマケした方、見破られない相手に有効なのは事実だし、
見破った相手でもあの剣さばきは、でたらめなのに頑張っている方ではあるからね」
ただやっぱり、
ちゃんと基本は憶えた方が良い、
多分いままであの転移で有利過ぎて、あの剣技でもやれたんだと思う。
(最初からわかっていれば、ナスタシアさんにも勝てないだろうな)
逆に僕は油断し過ぎた、反省だ、
だからこそのオマケで準Cクラスという結果をあげた、
高すぎず低すぎず、冒険者ギルドとクァイトくん、両方のプライドを守ったつもりだ。
(ビークさんも頷きながらやってきた)
そしてクァイトくんの前へ。
「シャマニース大陸の救世主パーティーが下した評価だ、間違いは無いだろう、
もちろん冒険者パーティーを組んでの評価や、こちらからのクエストを消化していただければ、
いくらでもランクは上がって行くだろう、最初の評価としては上出来すぎると思うが、いや、思いますが」
あっ、剣をぎゅっと握りしめてる。
(ここは僕がフォローするかな)
ビークさんの隣へ。
「十五歳でD+はとんでもない逸材だよ、僕から見ても大したものだよ、はい拍手!」
僕がパチパチやると、
アンジュちゃんヘレンさんも拍手してくれる、
サキュバス達やビークさん、受付嬢、彼の後ろの猫獣人までポムポムと拍手。
「……この敗北感、初めてだ」
「良かったですね、それは成長のために大切なものです」
「やはりS級を指名して良かった、その強さの秘密を教えて欲しい!」
と言われましてもねえ……
(僕のハーレムのおかげです! だなんて言えない)
真似されて酷い目にあっても責任取れないからね。
「僕の場合は特殊な理由があって、ってまあ厳しい環境で無理矢理強くなった感じかな」
ハーレムに説明するような、
僕のNTR話とか彼にしてもしょうがない……
と思ったら地に両膝を着けて、頭を下げた?!
「レベル100勇者様! どうか、どうか弟子にして下さいっ!!」
「えっ、僕?! 転移が使えるならアンジュちゃんなんじゃ」
いやもちろんアンジュちゃんが教えられるかっていうとアレだけれども。
「……勇者は勇者に学ぶべき、完璧な勇者になって、人間の地位を上げたいんだ」
「あーうん、まあ言いたい事はわかった、でもまあ獣人や亜人を差別するような人はちょっと」
「教えてくれ、金なら家が出す!」「……うーん、子守りの仕事を受けていれられる程、暇じゃないからなぁ」
かといってベルグレイスさんに投げると、
上辺は『差別していた相手に教えを乞うて改心させる』みたいな美談になっても、
お互いに『させられている感』があって良くない気がする、やるならやっぱ面倒は僕が……でもなあ。
(そうだ、ここは!)
「ええっと、ウチには勇者のリーダーが居ます、もちろん人間です」
「本当か?!」「はい、あと剣技に優れる素早さ特化の勇者も居ます、こちらも人間です」
「強いのか!!」「もちろんです、今度ちょっと手合せして貰いましょう」「それで勝てば!」「どうでしょうね」
まあ投げるっていう訳じゃないけど、
ニィナさんあたりならもっと的確にアドバイスしてくれそうだし、
ナスタシアさんはもっと的確に対戦してくれそう、このあたり彼の秘密を先に言うべきかどうか……
「わかった、いつだ、いつだっ!!」
「我々も忙しいので、戻って相談して来られる日が決まったら、
それまで剣技と転移の組み合わせを磨いておいてください、あと獣人差別は無しで」
立ち上がって膝を払うクァイト。
「……鍛錬はいつもしている、このまま逃げたりは、しないよなっ?!」
「僕の方から連れてくるって言ったので、そのあたりは……」
ビークさんを見ると頷いている。
「ではまずはDで認定する、依頼をひとつでもこなせばD+で、後は実績次第、で良いですかな」
「わかった、そこからすぐに駆け上がる、が、次の戦いだ」
「とりあえず何か安全な依頼をいくつか用意致しましょう、では受付へ、皆さんも」
と僕らも連れて行かれる、
受付まで戻るとそこへ待っていたのは……
「デレスの旦那!」
「あっ、ベルグレイスさん」
「ちいとばかしまた、お願いがありやしてね」
と、後ろにずらーっと六人ばかり、
重傷の獣人達が……最後のひとりは息も絶え絶えで抱えられている。
「ええっと、ヘレンさん」「はい」
「あっ、ゴッちゃん(ゴッデスサキュバス)で」
「……かしこまりましたわ」「お任せ下さい」
ヘレンさんが直接治すのはなんとなくやめた方が良い気がした。
「すまない、本当にすまない、ありがてえ」
ベルグレイスの両隣で一緒に頭を下げる獣人がふたり。
「ええっと、おふたりは」
「おお、新入りでとりあえず俺が預かっているんだが、
こっちの狼獣人がパンコル、みっともない所を見せた方だ」
なんだか『てへてへ』って軽い表情やしぐさだけど、
強そうなのはわかる、いや僕らの襲撃で漏らしてた気もするが!
「どうもすいやせん」「パンコル、お前は四軍行きだ」「そ、そんなあ!!」
続いて反対側に視線を向けるベルグレイスさん。
「こっちはカラレス、見た目と違って肝が据わっている女だ」
「……栗鼠獣人のカラレスです、よろしくお願いします」
「コイツは一軍入りだな、平然としていたからな」「……動けなかっただけですよ」
いや、僕は見ていた、あれは動かなかった。
「ええっとカラレスさん、僕らを見て最初にどう思いました?」
「……とんでもないのが襲撃してきた、助からないから何人逃がせるか、と……
しかしそう構えた直後、殺気が、殺意がまるで無かったのとベルグレイスさんの反応で、安心しました」
うん、決して『動けない』なんてことは無かった、
いや確かにベルグレイスさんが頭を無理矢理押さえつけてひれ伏させてはいたけれども!
とか話しているとヘレンさんが。
「終わりました」
「おお、もうか!!」
「ええっとベルグレイスさん、確認ですが、僕らが来た時に治せるからって無茶は」「それは無い、誓って言う」
まあ、元々やっかいな、
相当危険な大陸だったからね。
「お待たせしました『ニィナスターライツ』の皆様」「はい」
「依頼料をお渡しします、あとお聞きしたいのですが……」
受付嬢が神妙な面持ちだ。
「はい、なんでしょう」
「鑑定ではわからなかったのですが、
この『超すっぱい飴』は食べた時、口が * になるのは、ちゃんと元に戻るのでしょうか」
黒仮面アンジュちゃんを見る。
「もちのロンリー! ちなみに『梅干しレモン味』でえっす」
「なら俺が貰おう、酸っぱいのは感じねえからな」
(ベルグレイスさんの口が * になるのも見てみたい気はする)
ということでシャマニース大陸でした、
近々ニィナさんとナスタシアさんを連れて、
いま受付が終わった勇者坊ちゃんと戦わせなきゃ。
(場合によっては、僕らの方で使い道が……!!)