第709話 大レース場の決戦と悪意を消す楽器
「あそこです、レース用の馬、ハイスピードホースを追いかけ回しています!」
ナツネェさんに案内されてやってきたここ、
『ウェストシップブリッジ』からそこそこ飛んできたのは、
センターマウント・レースコースという賭博用の大レース場だ、とにかく大きい。
(星空が綺麗、それはともかく!)
「よし、今回も三班に分かれての討伐だ、各班、逃がすなよ!」
「「「「「「「「「「「了解!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」
「承知した!」
……むしろ一体だけ逃げれば三身合体とかいうのが出来なくなるんじゃ、
とか一瞬、頭をよぎったが、あのコンビネーションを考えるとそれは無いか、
今回のチーム分けは……とか説明している暇は無いな、いや誰によ!
「旦那様、チャンスですわ、『シアー』だけではなく、『ゼノ』も『グラ』も、
前回の闘いから回復し切っておりませんわっ! これなら合体前に倒せるやも」
「そうなると一気に有利になるね、よし、まずは……『グラ』を集中攻撃しよう!」
アザラシはまだ待機、
ここぞ、という時に備えてコースの地下道に隠れて貰っている、
ちなみに僕はニィナさんから分離してアンジュちゃんに浮かせて貰っている。
「連射だよーーー」
アンジュちゃんもご機嫌で『ダークインテグレード』を連射、
僕も転がる光魔法を撃ちたい所だが、逃げまどうレース用の馬に当たりそうなので、
普通に剣の遠距離攻撃スキルで攻撃し続ける……うん、ここまでは順調だ。
(吟遊詩人の三人も、『ウィナーズサークル』とかいう場所で演奏してくれている)
なんでもあそこで勝った馬を中心に上位三頭が、
喜びの歌とダンスを披露するらしい、どんな馬だ。
それはともかく、みんなLv100を超えていて補助魔法が超マシマシだ。
(だからこんなに楽に戦えているんだな)
あっ、『グラ』が一旦、上空へと逃げに……しかし!
「承知しかねる!」
通常体の巨大な白いモフモフ、
ホワイトフロントベアード様がすーーいと追いかけて触手で捕縛、
それをなんと! 思いっきり投げて『ゼノ』にぶつけた、まとめて大ダメージだ!
「さすがですわベアード様!」「承知した!」
あっ、セクシーダイヤモンドゴーレム(こちらも通常体)に褒められて、
単眼がニッコニコしている! ゴーレムも寄り添って……いちゃつくのは後にしてくれないかな。
「旦那様、『シアー』が」
「あっ、ニィナさん達の方から来て、『グラ』と『ゼノ』を起こしているね」
そしてビンタだ、
気合いを入れている感じ。
「しっかりなさい、アイツらに復讐するんでしょう?」
「わ、わかっているわよ」「曲が邪魔なんです、曲が!」
ああっ、ちゃんと喋った!
ナツネェさんが両手を口に添えて叫ぶ。
「先輩! やっぱり先輩じゃないですかーー!
もうこんなバカなことはやめてくださーい!
今なら死刑は免れるように懇願しますからー!」
あっ、死刑なんだ、
まあこれだけ壊し続ければね、
僕らの知る限りは治してるから犠牲者は出てないはずだけど。
(死んじゃった人もハイトウさんが蘇生してたはず)
「ちいっ、あそこね」
あっ、『シアー』が吟遊詩人達に向かってビームサーベルを抜いて……
焼かれちゃう! あのサーベルで、吟遊詩人達が、
ぢゅううううううううって焼かれちゃうううううう!!!
「させませんぞっ!」
イワモトさんが『さすまた』一本で食い止める!
鮮やかな棒さばき、さすがは本職『警備員』いや、
タンク型アサシン、シアーを地上へ近づけさせない!
(グラとゼノも食い止められているな)
うん、グラはベアード様とゴーレムが、
ゼノはサキュバス達が食い止めている、
このまま行けば……と思った瞬間、敵ゴーレム三体から声が!!
「「「三身合体!!!」」」
ああっ、あれだけ抑えていた三体がその言葉で変形して、
空高く逃げて、合体した!!
そして関節や背中に開いた穴などから……!!
「さあ、お行きなさい!」
敵の声と共に大量の、
空飛ぶペンギンが殺気籠った目で飛び出してきた!!
「今だ、アザラシ達を!!」
「「「はいっ!!!」
育てに育てた46体のアザラシ達をテイマー(吟遊詩人含む)達が操る!
地下通路から出て24匹のペンギンを容赦なく食う、って食うんだー?!
「デレス様、アザラシはペンギンの天敵、
実はペンギンはアザラシの大好物ですわ」
「あっ、そうだったんだ、クラリスさん教えてくれてありがとう」
ちょっとグロいが容赦なくバルーンアザラシが敵のペンギンを食う、
ていうか魔石まで食ってる、倒した分だけまたも合体シアーから湧いて出るが、
こちらは物量が違う、出てきた先からまたアザラシが群がって……!!
「さあダペナさん、これを!」
マリウさんが吟遊詩人の所まで行き、
アイテムボックスから大きな何かを取り出した!
あれは、巨大魔石で造った……楽器?!
「えっマジー?!」
「MAINAさん、あれって」
「グランドピアノ、すんごいの造ったねー」
戻って来たマリウさん!
「あなた!!」
「えっとマリウさん、凄いですねアレ」
「あれで演奏すると、敵の悪意を弾いている間、消せるんです!」
ダペナちゃんが指をかけた!
「それでは聞いて下さい、曲目は『たしかに』はいっ!」
♪~
その曲に、合体シアーが苦しみだした!
「や、やめて、その音色は、やめてーーー!!」
「あねさん! ううぅ」「リーダー! くっ、頭が割れるうっ!」
効いてる効いてる、
ペンギンも尽きたのか出てこなくなった!
「よしアザラシ達、一斉に体当たりだ!」
「「「「「「もきゅーーーー!!!!!!」」」」」」
四方八方から合体シアーを攻撃して、
ゴーレムの身体を歪めて、破壊して行く!
破片が危ないな、と思っていたら……!!
ガキィン!!
「きゃあああっ?!」
大きい破片がグランドピアノにぶつかった!
あーあーあー、壊れちゃったよ、まずいな、
合体シアーは力を取り戻したのか、特大ビームサーベルを持って構える。
(さすがにアザラシは焼かれたくないな)
育ててないサモンとかと違い、
これだけ強くしたティムモンス、
無駄に消費するような事はしたくない。
(あっ、ダペナちゃんがショルダーキーボードを出した!)
そしてオトゥハさんと背中合わせに!
ダペナちゃんの声がレース場に響く。
「それでは歌も二人で練習しました、
聞いて下さい、ショルダーキーボード伝説の曲、
タイトルは……せーの!」
ふたり、声を合わせて……!!
「「夢を見たいから」」