第694話 海中無双と到着したのは
(外はいったい、どうなっているんだろう……??)
海中を進む僕ら、
あまり止まらず泳ぎ続けている所を見ると順調そうだ、
いや見るも何も僕の視界はニィナさんの豊満すぎるボディに埋もれてしまっている。
(いいのかなあ、完全にサボっているような???)
音は海中なのでくぐもって聞こえる、
はずなのだが例外的に吟遊詩人の楽器演奏だけはクリアに聞こえる、
そしてもうひとつの例外としては……
「資料によればルートはあっちです」
「一応、この枝道の先に宝箱があるようよ」
「♪さてさてさてさて ♪ジャングルの茂みで大宴会 ♪あそーれ」
人魚族の声はちゃんと聞こえる、歌も含めて。
猥歌(春歌)だけれども。
(ラギシーノさんがどんな顔で聞いてるかは、ちょっと興味がある)
まあ今の僕はみんなの能力や経験値を上げるアイテム状態だ、
いつだったか、マリウさんが僕のためだったら『生きたまま剣に加工されてもいい』とか、
恐ろしいにも程がある事を言っていたが、その線で行けば今の僕はニィナさんのガーターベルトか。
(あっ、ちょっといいかも)
天大樹の中にあった、
洗濯機とやらの中でぐーるぐるされるのは御免だけれども。
「ふむふむ、そうですねえ、その回収も致しましょう」
サリナミさんのこの受け答えは、
きっとニィナさんとかが喋っている(口パクかも?)のを、
アンジュちゃんだったかな、が字幕魔法とかで海中に映し出しているのだろう。
(よって会話は成立している、と)
気になるけど今の僕は大人しくしておこう、
どうしても何か主張したいとき(トイレとか)は、
ニィナさんの腰を三回叩く事になっている、ただ、余程の場合だ。
(ちなみにお尻を叩くと後で恐ろしい事になるらしいよ!)
ちょっと想像して、
怖くなってやめた。
(……あっ、水から上がった)
なんとか顔をあげるとニィナさんの顎が見える、
その上のライト魔法に照らされた洞窟内をちらっと覗くと、
どうやら途中に浸水していない道があったみたいだ、それが今居るここ。
「ふう、やはりシャドウ系がしつこいな、ヘレンの方は無事か」
「はい、人魚族の皆さん、やはり水中だと素早くて……それよりも、
シャドウ系は海中に長期間居るとそれに適した魔物に進化するそうですわ」
……ちょっと喋ってみよう。
「だったら早く、全て倒してしまわないとやっかいですね」
「ぼすのおっぱいが、しゃべったーーーー!!」
「アンジュ落ち着け、あとデレス、私の胸がくすぐったいのだが」
うん、黙っておこう。
(ニィナさんにお仕置でくすぐられたら、多分持たない)
何がかは言わないが。
「……あっちに仲間が居るわ」
「何?! カウミ、どこだ……その石像か」
「確かコロンクだわ、石化解除、お願い出来るかしら」
声だけ聞こえている状態だけど、
海から上がった所で這って進もうとした所を、
ラミアの石化にやられた感じかな、隙間から魔法の光を感じる。
「……はっ?! 俺は……いったい」
「コロンク、私よ、カウミよ、助けに来たわ」
「おお、ありがとう! ……あっ、奴隷の人間、という事は」「噛んじゃ駄目よ」
あっそうか、
脱走した囚人は遠慮なく食って良い事になってるから、
首輪をつけているって事は……という理論はわからなくも無い。
「よしデレス、パーティーに入れてやれ」
「あっはい」
(三回叩かれた、とりあえず前を向こう)
という事でようやくまともに外を見れた、
といってもニィナさんのマントの中なのは変わらないけど!
そしてコロンクさん、男前だなあ、と思ったら笑ったギザ歯がやはり怖い。
(とまあ十人目のパーティーメンバーに入れました!)
そして見ると膝上くらいまでは水面があるな、まだここ。
ってニィナさん基準だから僕だと胸くらい、は言い過ぎかな?
とにかく人魚族の男性を回収して更に先へ、あっラギシーノさん濡れてもお美しい!
「さあ戻れ」
「はいっっ!!」
僕の視線に気づいてか、
ニィナさんに命令されて再び顔をうずめる……
そして進んで行ってまたもや海の中へ。
(ニィナさんがダメージを受けたら、ヒールかけてあげたいんだけどなぁ)
おそらく周囲のサモンやティムモンスター、
更には素早さ自慢の人魚族が頑張ってくれているのだろう、
あと何気にクラリスさんの光魔法がちらちらこちらに眩しく見える。
(……と思ったら静かになった)
ひと段落ついたのかな、
真っ暗な中に戻った、静かだ……、
ふと目の前を見ると文字が浮かび上がった!
『ラギシーノさんは三十一歳』
これまた微妙な情報を……アンジュちゃんめ!!
(思ってたより若いな)
正直、さすがに四十代ならどうしようかと。
などと泳ぐニィナさんに全身でくっついたまま、
叩いて呼ばれる事も、叩いて呼ぶ事もなく時は過ぎ……!!
(あっ、ニィナさんの動きが激しくなった!)
感じからして島の外へ出た感じかな、
なんとなく海流も激しくなった気配がする、
マントのなびき方が違うからね、うん、隙間から敵が見える。
(海中でもライト魔法は万能だぁ)
ちょっと僕もいたずらに攻撃を、
と思ってもぞもぞするとニィナさんにぎゅううううっと抱きしめられる!
大人しくすると力が抜けた、そしてまた激しく動き始めた。
(邪魔しないようにしよう……)
そうこうして体感で二時間くらい?
一度だけ目の前に『寝ちゃった?』って文字が現れた以外、
僕的には特に何もなくしがみついているとポンポンポンと三回叩かれた。
(ふう、胸元から解除された)
目の前には字幕魔法が。
ニィナ「デレス、もう落ち着いたぞ」
クラリス「島の周囲の敵は粗方終わりました、まさに海中無双でしたわ」
アンジュ「ちくろ大明神」
ヘレン「準魔王クラスも居ましたわ」
ナスタシア「魔石が海流で流れて行ったのを人魚族の皆さんが追いついてキャッチを」
ナタイラ「デレス様、寂しくありませんでしたか? 私は寂しかったです」
何気にアンジュちゃんの『ちくろ』が気になるが、スルーしておこう。
デレス「ニィナさんとくっついていた訳ですから、寂しい訳がないですよ」
……いけね、ちょっと失敗したかな、
これだとまるで『ニィナさんだけ居れば良い』みたいになるな。
デレス「ただ、やはりみんなと一緒が楽しいです!!」
これで何とか側室のフォローは出来たかな、出来たって言って!!
「そんなことよりも、こちらへ」
あ、今のはサリナミさんの地声です、
って『そんなこと』ってー!!
見ると大きな門、でも魔王部屋の門とは造りが違うな。
「私達の、本来の棲家よ」
こんな時でもなぜか決めポーズのカウミさん、
そしてコロンクさんと一緒に開くと……うん、人魚族の街だ、
まずは僕らから先に入り、後からサモン等が……魔物が前や同時だとびっくりするからね。
「早く、早く入れーー!!」
「あっペリエル、違うの、これはサモンとティムモンスよ」
「そ、そうか、全部か?!」「全部よ全部!!」
早速、勘違いさせたみたいで、
サリナミさんがちゃんと説明をしてくれた、
最後方は知らない海の魔物だけど、これラギシーノさんのティムモンスターか。
(色々な種類が居て気になるが、後にしよう)
さて、煌びやかな岩場の街だけど、どこへ行けば良いのかな。
「こっちよついてきて、宮殿にご案内するわ」
ついて行くと見えて来たのは……!!
デレス「おおー、岩のお城だー!!」
うん、文字も大きく表示されちゃったね。