第7話 新騎士団長と鋼鉄のバーサーカー
とりあえず内緒にしておこう、と受付嬢も交え話は終わり、
冒険者ギルド地下の素材置場でありったけの魔石や魔物を置いてくる、
かなりの数のモンスターで魔石の取り出しも手伝っていたらかなり時間を要した、
最後に勇者受付へ戻り大量の金貨を貰った所だ。
「これでようやく夕食にありつけるな」
「ワイバーンの肉は早速、ギルドの食堂に運ばれたみたいです」
「ならせっかくだ、食って行こう」
昨日ニィナさんがぐでんぐでんに酔っぱらってクダ巻いていた食堂兼酒場、
まだ表にはワイバーンの肉入荷とかそういう告知はされていないが、
奥の厨房からは美味しそうな肉の焼ける匂いが漂ってくる、さっそく作っているようだ。
「いらっしゃい、さっきワイバーンの肉が入荷したぜ」
「ではそれを早速いただこう、パンやスープは適当に頼む、デレスは」
「僕は肉はいいです、高級薬草サラダとモロコススープで」
席に座るときにベルセルクソードを隣の椅子に立てかけるニィナさん、油断してない。
店員が注文を取り終えると入れ替わりみたいにして背が高く恰幅の良い剣士がやってきた、
ニィナさんと同じくらいの身長、あの白い装飾の服は国の衛兵だなとわかる、三十代中盤かな、なかなかシブい感じ。
「失礼、そこの居るのは鋼鉄のバーサーカーではないか」
「……はて誰だったかな、騎士団を退役してその頃の知り合いは全て忘れてしまってな」
「昨日まで上官だった者にそのような失礼を言う女だったのかニィナは」
やはり騎士団の偉い人か、僕に一言失礼と断りを入れたあたり、きちんとしてる人なのはわかる、
とはいえニィナさんが瞬時に無表情になった所を見るとあまり、いやかなり会いたくない人らしい、
鋼鉄のバーサーカー……ニィナさんの二つ名か、うん、あの戦い方や今のこの表情を見るとすごくよくわかる。
「もう副団長と部隊長の間柄では無いからな」
「ならば話は早い、先ほど深淵の森から戻った団員から聞いたのだがな、騎士団を辞めた女勇者がポーターを連れて奥へ入ったらしい」
「……その言葉からすれば該当者は私以外いないようだが」
あー、ポーターバッグを背負ってたから僕の事もしっかり報告されてる。
「いや一般の冒険者もきちんと冒険者ギルドで行くと告げていれば問題は無いのだが、まさか騎士団しか立ち入ってはならぬ場所に行ってはいまいな」
「さあどうだか、縄が張ってあった訳ではないし、なにぶん、冒険者としては新人でな、そのあたりは疎いのだ」
「多少は大目に見るさ、元騎士団員ならなおさらだ、だがな、奥にある未調査のダンジョンに入っていたりはしないよな?」
ぎくり!という顔をしたであろう僕を見逃さない偉い人、今度は僕に話しかけてくる。
「申し遅れた、我はアイリー王国の昨日付で騎士団長となった、テレンス=ナムバンだ」
「ど、ども、どうも、僕はデレス=アヴァカーネです、いや、デレスです」
「ではデレス殿、そこの女勇者と共に、封印されていたダンジョンに入った記憶は?」
屈んでズイッと顔を寄せてくる、こ、怖いよ。
「ええっとダンジョンには入りました、でもずっとニィナさんの背後に居たから、何をやってたのかはわからなかった、です、はい」
「それだけで結構、よくわかった」
無表情でまさしく鋼鉄といったモードのニィナさんに迫るテレンス。
「今日明日にでも調査すればわかる話だ」
「ほう、そういう話であれば私からも話はある」
「なんだ?今からでも我との婚姻を受け入れるのであれば不問にしてやるぞ?」
婚姻って!この人、ニィナさんにプロポーズしていたのか?!
「この王都の周りに出没してなかなか捕まらない通称『影の盗賊団』のリーダー格、二か月ほど前に獲り逃がしたことがあってな」
「ああ、あれはもう一歩の所だったな、我とニィナが挟み撃ちする所だったのだがいつのまにか消えてしまっていた」
「あやつと同じ声の男どもに昨日の夜、この店から出た後をつけられて襲われたのだ」
あいつら盗賊団だったのか。
「そんな事があったのか?我は何の報告も受けておらぬぞ」
「幸いにもこのベルセルクソードが倒してくれたから良かったが、酒の廻りがもう少し強ければ危なかった」
「剣が勝手にか?ふんっ、どうせ夢か酔った幻覚だろう、そのような痕跡すら無いだろうな」
ええっ、でも全員、ひとり残らずのしたから、
衛兵がちゃんとあの後、捕まえてくれたんじゃ?あれだけ派手にやって夜遅くとも目撃者が居ないとか考えられないし、
あっ!そういえば一人だけ逃してた!奥に引っ込んで出てこなくて、ついても来ないからスルーしたけど、あれが全員治療してればさっさと逃げられてるかも?
「ところで貴様の所の部隊員、アマトとケーズとピエールとキリオはどうしている」
「……騎士団の事は忘れたんじゃなかったのか」
「アマトは右腕と腰を、ケーズは頭部と左肩を、ピエールは背中を、あと口の中も切っていたな、キリオは股間を痛めていたはずだが今はどうしている」
「いったい何の事だ?」
「襲われた時にベルセルクソードが倒した黒ずくめの連中のなかに、その四人に動きや戦い方が同じヤツがいてな」
そんな所まで薄目で見ていたのか、思いっきり意識はっきりしてるじゃないか……
「確かに怪我はしているようだが」
「面白かったぞ、ベルセルクソードに弾き飛ばされたキリオのような男が、股間を魔光灯の柱にぶつけて悶絶する姿は」
「……そいつらが、俺の部下が盗賊団の一味だったと言いたいのか?
「いや、私が言いたいのはその連中を指揮していたであろう、ずっと奥で見ていた勇者らしき男の存在だ」
「すなわち盗賊団のリーダーは勇者だと?それは面白い情報だが夢の話はそれくらいにしてもらおうか」
あー見えてきた見えてきた、襲ってきたのは盗賊団とこの新騎士団長の部下か、とすると指揮していた勇者って?!
「新騎士団長こと勇者テレンス殿、そろそろ食事が来るので本題を簡潔にお願いしようか、ダンジョンの話が本件ではあるまい」
「うむ、本当に冒険者として生きていくのか確認したくてな、我に嫁げば命の危険を晒すような冒険者稼業なんぞしなくて済むぞ」
「断る、騎士団を辞めさせられた以上、私が食っていくにはこれしかない、良い機会だ、世界を旅して周ってみたい」
「許可が下りると思うか?元アイリー騎士団員の勇者は出国が制限されている、いかに中立の冒険者ギルドでもそれは止められやしまい」
「そんな事を言っても国境を全て見張れる訳ではないだろう、出国だけなら簡単だ、大陸間移動ならまだしも」
うん、それで僕もちょっと苦労した。
「何ならさっきの件で今すぐ拘束しても良いのだぞ?」
「ならば私も先ほど話した夜盗の話を詳しく城へ持って行くが」
「……よし賭けをしよう、そこの男、デレス殿が明日のポーター試験に受かれば自由にして良い、出国も我が認めよう」
「なぜ知っている、まあいい、デレス、どうする?」
「えっ、ポーター試験って、手続きみたいなものですよね?」
そして冒険者ギルドは各国共通、全世界で中立、公平……
嫌な予感しかしないけど、ニィナさんが自由になるのであれば!
「わかりました、『僕が明日、正式なポーターになればニィナさんは自由に出国できる』これでいいですか?」
「うむ約束しよう、そしてそれが叶わなかった場合、ニィナは我が貰い受ける、すぐさま婚姻してもらおう、ニィナ、良いな?」
「……デレスを信じる、わかった、そのかわりテレンス騎士団長殿も約束は守ってもらうからな」
満足そうにのっしのっしと帰って行くテレンス……
そうか、昨夜の襲われた一件はアレの仕業だったのか。
見るとまだちょっと鋼鉄な、硬い表情のニィナさん。
「デレス、やっかいな事に巻き込んでしまって済まない」
「いえ、何をたくらんでいるかわかりませんが、僕にできる事なら」
「いざとなったら私が何とでもするから、デレスは明日はとりあえず好きなようにしてくれ、テストが中止になったりしてなければ良いのだが……」
食事が運ばれてくる、ニィナさんにはまず前菜、僕には頼んだ全てが来た。
「さてデレス、さっき苗字を言っていたが、貴族の出なのか?」
「はあ、まあ、そういう風な感じといいますかなんというか」
「……今夜は宿で色々聞かせてもらわないといけないな、デレスの事を」
うん、さすがにもう話さないといけないな、
僕が今日、ここまで来た道のりの、全てを……。