第6話 バレバレ勇者と驚愕のレベルアップ
「ななな、な、なな、なんのことですか?
僕、単なる新人ポーター見習いですよ?」
「……本気で言っているのか、それともふざけているのか、
どちらか教えてくれ、それによって対応が変わる」
「えええええっと、その、どこで、わかりました、か」
痛いものを見る、可哀相なものを見る目をしたあと目頭を押さえるニィナさんに、
僕は白状するしかなかった。
「最初か? 私のベルセルクソードはな、勇者にしか抜けないようになっているのだ」
「あっ! じゃああの時、ひょっとして酔いつぶれてはいなかった?!」
「ある程度酔ってはいたが意識はハッキリしていた、何もかも全て薄目で見させてもらっていたぞ」
じゃ、じゃあひょっとして最初から、酔っぱらいの演技を? 何で??
「で、でもたまたま何かの拍子でうっかり抜けたとか、
ほら、まともに剣を振れなかったじゃないですか!」
「ベルセルクソードで狙った相手を攻撃できたのは、
私とお爺様以外、他人ではデレス、君が初めてだ」
「あーそういえば勇者の魔力を注ぎ込んだから、
かろうじて動かせた感じではあったんだけど……」
じゃあもう言い逃れようがないか。
「それと君が宿で提出した勇者の冒険者カードもしっかり見させてもらった」
「い、意識がはっきりしていたなら、受付嬢の声も聞こえていましたですものねっ」
「あと勇者独特の魔力というのは肌と肌が触れ合えば感じ取れる、特に体温が高ければな」
こんな所でそんな事を言わなくても、と顔が熱くなる、
いや誰もいないけど!
「最後にわかっているとは思うがはっきり言わせてもらおう、その拡張機能のないポーターバッグに、
あれほどの魔石やグレートサイクロプスの死体が入る訳ないだろう、アイテムボックスを使っていたのはバレバレだ」
そういや宿で受付嬢に冒険者カードを出すときも使っていたから、見られていたんだろうな。
「ええっと、すみません」
「なぜ隠す?」
「ポーターとしてイチからやり直したかったからです」
「なぜやり直したいのだ?もったいない」
「男のプライドというか、ちょっと違うか、過去を吹っ切りたいというか……」
僕の頬をそっと撫でるニィナさん。
「詳しく話してはもらえないか、ここなら誰もいない」
「えっと、多分泣いちゃうから、できれば宿で」
「そうか、では帰ろう、長そうな話だからな」
――地上に出ると日がかなり傾いている、
攻略したダンジョンは扉が開きっぱなしになるのでわかりやすい、
このまま朽ちて崩れる事もあれば月日を置いてまた新しい魔物のボスが現れる事もある、このあたりは謎だ。
「さあ急ぐぞ、遠慮くなく勇者魔法を使え」
「実は、こっちへ来る時にすでにラピットペースの魔法を」
「無詠唱でか?! だとすると相当の高レベルだな、なるほど、昨日の夜もその魔法を使ったか」
「べ、ベッドでは使っていません! だから早かった訳では」
「何の話だ? 宿へ向かう途中に暴漢に襲われた時の話だぞ」
そ、そっちだったかー!!
「あれは、バウンドアタックの魔法です、相手に衝撃を与えてその反動を利用しただけです」
「レベル四十五魔法とレベル五十五魔法か、ということは索敵スキルも」
「はい、レベル五十で習得しました、だから後からつけてきて囲まれたのに気付きました」
あれ? ニィナさんのレベルって、そこまで行ってない?
と見てるとアイテムボックスにプリンセスソードを仕舞い、ベルセルクソードを出して背負った、
急いでるならそのでかくて重いのを背負わない方が、と思わなくもなかったが帰り道だって敵は出るか。
「まあ良い、さあ行こう」
「はいっ!」
僕も形だけのポーターバッグを背負ったままだ、
結局、中のポーション十本は使わなかった、でもポーター気分は味わえたので良しとしよう。
……しばらく駆けているとオーク集落のあった地点に何やら大きな魔物の影が沢山うごめいている。
「デレス下がれ、ワイバーンの群れだ」
「あー、オークの死体を十匹くらいであさってる」
「餌に喰いついてくれたようだな、ワイバーンほどの大物は想定外だが」
「じゃあわざと放置してたんですか」
「もちろん処理が面倒くさかったのもあるがな」
運が良ければっていうやつか、良すぎだけど。
「一緒に剣を振るうか?」
「いえ、僕はあくまでポーターなので、という事でいいですか?」
「ああ、仕事さえきっちりしてくれればな、行くぞ!」
僕はそう言いながらもありったけの勇者補助魔法をかけてニィナさんを助ける、
ひとりでワイバーン相手に無双するニィナさん、ベルセルクソードが日の影で翼に見えた、
敵の激しい攻撃も避けようと思えば楽に避けられるようで、あっという間に綺麗に首を刎ね終えてしまっていた、全部。
「……これは相当な金になるな」
「金貨十枚って所でしょうか、またあそこに泊まれますね」
「いや、今後のために節約しよう、さあ早くしないと帰りのドラゴンが帰ってしまうぞ」
互いに半分づつワイバーンの死体を回収し再び駆け出す、
日が山の後ろに隠れた頃にようやく到着すると騎士団が冒険者を並べて何か尋問している。
「ニィナさん、あれは?」
「ああ、ここ深淵の森は立ち入り禁止区域や保護対象のティム禁止モンスターも居てな、疑わしい奴でもいたのだろう」
「こっちにも来ちゃいましたよ」
でも雰囲気が違う、と思ったら並んでニィナさんに敬礼して戻っていった。
「お知り合いですか?」
「もちろんそうだが、まだ私がクビになった事を知らないようだ、今のうち帰るぞ」
「あっ、行きのときのドラゴンの操縦士さんが、あくびして待ってる!」
銀貨十枚渡すと喜んで飛ばして乗せ帰ってくれたのだった。
すっかり夜になり冒険者ギルドへ戻る、
まだそこそこの人が並んでいるが僕らは空いている勇者専用窓口へ。
「お帰りなさいませ、無事の御帰還、お疲れ様でした」」
「ああ、魔石は集めてきたがワイバーンやグレートサイクロプスも狩ってな、それらも売りたい」
「まあ! グレートサイクロプスといえばダンジョンの準幹部クラスではありませんか! その素材をいただけるのですね」
冒険者ギルドでは魔石だけではなく魔物の死体も使い道があるものは買い取ってもらえる、
サイクロプスなんかはその目玉が何か特別なポーションの貴重な材料になるんだっけ、
あとベルトもレア装備だ、棍棒はまあ、それなり。
「あとレベルの確認をしてくれ、上手くいけばデレスもかなり上がっているはずだ」
「あっ!ポーターのレベル1からですからね、楽しみです」
冒険者カードは身に着けている冒険者の成長を読み取り数値で表示しれくれる、
ギルドにある水晶を通す必要があるが、その戦って増えた数値がレベルと呼ばれるものだ、
渡されていた仮のポーターカードにも、もちろんその機能は備わっている、さあ、レベルは……?
「え? え? え?」
勇者専用受付嬢が目を丸くして水晶を見ている、
背伸びして覗きこんでみると……レベル十七? たった一度のクエストで??
「どうだデレス、驚いただろう」
「どういう事ですかこれ?」
「私は個人レアスキルとして、パーティ仲間のレベルを倍、速く上げる事ができるのだ、
ポーターの上がり具合の基準は知らなかったが、かなり驚くべき成果だと思うぞ」
「ええっと、その……その個人スキル、僕と一緒ですね」
「ん?ん?んん?」
「ニィナさんもレベルを見てみてくだい」
水晶に冒険者カードを通すと……
「おいどういう事だ! レベル三十二だったはずが、三十五になっているぞ!」
「えええーーー?! そ、それは上がりすぎでは」
驚く僕らの前でポカーンとしている受付嬢、
勇者のレベル30台は前半でも、通常だとひとつレベル上げるのに二、三か月はかかるのに!
「……デレス、考えられる事はひとつだ」
「はい、なんでしょう」
「おそらく同じ個人スキルの能力が二人合わさって、倍どころか何十倍にもなっている」
そんなことって……!!