第559話 とある異世界転生者その二 六本木舞奈(18)女性・オタクにやさしいギャルの場合 後編
(……真っ白な世界、ここがあの世なのかな)
死期が近づいた時、
お母さんが呼んだお坊さんだかが『輪廻転生』どうの言っていた、
だとすると私は、これから生まれ変わるのだろうか。
「……気が付いたピヨね」
「えっ、『ピヨ』って?!」
「私は神様の使いピヨ、ピヨピヨピヨ……」
何かどこかで聞いた事のある声、
目を凝らすと緑の髪に緑の制服……?
これは事務員服だわ、そしてこの人、見た事ある!
「あっ、オタクの友達から無理矢理やらされた、
スマホのリズムゲームに出て来た、年齢がイっている方の事務員さん!」
「それはあんまりな言い方ピヨ、まだ設定ではぎりぎり二十代のはずピヨ」
胸の黄色い大きなリボンと黄色いカチューシャ、間違いない。
「確か名前は、お、と……」「それ以上はいけないピヨ!」
なぜか止められてしまった。
「その、なぜ」「私の事は『ピヨちゃん』と呼ぶピヨ」「はあ」
確かにピヨピヨ言ってるし。
「十八年間、お疲れ様でしたピヨ」
「……ありがとう、私、精いっぱい生きたよ」
「そこで神様から、エクストラステージを用意したそうだピヨ!」
……何の話だろう。
「私、ステージって聞くと、ダンスのステージを思い出すんだけれど」
「似たようなものピヨね、生前に遊んでいた『バビロバルズタワーズ』は、憶えているピヨ?」
「えっとうん、師匠もやってたし、無課金だったのにオタクの友達がいっぱいアイテムくれたから憶えてる」
私が死ぬ少し前にサービス終了しちゃったんだっけ、
もうその頃はゲームなんて、とても出来る状態じゃなかったけれど。
「我が創造主様、神様のコトね、そのお方がそのMMORPGをいたくお気に入りで」
「そうなんですか」
「しかも、とあるアイドルゲームとコラボしたような状態で、新しい世界で続いているピヨ!」
じゃあ、まだ遊べるんだ、
AYUサマが何かメモでも残してくれていたら嬉しいな、
もちろんオタクの友達のみんなも。
「それで私は、どうすれば」
「その世界に、生前の、前の世界の記憶を持ったまま入れるピヨ、
ただしサモン、つまり『召喚される異世界人』として行くことになりますピヨ」
あっ、私は興味無かったけど確かにサモンシステムってあった!
オタクの友達が変な動きのするダチョウみたいなのを見せてきて、
ゲーム内で踊らせていたっけ、私もそれに合わせてキャラクターを、自分を踊らせた。
「召喚するのは、誰ですか」
「ゲーム内のキャラクターピヨ、とはいっても『バビロバルズタワーズ』に出て来たキャラクターではないピヨ、
モンスターとかは共通だけれども地名や人物は違うピヨ、神様、創造主様のオリジナルとなるピヨピヨ」
つまり、私が召喚される、使われる側になるのね。
「その、何と言う名前でどういう人かは」
「まだ決まっていないピヨ、ただし相当に強いキャラクターでないと召喚できないように設定しているピヨ」
「強い人、ですか」「運次第ピヨ、召喚されて即、殺されたりしたら次の来世では、その分しっかりフォローするピヨ」
そんなおっかない人に召喚される可能性があるんだ……。
「ただし、逆に召喚先で、新しい世界でちゃんと真面目にやらないと、
次の転生は人ではない物となるペナルティが与えられるピヨ」
「それは、例えば」「オガサワラアブラコウモリとか、クリスマスアブラコウモリとか、ミヤココキクガシラコウモリとかピヨ」
コウモリ限定なんだ。
「どうするピヨ、嫌なら普通に地球で転生ピヨ、もちろん記憶は消すピヨ」
「その、なぜ私なのでしょうか」
「神様は『バビロバルズタワーズ』の高レベルプレイヤーで、アイドルを目指していた子を御所望ピヨ」
……私はダンサーになりたかった、
もちろんアイドル的な要素も無くは無いというか、
オタクの友達に「アイドルも良いんじゃないかなふごふご」と言われて頷いた覚えがある。
「……その世界では、ダンサーとして踊れますか」
「もちろんピヨ、ゲーム内でのキャラクター、職業:踊り子レベル72のままピヨ」
「外見はゲームのキャラクターになったりは」「人間の姿、前世の現実の姿そのものでピヨ、もちろん健康体ピヨよ?」
だったら、うん、遊ぼう!
「わかりました、私、行きます!」
「では契約成立ピヨ、第二号ピヨ、行った先に先輩が居るピヨ」
「異世界人、つまり私と同じ……」「日本人ピヨ、あと部屋に贈り物があるピヨ、受け取るピヨ、ピヨピヨピヨピヨ……」
こうして私は目の前が真っ白になって……どこかへと吸い込まれだ。
(……はっ、ここは、街?!)
普通の街並、だけれどもどこか違和感がある、
見上げると空、でも普通の空じゃない、作り物の空、
建物は普通だけれども静か、そして目の前に歩いて来たのは……警備員のおじさん?!
「どーも、私が先輩です!」「あっはい、後輩です、よろしく」
「名を岩元輝幸と申します、以後、お見知りおきを」
「六本木舞奈です」「ギロッポンですな」「はぁ」
この世界の警備でもしているのかな。
「神様から案内するように言われていましてな、住居はあちらですぞ」
「木造アパート……贅沢は言えないか」
「二階が女子寮になってますゆえ、安心したまえ!」
……じゃあ一階が男子寮?!
逆に心配なんだけれど、まあいっか。
(人の良さそうなおじさんだし)
「まずは裏手の公園からですな」
「あっ、ダンスの練習できそう!」
「そのスウェットですと、なおさらですな」
えっ?! と見ると、
私は確かに……ここで初めて服装に気が付いた、
病院服や白装束でなくて良かった、と思っておこう。
「自動販売機はこちらに」
「スポドリあるじゃん、あれっお金あったっけ」
「通帳とカードは部屋のようですぞ、困った時はあちらの交番へ」
うっわ、真っ黒くろすけなポリスが居る!
影のオバケだ、夜にダンスの練習してたら怒られないかな。
「引き出す先の銀行は、こちらですぞ」
「あーーー、これ、うん、姿見になる」
「確かに顔は、姿は鏡のように見られますが」
夜になったら照明の角度からして良い鏡になりそう、
師匠のAYUサマも昔、夜通し銀行のガラス前で練習してたって聞いたし!
(この世界にまだ二人しか居ないなら、邪魔にならないよね?)
「中は見て行かれますかな?」
「ん~、後にしていいカンジかな~」
「では続いて無人販売所と銭湯を……」
こうしてイワモト先輩に色々と教わって、
一周してアパートへと戻ってきた、中へ入り、
管理室の説明……持ち回りってふたりだから一日おきじゃん。
(ま、別にいいケド)
今は身体を動かせられる事が、嬉しい。
「では二階へドーゾ、私は上がれないゆえ」
「そうなの?」
「試しに階段を上ったら、いつのまにか下っておりましたゆえ」
二階に着くと突き当りが女性専用お風呂場、
中は洋画に出てくるようなバスタブがひとつ、
ひとりで入るには普通の大きさだから、当分はここで良いかな。
(そしていよいよ『六本木』と書かれた私の部屋だわ)
入ると部屋の中央に置いてあったのは……!!
「これ、ニット帽とブレイクダンス用のシューズ!」
そう、師匠のAYUサマからいただいた帽子と、
友達のオタクたちがお金を出し合って買ってくれたダンスシューズ!
きっと火葬で一緒に燃やされたのかな、だからついてきてくれた……?!
(壁にはなぜかセーラー服が、もう着ないのに)
あっ、死んじゃったの三月だからまだ一応、高校生か。
「……あったあった、机の上に通帳とカード」
あとデスクトップのPCもある、
あとできればAYUサマやオタクの友達と撮った写真……
それはさすがに無いのかな、うん、心の中にあるからいいや。
(ええっと、起動して、っと……あっ!!!)
その画面に映し出されたのは、
卒業式の日、桜をバックにみんなで記念撮影した写真だった!!
「これが壁紙に……あぁ、神様……ありがとう」
私の両目からは、涙があふれて止まらなかった……。
(さあ、召喚された時に力を出せるように、ダンスの練習、頑張ろう!!!)
回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回
「……という感じでこの世界に来たんだ~、
後は召喚の転移テストがあったり、第三、第四の異世界人が住みに来たり……」
「そうだったんだ、でもいま着てるのはレオタードだよね」「こっちの方が切れがあるからさ」
一度、セーラー服とかいうのも見てみたいな。
「あっ、それでMAINAさん、亜空間での食事は」
「最初は大変だったよ、ネット注文のジャンクフード食べ過ぎちゃって太って」
「声優の、しー○○サンみたいになっておりましたな!」「イワモトさん?!」
なぜだろう、ちょっと寒気がした、
悪い予感というか触れちゃいけない事柄的な。
「大丈夫、ダンスの時にはちゃんとコンディション合わせるから」
「あっはい、よろしくお願いします……それよりこのデザートの『くんたま』とやらですが」
メイドの方を見る。
「はい、なんでしょうか」
「別の、デザートのデザートを下さい!」
「ボクもボクもー」「御主人様、私も」「私達もですっ!」
うん、さすがニィナスターライツのメンバー、息がぴったりだ!
「あのデレスさん」
「はいモグナミさん」
「コモモか天大樹の実を出されては」
あー、うん、でもやっぱりほら、
現地のデザートを食べて見たいからねっ!!
「メイドさん、キカエデ特産のちゃんとしたデザートを」
「かしこまりました」
そして出てきたのはというと……!!
「ってピーナッツかよっ!!!」
どんだけお酒のおつまみが好きなの、この国は。




