第557話 姫姉妹の決意と異世界人の決意
「きましたきました、きまくりあがっています!」
「あ、アンジュちゃんおかえり、かな? いらっしゃい、かな?」
「どーでもいーよー、そんなことはー」
ギャルモードだかギャルコーデだかいうアンジュちゃんが、
学校が終わったようで夕食を頂いているキカエデ城までやってきた、
後ろは召喚異世界人、イワモトさんとMAINAちゃんだ。
「で、アンジュちゃん学校はどうだった?」
「くんずほぐれつ、だったよ」
「ええっアンジュちゃんが?!」「ううん、シューサーくんがー」
いったい何が?!?!
「まさかアンジュちゃん、シューサーくんにNTR……」
「デレスくん、ひがいもーそーやめてよー」
「じゃあ、ちゃんと説明して!」
メイドがアンジュちゃん達にお水を持ってきてくれた。
「あの、三人分のお食事を追加いたしましょうか」
「おねがいてぃーちゃー」「いやその、私はメイドで」
「あっすみません、この子、まあ気にしないで下さい」
説明がいろいろとセンシティブだ、
用意された椅子にイワモトさんたちも座る。
「デレスくんデレスくん」
「なあにアンジュちゃん」
「なにたべてるの」「ああこれ、豆腐ステーキだよ」
そう、この城下町を治したり怪我人を治療したお礼にと、
まだみんな大変なのにどうか夕食をご馳走させてくれと言われて、
名物料理を出されたのだがこれが濃い、なんというか、クセがある。
(馬肉にメンタイコとかいう辛い卵巣? あとオークの内臓の煮物とか)
「みんな、食べてくれているようだな」
「あっフリックさん、軍のお偉い方がわざわざ」
「相手はS級冒険者様だからな、それより先方と調整がついたぞ」
ええっと、先方って?!
「どこと話をしたんですか」
「魔王バドリンとだ」
「えええええ」「ちなみにもう音符は投げないそうだ」
話、通じる相手じゃん!!
「それで何と」
「ああ、本来いちどに参加できるのはパーティーの人数だけ、つまり八人までだが」
「はい、それを僕のスキルで可能な十人にしたいとお願いしましたが」
ルルノジョさんは、
出来るか調べてくるって言ってたなぁ……
ちなみに今は特訓疲れで腰に湿布を貼って貰っているらしい。
「うちの衛兵がバドリンに直接聞いたんだが」
「いいんですか、危険は」
「ダンスバトルの打ち合わせという名目があれば普通に会話は出来る」
不意打ちとか心配しないんだろうか。
「返事はどうでした?」
「バドリンは『スキルならしょうがないね、予備のブースふたつ並べておくよ』だそうだ」
「予備って……でもまあ、十人で戦えるんですね」「ああ、期待している」
と話しているうちにアンジュちゃんたちにも料理が、
御飯が山盛りだ、うん、サラミとチーズの盛り合わせなんてのもある。
「それにしてもポーターの坊や、今日は坊やなんだな」
「今更そんな、元から男ですよ、あれはまあ、粗相をした罰で」
「肉は嫌いなのか」「量を食べないだけで、もちろん野菜の方が好きですが」
ちなみに豆腐ステーキの付け合わせは、ふかしニンニクである。
「我がキカエデは音楽都市であると同時に美酒の国でもある、
食事は、おかずは必然的に酒の肴ばかりになるっていうもんだ」
「あー、だからエールとかワインとかいっぱい用意されているんですね」
もちろん僕やアンジュちゃん、姫姉妹は果実汁だけれど、
イワモトさんは早速、ウィスキーを呑みはじめている。
MAINAちゃんも馬肉をウマウマと、ヘッドホンとかいう耳当ては付けたままだ。
「良い音楽を聴きながら美味い酒を呑む、これがこの国だ」
「なるほど、平和な時に来たかったです」
「バドリンを倒せばそれはすぐだ、よろしく頼んだ!」
そう言って去って行ったフリックさん、
ふと目に入ったモグナミさんが食べているのは『煮こごり』とかいうやつだ。
(姫姉妹は、濃い味でも気にしないで食べているっぽいな)
と見ていたら目が合った!
「あの、デレス様」「デレス様、この後も私達、頑張りますから……」
「うん、活躍次第では正規メンバー入りを、考えなくもない」
「今回で、最後の一押しになるのですね」「お姉様と一緒に入れるよう、準備します!」
……もうすぐ十八歳のナタイラちゃんはともかく、
妹のライリアちゃんはねえ……うん、この若さはちょっと。
いや、正規メンバーは抱かなきゃいけない決まりとか無いけれども。
(でも、決意は伝わったよ!)
十八歳といえば、と再びMAINAちゃんに目をやると、
涙ぐみながら食事をしている、どうしたんだろう、何かあったのかな。
「デレスくん、MAINAっちをごしめー?」
「ご指名って! 泣いてるから気になっただけ」
「シューサーくんはもー、気にならなーい?」「あっ、それ聞いてる最中だったよね?」
結局なんだよ、くんずほぐれつって。
「んっとね、シューサーくんの本来のお仲間が、ナツネェさんから取り戻しにきたの」
「えええ、アサシン集団とか?」
「でね、六人対うさぎさん一羽で、うさぎさんの、かーちー!!」
……ナツネェさん半端ないな。
「ちなみにウサギを『一羽』と数える理由はですな」
「あっ、イワモトさんは食事に集中して」
「いやあ、酒が進みますな、亜空間では呑み屋はありませんゆえ」
MAINAさんが視線に気づいたようで、
ヘッドホンとかいうのを外して僕の方を見た。
「何用? 私、何かした?」
「うん、涙ぐんでた、何があったの?」
「……頑張らなきゃなって、決意してた」
病弱で、病気で死んじゃったんだっけ。
「そういえばイワモトさんみたいな異世界での話、まだ詳しく聞いてなかったや」
「いいよ、食後のデザート食べながら話したげる」
「ありがとう、僕も豆腐ステーキ、冷めちゃわないうちに食べなくっちゃ」
こうしてメインを食べ終え、
しばらく経ってから透明な器に入ってやってきたのは……!!
「ってデザート、タマゴかよっ!」
「くんたまだーよー」「燻製の玉子ですぞ!!」
まあいいや、MAINAさんの前世を、聞きながらたべよう。




