第518話 ナスタシアさんに報告とナスタシアさんからの報告
「あの、お話とは何でしょうか」
「うん、人魚島ダンジョンの報告と、あと改めて感謝を伝えたいと思って」
天大樹の屋上、
例の娼婦三人は準備中とのことで、
とりあえず暇そうにしていたナスタシアさんを連れてきた。
(あっ、向こうの洞穴、いや木の穴か、にケルピーが寝てる!)
三頭とも連れて来てくれてるみたいだ、
さらにキッドナップモンキーの八匹も一緒に……
あいつら仲良しだな、こうなると引き離すのが可哀想になる。
(今はそんな事よりもだ)
人魚島での出来事を、
ニィナさんアンジュちゃんにもしたように、ざっと話す。
「……という訳で石化冒険者は解呪してきたんだけど、
ご褒美の石化女勇者と女賢者はまだなんだ、改めて回収しないと」
「そうですか、うまく味方にできると良いのですが」
勇者に限らずヘレンさんもナスタシアさんも味方にできたんだ、
コロメは……まあ無理矢理かな、厳密にはアマタツさんだけれど。
「話せばわかるといいんだけれど、特にクセが強そうな予感も」
「……このパーティーでそれを、おっしゃられますか」
「うん、クセしか居ないね、ナスタシアさんみたいに剣でわからせられると良いけど」
その言葉に申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「その、わっ、私、元はといえば決闘を」
「仕方なかったんでしょ、あの変なギルマス兼勇者の命令で」
「……今更ですがあの時は失礼をいたしました、申し訳ありません」
いやそんな、謝らせるために呼んだんじゃないのに。
「そうじゃなくって……あっ、綺麗な星空だね」
「はい、星空を眺めながら眠るのも、悪くないかと」
「あー、天使族の族長宅がそんな寝室だったね、真似するかな」
ナスタシアさんに寄り添う僕、
顔を少し紅くして密着してきてくれる。
「ご主人様とこうして出会えて、一緒になれて良かったです」
「うん、色々とナスタシアさんは掘り出し物だったよ」
「私もどうなるかと、その、レベル50になったらてっきり勇者を辞める事になるかと」
彼女の個人スキル『ダブルクラス』のせいで、
本来は11%の確率だっけ、で勇者ともうひとつのクラス、職業を手に入れられるが、
もし失敗すると勇者でなくなるという、その時は一般職の剣士でやり直すつもりだったらしい。
(それが『勇者でありアサシン』という、謎のアサシンになったんだよなぁ……)
「お互いに運が良かったんじゃないかな、
僕がナスタシアさんに出会えたこと、ナスタシアさんが僕に出会えたこと」
「……星の巡り合わせですか」「そうだね、本当に運のおかげだね」
これも幸運値の効果かな?
パーティーのバランスを考えると、
アサシンって丁度良かったし、しかもそれでいて三人目の勇者だし。
「……御主人様、いえデレス様、愛しています」
「僕も……あっ、ナスタシアさんのご両親に挨拶に行かないと」
「そうですね、結婚式には来ていただかないといけませんし」
実家はアスリクなんだっけ?
あそこのクラリス城も僕らのものでありながら、
すっかり帝国のワープゾーンその中心になっているらしい。
(いっそあそこの屋敷部分に、ナスタシアさんのご家族を住まわせる手も)
それだとクラリス城じゃなくなっちゃうな、
ナスタシア城にしないといけなくなる、それにあそこ、
もうすでに女神教の支部にもなってるらしいから、造るなら別か。
「デレス様、ニィナ様への御実家は」
「門の前まで行った事はあって、ニィナさんの妹、弟には会ったかな」
「ではそちらのご挨拶も」「そうだ、それがあったんだ」
そっちの打ち合わせも、
また改めてやらなきゃだな。
「クラリス様のご両親は……」
「ナスタシアさん、今はそんなことより」
「はい」「僕と出会ってくれて、仲間になってくれて、愛してくれて、ありがとう」
そっと唇を……
うん、これで感謝の気持ちは伝わった。
(精いっぱい、背伸びしたよっ!!)
アンジュちゃんが隠れて覗いてたら、
こっそり浮かせてくれてたなコレ。
逆にナスタシアさんが少し屈んでくれた気もしないでも……
「御主人様、デレス様は一生、私の主人でいて下さいね」
「うんもちろん、そのためには最前衛だからって無理しないでね」
「はい、もちろん後ろも護らせていただきます」「いやそういう意味じゃなくって……」
今度はナスタシアさんから唇を……
うん、間違いない、これは屈んでいるな。
(でも嫌な気持ちとか、まったく無いよ!)
アマタツさんが覗いてたらツタで身体を浮かせてくれてたな、
いや今は尋問の続きで忙しいだろうけれども、てかそんなことしなくて良いし。
「……デレス様にご報告しますが、正直に言うと、七大魔王を倒す時、上手く行くか本当に心配でした」
「あっ、光のアサルトライフルだっけ、終わって見たら、あっけなかったね」
「練習の、訓練の賜物です、全てはデレス様のため、デレス様に褒めていただきたくって」
その言葉にぎゅうっとナスタシアさんを抱きしめる僕、
とはいえ子供が抱きついているみたいな、いやいや、
ヘレンさんニィナさんだったらそんな状態に見えるだろうけどナスタシアさん相手ならそこまでは……
(誰も覗いてないよな、と索敵を使うと……アンデッドが三体、覗いているや)
おそらく先客で居たのだろう、
気を使って隠れてくれたみたいだから触れないでおこう。
「ナスタシアさん、ありがとう、十分過ぎる程、働いてくれて……感謝します」
「嬉しい……デレス様……御主人様」
「これからも、ずっとずっと、ずーっと頼っちゃって……良いの?」
僕の頭を、頬を撫でてくれるナスタシアさん。
「御主人様、デレス様、私はデレス様の、光の矢になります、影の盾になります、
そして、そして支える妻になります、この身を捧げ、一生涯尽くします、ですから、
ですからどうか、私から、私達から離れる、いえ、別れるような事だけは無いように……」
つつつーーーと涙が……
あっそうか、まだ僕がリッコ姉ちゃんに奪い直されないか心配なのか、
前に『ざまぁ』の方法について色々と話し合った夜もあったっけなぁ。
「ナスタシアさんが以前に言ってくれたように、ナスタシアさんは、
永遠に僕のものだから……絶対に別れるなんて言わないよ、約束する」
「嬉しいっ!!」
……とまあ良い雰囲気になったのは良いんだけれども、
機が熟しても、この後することって僕は、娼婦三人とお楽しみなんだよなぁ。
「……御主人様」「はい、ナスタシアさん」
「デレス様の望み通りの女となるため、今夜これから、見学させていただけませんか?」
「えっ何を」「娼館から呼んだ三人と、その、これからする事を」
(あっ、これ混ざる気満々だ!)
さすがにそれは、ねえ。




