第50話 休日とお買い物デート
昼過ぎ、とはいえ人目を避けて夜中にダンジョンから戻るようにしているので、
僕らにとっては普通に朝起きたような感覚だが、アンジュちゃんとデートである。
「デレス、今日はアンジュを頼むぞ」
「アンジュちゃん、デレス様の言う事をちゃんと聞くのよ?」
コクコク頷いている。
「じゃあアンジュちゃん、まず最初にその杖を僕に預けて」
「!!!」
「隠してもだめ、さっきそれでみんなを起こしたでしょ?
ああいうのは道行く人とかにもやっちゃ駄目だから」
そう、覚えたばかりの幻術魔法『パーソナルウェザー』で、
寝ているみんなの顔に小雨を降らせて起こしにきた、
それだけでも枕元がびちゃびちゃで迷惑だが、
これでレベルが上がったらと思うと、しっかり躾けないといけない。
「イリュージョニストロッドを渡さないと、買い物に連れて行かないよ?」
「……わかった」
「素直でよろしい、じゃ、手を繋いで行こうか」
とたんにご機嫌になるアンジュちゃん、
でもフードを被ると顔が見えにくくなっちゃった。
「デレス、大丈夫か、見た感じ完全な子供同士だぞ」
「変なのに絡まれたらアンジュちゃんを護ってあげてね」
「わかってますよ、アンジュちゃんも何かあったら僕の後ろへ」
コクコク頷いている、
デートくらい僕みたいに普段着で、と思いたいけれど、
アンジュちゃんの場合は少々知られている子だから目立たないようにしないと。
「どこか行きたい所ある?」
「……アクセサリー?」
「疑問形なんだ、うん、行こう」
市場で小物を色々と見る、
やっぱり年頃の女向けの装飾品は色がかわいい、
お菓子みたいなのもあってアンジュちゃんが舐めたという話も、わからないでもない。
「ああそれ齧っちゃだめ!」
「……すぐ壊れたら嫌だから」
「買いたいの?ペンダント」
「太くて丈夫なのが、いい」
「ならネックレスかな、この薄いピンクの」
褐色の肌にあわせるというより、
セクシーパンサーローブの黒にあわせる感じで。
「……デレスくんが買ってくれるなら」
「すみません、これ買います!」
「お目が高い、銀貨二枚ですね」
高いんだか安いんだかわからないがポーターバッグから払う、
アイテムボックスを使う事で勇者だってバレるのはなんとなく嫌なので、
いやバレた所で『合法少年勇者だ捕らえて籠絡してしまえー』なんて事は……すでにあったな、うん。
「……ありがとう」
「つけてあげるね、うん、良い感じ」
一般庶民向けのネックレスなので魔法効果とかそういうものは無い、
でもアンジュちゃんが喜んでくれれば、それはそれで良い効果だ。
「あっちも見たい」
「うん、いいよ」
今度は何も言わず手を握ってあげる、
東のミリシタン大陸に居た頃とは大違いというか大成長だ、
あの頃は婚約者たちを大事に思い過ぎて、手を握る事すらためらっていたから。
(いま一緒に居るのはアンジュちゃんなんだから)
「ってネックレス噛まない!」
「えー……買ったのに?」
「噛むものじゃないから!はむはむもしない!」
こうして市場を見回ったあと、
魔法使い専用の武器防具屋についた、
やはり目立つのは杖だ、高価なものは魔法属性がついている。
「すごい、ファイアーロッドだって、振ると無詠唱で炎魔法が出るんだって」
「……ボクの魔力じゃ無理かな」
「そもそもが魔法使い用だからね」
続いてローブだが、僕らは性能より見た目を楽しむ、
おそらくこの店にアンジュちゃんのセクシーパンサーローブ以上のものは無い、
サイズが大きければ追い剥ぎにあってもおかしくない代物だ。
「やあ君たち、女勇者さまのパーティーの子らだよね?」
知らない魔法使いに話しかけられた、二十代後半かな、
さささっとアンジュちゃんが僕の背後に隠れた。
「なんでしょうか」
「いやね、俺たちのパーティーは前衛を探しているんだ、
遠目で見てもあのでかい剣は映えるね、彼女が欲しい」
残念、彼女は僕のものです、と言いたいのを我慢する。
「スカウトしたいんですか」
「そう、どうしたらウチのパーティーに来てもらえるかなあ?」
この人の口ぶりだと僕は付属かオマケくらいにしか思ってないのだろか、
クラリスさんが僧侶じゃなく賢者だって知ったら一緒に欲しがりそうだ。
「どうでしょうね、彼女がリーダーですから、きっとワガママですよ」
「構わないさ、冒険者なんてみんなワガママだったり、普通じゃやってられない」
「それはまあ、わかりますが」
「君たち『黒の一団』が目指している所はわからないけどさ、
俺たちのパーティーに来てもらった方が力は発揮できると思う、あの魔法使いも」
あークラリスさんそっちに思われているのか、まあいいけど。
「彼女が、彼女自身がパーティー中心というか
パーティーそのものなので他所へは行かないと思いますよ」
なにせ名前がニィナスターライツだし。
自分の名前がついていたパーティー追い出された人もいるにはいるけどねっ!
「ならとりあえず俺たちのパーティーと一緒に組もう」
「そういうのはリーダーに直接会って話してください」
「ああそうするよ、君の推薦って事でいいね?」
「推薦はしませんよ、断られてきてくださいってつもりで言いました」
「可愛げのない子供だなあ、まあいい、あとはこっちでうまくやっておくよ」
あーいまのニィナさんが聞いてたら怒っただろうなあ。
「……デレスくん」
「大丈夫、ニィナさんは僕のものだから」
「……ちがうよ、デレスくんが、ニィナさんのものなんだよ」
何を知ってるのーーー?!
「あ、あっちに面白いコーナーがあるよ」
魔法使いや僧侶も攻撃してみませんか?ってコーナーだ、
投げる小型の爆弾、これタンク職のカーナさんが使っていたやつだ、
あれよりもは小さいけどその分、非力な魔法使いでも投げられそう。
「弓だよ、弓があるよ」
「あっ、片手弓!ショートクロスボウ、自動発射十発だって」
「これ欲しい、使いたい」
アンジュちゃんのか細い腕で大丈夫かな?
サイズが小さいと効きも悪そうだけれど、
あ、小型の矢に魔法を込められるのがある!
でも高い、百発で金貨一枚か、消耗品でこの高さはなあ、
最初から魔法が込められているのはさらに銀貨が必要か。
「クラリスさんがいるから魔法が入ってないのでもいいかな」
「欲しい!欲しい!攻撃したいっ」
「興奮しないで!まあ僕のポケットマネーで買えばいいか」
一応、試着してみたら装備できないこともない、
矢も的から大分外れたがちゃんと飛ぶ、あとは慣れか。
「よし、これ買います」
「やったぁ」
ご機嫌なアンジュちゃんを連れて上の階へ行くと奥に幻術師コーナーがあった、
一番目立つ場所に『幻術師の杖』が飾ってある、非売品だそうだ。
「あ、あれ……」
「うん、アンジュちゃんが持ってたんだよね」
「パンになった気がする」
アンジュちゃんの中ではパンの引換券なのかな?
多分、結構良い効果があるんだろうな、
非売品という事は買い直せないのかな、白金貨何枚だろう。
「ひょっとしてあれがアンジュちゃんの貰ったやつ?」
「……同じ杖、あれが貰った杖かどうかは名前見たら、わかる」
「えっ、ひょっとして名前が掘ってあるの?」
「でも、見えない」
「あー裏側にしてあって名前掘ってある所が見えないように飾ってあるのか」
でも今更どうしようもないよな。
「ま、レベル五十になったら考えよう」
「……うん」
個人的には無くしたものを取り戻すより、
より良いものに上書きするのが個人的な考えかな、
その方が、取り戻せなくてもガッカリしないし。
「あと幻術師の装備は……」
後は大したものはなかったので店を後にした。
「あ、あれ食べたい」
「喫茶店だね、うん、あのパフェ美味しそう、一緒に食べよう」
「うんっ!」
なぜかフードを脱いで元気な返事、頭を撫でてあげよう。
「えへへへ」
良い笑顔、です。




