第489話 こんなところに妹天使族発見!
「うまっ、うまうまうまっっ!!」
両手で天大樹の実を食べる小柄な天使族、
よくこんな狭い食事運搬用の魔導昇降機に入っていたもんだ、
人が入る設計じゃなかっただろうに……と思っていたら実が二桁に突入した。
(口が真っ赤になってるな、拭いてあげないと)
タオルを出そうとしたがなぜか白いクソダサ熊ちゃんシャツが出て来た、
僕のアイテムボックスがポンコツなのかそれとも無意識にコレを処分したかったのか、
まあいいや、追加の実を渡しつつお口を拭いてあげる、うん、お水もあげなきゃ。
(コップは……あったあった、ラティスランド土産の謎猫コップだ)
こうしている間も一応、アサシン三人が外へ向け警戒してくれている。
「ジンちゃん(フリージングサキュナス)、お願い、水の割合多めで」
「氷少な目ですね、わかりました」「さ、ささ、さきゅばすぅーっ?!」
「あっ、驚かないで下さい、ウチのヘレンのサモンです、つまりは仲間です」
通路行き当たりの隅に見落としていた石化看守がひとり転がっていたので、
エンちゃん(エントサキュバス)とバニちゃん(バーニングサキュバス)に上へ運んで行って貰う、
戻ってくるまでこの天使族について色々と聞こう。
「ええっとハーウメさんでしたっけ」
「んぐぐぐぐ! ハーゥメです、ゥの発音は極力、できるだけ小さく!」
「あっはい、ええっとハーミィさんの妹さんですよね?」「そうですおかわりぃ!」
これって本来は一日三個で十分な実だよな、
ゲッソリ痩せてたから仕方ないか、見ると最初よりは身体が戻ってる?!
うん、確かにハーミィさんを小さくした感じの天使族だ。
「天大樹の実は、美味しいですか」
「はいっ、幼い頃に食べた記憶が、蘇りました!」
「よれは良かった」「これ、夢じゃないですよね?!」
ようやく来た救助といった感じか、詳しく聞こう。
「それでまたなんでこんな所に」
「冒険者パーティーにくっついてダンジョンへ入って行ったんですけどぉ、
奥の方でラミアの大群に逆に押し返されて、慌てて逃げてきたんですけど追い詰められてぇ……」
行き止まりだもんな、
身体を、羽根を無理矢理折り畳んででも避難したって事か。
「それでこの中へ」
「はいぃ、冒険者パーティーも囚人ではない人達だったみたいで、
見殺しにはできず門を開けちゃったら、引きつれてきたラミアがそれはもう大量に!」
なるほど、そういう事情があったのか、
冒険者パーティーが帝国の派遣だったら秘密にされそうだな。
「逃げるタイミング、出るタイミングは無かったんですか」
「はいぃ、むしろ開けられると困るので中で暴れてあえて外から開けないように止めましたぁ」
「そこまでして!」「隠匿の効かない敵も居ると困るのでぇ」
確かに大きな魔導昇降機の中で暴れると、
安全装置か何かが働いて停止するって聞いた覚えがある、
これだけ小さいとそれも容易か、いやそもそも人は乗っちゃいけない設計のはず。
「どうやって出るつもりだったんですか」
「ひたすら救助を待っていましたぁ、もうどのくらい経過しましたぁ?」
「二か月近くだっけ、ってここがこのまま放棄、廃棄されたらどうするつもりだったんですか」
とはいっても生き残るためには仕方ないか、
現に僕らが来るまではラミアだけじゃなく魔王城の敵もうろうろしてたし。
(それにしても天使族、飲まず食わずでも数年は生きられるって話は本当っぽいな)
このがっつき方を見ると苦しいのは苦しいんでしょうが。
「こちらもどうぞ、コモモです」
「ありがとうございはむっ、んふっ、これはこれでっ」
「あーあ、皮まで食べちゃって」「おいひいへふほー」
美味しいですよー、である。
氷水 (水多め)を飲み干した所でお仲間のジョセナが語りかける。
「ねえハーゥメ、それでミベルは?!」
「えっ、居ないの?! 敵に捕まっちゃった?!」
「あの用心深くて逃げ足の速いミベルがそれは考え難いけれど……」
ここまで調べた限りは居なかったな、
とはいえついさっき死角になってた石化看守を見つけたばかりだし、
もうちょっと探してみる価値はありそうだ。
(敵も本当に一掃されていると良いのだけれども)
「ジョセナさん、じゃあダンジョンに入って行ってるって可能性は」
「無いです無いです、ハーゥメみたいに隠れるタイプではなく逃げるタイプですから」
「うーん、じゃあ外かなぁ」「旦那様、囚人に紛れている可能性もありますわ」
今まで見てきた石化された囚人にしれっと混じってる可能性もあるのか。
考えているうちにサキュバスふたりも戻って来た、ちょっとバニちゃんに聞こう。
「クラリスさんたち、戻ってきていました?」
「はい、スフマさんと仲良さそうでしたよ」
「……ヘレンさん、今すぐ戻りましょう、転移で」「一気には無理ですが」
あっ、あとハーゥメさんがパーティーに入ってないから無理か、
このあたりアンジュちゃんならパーティー外でも一緒に転移できるけど、
ダクちゃんの転移魔法だとまだそこまでは不可能だろう。
「ハーゥメさん、飛べますか」
「はい、ごちそうさまでした、タオルは後で洗ってお返ししますね」
「あっはい、正確にはタオルじゃないですが、まあ」
あげても良いけど天使じゃ着られないしなぁ。
「あとこちらもどうぞ」
「ええっと、その一際綺麗で白い羽根は」
「抜いていただいて構いませんよぉ、さぁ」
とその直後、ヘレンさんが正拳突きをっ!!
「ふんっ!!」
「ぐがあっっ?!?!」
うっわ重い、
あきらかに重いパンチだ、
ヘレンさんよく眼鏡ずれないね!
(それだけ姿勢が良いのか、綺麗なグーパンチだ)
「ハーゥメ……私と同じ事を」
「血が! 血があああああ!!
」
ゴッちゃん(ゴッデスサキュバス)が急いで治癒してあげましたとさ。
(ほんっと天使族、油断ならないなぁ)
「そんなことより、さっさと戻りましょう!!」
クラリスさんが、じじいに寝取られてしまううううう!!!!!




