第470話 客観的に見て当時の僕とリッコ姉ちゃん達はどうだったのか
「デレスちゃん、もう立派な大人になって……」
入ってきたメイドは栗毛で先がウェーブがかったロングヘア、
ミノゾちゃんだ、ってその台詞を言ったという事はまさか……?!
「ええっとミノゾさん、隣のリッコ姉ちゃんの部屋、掃除した?」
「いつですか? 最近は週に二、三回、リッコ様とデレス様の部屋はステラ様が」
「あーメイド長の仕事なんだ、了解」
さすがに毎日はしていないか、
という事は昨日のあのままだったりするのかも。
「昨日の婚約者さんもですが、なかなか個性的ですよね」
「う、うん、びっくりした?」
「……デレスちゃんが自分に正直になった感じがしました」
どういう意味だろコレ。
「お紅茶、良い匂いだねー」
「アンジュちゃん熱いから気を付けてね」
「旦那様、私のフリージングサキュバスで冷ませましょうか」「いやそこまでは」
氷水ドバーはさすがに、
いやサキュバス出さなくてもヘレンさんも同じ魔法使えるんじゃ。
「そうですか、ふ~ふ~させようかと」
「あっ、でもそれだとカチンコチンに氷結しそう」
「じゃあボクがやったげるー」
アンジュちゃんがふ~ふ~してくれる。
「はは、ありがとう、あっ、彼女はメイドのミノゾ、お茶には詳しくてよくリッコ姉ちゃんとその話をしてて、
あと冒険者ギルドが副業でやっているかき氷に抹茶味を提案したのも彼女なんだ」
「始めまして、デレスちゃんがお世話になっているみたいで」「婚約者アンジュだよー」「まあ旦那様の昔を知る方ですの」
いやヘレンさんの言い方だと昔何かあったみたいな、
それはさすがに考えすぎだよな、確かに僕が幼い頃来たメイドトリオだ。
「はい、私が来た時にはデレスちゃんはすでにリッコ様の子分みたいでしたが」
「子分って」「ねーねー、いちゃいちゃしてたー?」「アンジュちゃん、言い方!」
「そうですね、いちゃいちゃというよりは、しっかり面倒を見て鍛えていたかと」
……良い機会だ、
メイドの立場から僕らがどうだったか聞いてみよう。
「その、僕が居た頃、リッコ姉ちゃんって僕についてどうこう言ってた?」
「そうですねえ、そのあたりはカリヒの方が詳しいかと、お呼びしますか?」
「いいのかな、忙しくなければ」「はい、お待ち下さいね」
出て行った間に紅茶を飲む、
懐かしい味だ、彼女は淹れ方も鍛えていたというか、
同じお茶でもミノゾが出すと数段美味しくなるって義母上も言っていたっけな。
「旦那様、良い機会ですわ、そのリッコが旦那様をどうしようとしていたか、聞いてしまいましょう」
「えっ、どうかしようとしてたの?」
「デレスくんはー、どうしようもないよー」「こらっ」
……今更リッコ姉ちゃんが来ても、
もうどうしようもできないって意味を言いたかったんだよね?!
(それとも、本当にどうしようもない男なのか僕は……?!)
などと考えながら待っていたら、
なぜかカリヒだけでなくもうひとり、
メツバまで呼んできてトリオが揃っちゃった。
「お呼びですか」「失礼致します」
昨日はまともに長話できなかったからね、
ここでじっくり懐かしい話をするのもいいかも。
とりあえず婚約者に残りふたりを紹介しよう。
「こっちの背の高い水色の髪がカリヒ、三人のリーダー」
「副メイド長のカリヒです、デレス様とのご婚約、おめでとうございます」
「言う程高くないねー」「アンジュちゃん、ウチのでかいのふたりと比べたら可哀想だよ」
あくまでも三人の中で背が高いっていうだけ、
それでも髪の毛も一番長いストレートで、良い匂いなんだよなぁ。
「あとこっちのツインテールがメツバ、三人では最年少」
「メツバです、よろしくお願いしますデレス様、アンジュ様、ヘレン様」
「初めてあったのになまえしってるんだー」「あの、髪の色が旦那様と同じ……」
アンジュちゃんの言った件についてはメイドだから人伝で聞いたんだろう、
さっきの義両親と会った時、メイド長のステラさんが居たからそれ経由かな、
あとヘレンさんが言っている髪の色については……
「まったく同じじゃないよ、ほら、ちょっと濃い茶色って感じじゃない?」
「そう言われてみれば」
「でも似た髪で年齢も近いから三人で一番仲は良かったけどね」
うん、僕が冒険者として旅立つ時も泣いて手を振ってくれてたっけ。
「じゃーもーやったのー?」
「アンジュちゃん! って僕の回数見れるからわかるでしょ」
「んっと、このメイドさんたちのはー」「言わなくていいから、いや、言わないで!!」
余計なプライベートには、
突っ込まないでおこうっと。
「……回数?」
「カリヒさん忘れて下さい」
「私達はメイドですからー、そういう事はリッコ様にきつく禁じられていましたよー」
何気に初耳な事を言うメツバさん、
その言葉に反応したのはヘレンさんだった。
「やはりそうでしたか、旦那様に、デレス様にそういう刺激は与えないようにと」
「そうですねえ、『デレスちゃんはウブなんだから下着とか見えないようにしなさい』とか」
「ま、まあリッコ姉ちゃん達っていう婚約者がいた以上、メイドとしてはそうなりますよね」
……そう言いながらも、
メイドでそういう妄想をまったくしなかった訳では無い、
うん、もちろんそれ以上にリッコ姉ちゃん達、旧ハーレムメンバーを妄想したけれども!
「ぢゃあ、ゆーわくとかしなかったんだー」
「リッコ様が特にそういうのを嫌いますから」
「でもイリオン様に対してはそういう文句は……いえ、今のは忘れて下さい」
い、いま何気にミノゾちゃんからヤバげな発言が?!
イリオン義兄さんにはそんな事をしていたとかいう、
いやいや、あくまで病人の介護だから……うん、これ以上考えるのはやめよう。
「旦那様よろしいでしょうか、メイドのお三方にお伺いしますわ、
リッコはデレス様について、ここで暮らしていた当時、どのような将来の結婚生活を語られていたのでしょうか」
おお、いよいよ聞きたい本題に入るみたいだ、
まずはカリヒから答えるだろう、うん、考え込んでいる。
「……言い難い話が多いですね」
「そこをあえて」
「ご自分が家督を継いだ後の事ばかり気にしてらしたので」
イリオン義兄さんが不安だったからね、
あのままでは、あの病弱さではあきらかに無理だった、
だから僕との子が出来るまではリッコ姉ちゃんが、ってじゃあ僕は?!
「お子さんの事とかは、デレス様とのお子の」
「……実は」「はい」「これを言ってもいいのか……」
「もうリッコという方とは婚約が解消されましたので」「それでも御主人様の娘さんなので」
えっ、どういうことだろうこれは?
「……ではこちらで教えて下さい」
「はい、では」
そう言って部屋の隅へ行くヘレンさんとカリヒさん、
僕の視線が気にならないようにする配慮なんだろうか。
「それでリッコは何と」
「実は……性交渉を、性行為をしないでデレス様のお子を孕む事はできないか、と」
「つまり、そのような接触をしたくは無いと」「はい、そうなりますね」
丸聞こえのひそひそ声でショッキングな内容が来ちゃった……!!
「わかりました、その意図はわかっていますね?」
「はい、リッコ様はデレス様の事をお嫌いという意味ではなく、むしろ」
「もう十分です、メイドとして言い辛かったでしょう、ありがとう」
あっ、バレバレの内緒話が終わった!
「……旦那様、やはり予想通りでした」
「えっ、どういうこと?!」
「しょーゆーこと」「アンジュちゃん……」
この後のふたり、
メツバとミノゾの話は他の旧ハーレムの話も入って来たので、
あまり僕の頭には入ってこなかった。
(リッコ姉ちゃんって、僕に抱かれたくなかったのか……)
結婚するまでは、とかでは無く。
「わかりました、皆様方、ありがとうございました」
(あっ、終わったのか)
「カリヒ、メツバ、ミノゾ、ありがとう」
「いえ、その、結婚式、楽しみにしています」
「お手伝いさせて下さい」「こちらでやられるのですか?!」「それはまあ、おいおい」
という感じで三人が部屋から出ようと扉を開けると、
そこにはメイド長のステラさんが立っていた、ギョッとするメイド三人。
「もうデレス坊ちゃまの用件は終わりましたね? 持ち場へ戻って」
「「「はいっっっ!!!」」」
あ、何か悪い事しちゃったかな。
「デレス坊ちゃん」
「はい、ステラさん」
「昨日、お隣のリッコお嬢様の部屋へ入られましたか?」
あっ、バレた!
「……はい、入りました」
「やはりそうでしたか……デレス坊ちゃまも、大人になられて」
(そっちもバレたーーー!!)
「……ごめんなさい」
とりあえず、謝っておこうっと。




