第455話 とりあえず今、連れて来ている婚約者をご紹介
「……デレス、落ち付いたかい?」
「はいイリオン義兄さん、あっ、クラリスさんありがとう」
立ち上がった僕の身体についた埃を払ってくれている。
落ち着いたのを見計らって僕の真っ直ぐ正面で話し始める義兄さん。
「まずは真っ先にふたつ言わなければならない事がある、
エリクサーを送ってくれて、命を助けてくれてありがとう」
「その、手紙でも書いたけど、もうお別れするにあたって最後にこれくらいしないとって」
こうして戻って来ちゃったけど。
「そして妹が、リッコが本当に申し訳ない事をした」
「えっとそれで、結局のところ、リッコ姉ちゃんたちは」
「二回ほどいや三回か、帰ってきたよ、今はデレスを追いかけてモバーマス大陸のドワーフ国へ向かった」
そっちに行っちゃったかー。
(結婚したって報告を受ければ、そりゃあね
「イリオン義兄さん、手紙でも書いたけど、その、リッコ姉ちゃんを裏切らせてしまって、ごめんなさい」
「……デレスは相変わらず優しいね、でもそれはリッコが擦り付けた物だから、早く捨てた方が良いよ」
「えっ」「それはそうと、あっちのドワーフ国の姫と結婚したんだよね、護衛はドワーフじゃないのかい?」
まずはその説明からした方が良いのかな?
「ええっと、あっ、紹介しなきゃ! 僕の婚約者、正妻予定のニィナさんです」
「お初にお目にかかる、ニィナ=ミシュロンと申す」
「う”え”っ?! その、はっ! アヴァカーネ伯爵家次期当主、イリオン=アヴァカーネです」
混乱してる混乱してる!
あと改めてニィナさんの迫力に圧されてるなコレ。
「続いて側室、第二夫人予定のクラリスさんです」
「初めまして、女神教所属、クラリスです、よろしくお願い致しますわ」
「これはまた、お美しい……いや失礼」「ニィナさんだって美人ですよ」「わ、わかっている!」
あっ、今度は焦らせちゃった。
「とんで第五夫人予定、ナスタシアさんです」
「あっ……ナスタシアと申します、私まで紹介していただき、申し訳ありません」
「なんとこれまた……デレス、美人揃いじゃないか!」「ええ、まあ」
照れるー。
「それにしても凄いな、という事は第三夫人か第四夫人であるドワーフの姫も、さぞかし」
「やめてえええええええ!!!」
「すまない、あと二人は『正式な挨拶』の時に連れてくるがドワーフでは無い」
ニィナさんのフォローに首を傾げるイリオン義兄さん。
「デレス様、大丈夫っすか」
「あーうん、あっ、この奴隷はカミーラ、護衛に連れて来ました」
「あきらかに凄腕じゃないか!」「あげませんよ」「テレルッスー」「おい」
ニィナさんに突っ込まれるカミーラさん、ちょっと面白い。
「ええっと、説明しなきゃいけない事が山ほどありますが、お義父上とお義母上は」
「今夜には帰ってくると思うけど、急ぐなら報せを送ろうか」
「いや、そこま」「構わない、今日はあくまで、とりあえずの挨拶に伺ったのでな」
僕の言葉に被せてきたニィナさん、
さささっとアイテムボックスから例のお菓子を出す。
「とりあえず持参した、皆で食べて欲しい」
そう、高級 最中だ。
「す、すごい、すごいよデレス!」
「えっイリオン義兄さん、このお菓子が? 確かにまあまあ美味しいけれども」
「このニィナさん、勇者じゃないか!!」
ああ、そっちね。
(アイテムボックスを使ったって所に目が行ったのか)
「まあそのあたりも含めて、イリオン義兄さんに色々と説明を」
「そうだね、いつまでもここで立っていても悪いからな、客間へ行こう」
「それはそうと、この壺はいったい何なんですか」「ドワーフ国から届いた贈り物さ」
空っぽになっているのは何か液体が入っていたっぽい。
「中身は」
「高級液体ミスリル、いくつかギルドへ下ろして、空はこうして飾ってあるんだ」
「じゃあ蓋がしてあるのは」「他の鉱物のもあるようで、重くてなかなか動かせないのさ」
あー、じゃあ入っているやつはドワーフの運送係か何かが置いていったやつか、
それで放置みたいな感じで……すぐに流用できそうな液体ミスリルとかはギルド総出で運んだのかな、
そして空っぽの壺だけ戻ってきたと、うん、困るよねこういう空いた壺の使い道って、特にでかいのは。
(貰って帰って何かに使おうかな、でもこっちでも無駄になる可能性も)
「さあ皆さんこちらへ、デレス、何から話そうか」
「んっと、リッコ姉ちゃん何か言っていました?」
「言う前に殴っておいたよ、後の言い訳は聞く耳持たない」
あー、うん、すっかりお元気になられて。
「……ニィナさん?」
「あそこにあるのは、デレスの肖像画だな」
エントランスの二階へと上がる階段、
その途中の踊り場に我がアヴァカーネ伯爵ファミリーの肖像画がそれぞれ掲げられている、
一番上は当主夫妻、その下にあるみっつが……一番右にちゃんと僕の絵が飾ってある。
「僕がこの家を出る前のですから、若いですけどね」
「という事はだ、その隣が」「はい、リッコ姉ちゃんです」
(あっ、これってつまりうん、ニィナさんがリッコ姉ちゃんを初めて見るって事だ!!)
「近づいて見られますか?」
「ああすまない、そうしよう」
一応イリオン義兄さんに許可を貰って階段を上がり、
みんなして肖像画群の前へ、そしてついに……ニィナさんがリッコ姉ちゃんの前へ!
(ベルセルクソードで斬り裂いたらどうしよう)
さすがにそれは僕でも、身体を張って止めよう。