第454話 なんと僕の実家にも魔の手が!
「ふむ、なかなか良いビーチハウスではないか」
「ごめんなさい、これ、我が領地ブラヌシアタの冒険者ギルドです」
「まあ、でも窓でかき氷が売られていますわ」「副業です、すみません」
という海沿いの街にある、
一応冒険者ギルドの前に到着である。
「あっちで売られてるのはホットドックっすね」
「商業ギルドの窓です、どっちも色違いで見た目は一緒ですが」
余ったコテージを使っているからね、仕方ないね。
(ていうか、見知った顔がいっぱいだぁ)
という事で四人の中心でひっそりと身を屈める。
「あの御主人様、あちらにある大きな扉は」
「うん、街の入口に設置してあるウェルカムゲートだね」
ばかでっかいオブジェである、
道沿いに行くと扉が開いていて迎えてくれるという!
おいおい誰だこんなもの発案したのは、って思うでしょう?
(わ・た・し・で・す!)
リッコ姉ちゃんは『無駄』って言ってたけど、
イリオン兄さんは気に入ってくれたんだよなぁ。
(除幕式では『ようこそブラヌシアタへ!』とかポーズつけたっけ)
「それでデレスの伯爵邸はどっちだ」
「あっはい、ちょっと歩けば屋根が見えますよ」
方向だけ教えればあとは道なりだ、
それよりも僕は街の住民に見つからないように、っと……
(あれ? 何で隠れているんだろ?? まあいっか)
歩いていると人々の声が聞こえてくる。
「なんだあのでけえ女、貴族っぽいけど」
「もう片方の女は教会の神官か? 胸でけえなおい」
正妻と側室(第二夫人)が、
でけえでけえ言われちゃっている。
「あと護衛の女、色白で結構な美人だな」
「褐色の方もなかなかだぞ、剣が様になってらぁ」
……何が辛いって声で誰かわかってしまう、
デダン爺さんとトメス爺さん、見なくても顔を思い浮かべてしまう。
(真ん中でちっこくしている僕は気付かれてないようで何よりだけれども……)
僕のニィナさんクラリスさんが品定めされているみたいでちょっと心がズキズキ。
(……ひょっとしてニィナさんが護衛ふたりを許したのって、僕を目立たなくさせるため?!)
白だの褐色だのの剣士 (ナスタシアさんは勇者アサシンだけど)が前に居て、
両サイドのニィナさんクラリスさんが目を引いて僕が完全に消えてしまっている。
隠匿魔法でもかけたみたいに……逆に懐かしい顔を見ると僕から声をかけそうになる。
「ふむ、ザザムと違ってまた良いリゾート地だな」
「デレス様、冒険者ギルドがあったという事はダンジョンが」
「うん、小規模、中規模、大規模とみっつあるけど最後のは少しやっかいかな」
今の僕らなら、あっさりクリアできそうだけれど!
「御主人様、どうやっかいなのでしょうか」
「運試しダンジョンって言って、下の階への入口が二択なんだ、間違ったら最初まで戻される」
「それは運次第ですね」「だから、誰もまだ最深部まで辿り着けていないんじゃないかな」
多分……でも、僕らの強運とアンジュちゃんの転移があれば、もしかして……!!
(あっ、転移ならヘレンさんもか、なら尚更クリアできちゃいそう)
ただ、敵がそこまで強くないのに攻略され難いっていうのは、
領主的には美味しいんだよなあ、冒険者がそこそこ集まってくれて、
特に育成中のパーティーとか……なんて考えているうちに到着しちゃった。
「よし、私が呼び鈴を鳴らすか」
「いやいや僕の家ですから、僕が普通に……ってステラさん!!」
庭を通りかかったメイド長を見つけてしまった。
「あら、まあ、デレス坊ちゃん?!」
「うん、イリオン兄さんが気になって、ちょっと戻ってきちゃった」
「す、すぐに、今すぐお知らせしますわ!」
慌てて走って行った、五十歳くらいなのに無理すんなっていう。
「じゃいいや、入っちゃいましょう」
家族は鍵とかなくても魔力で開けられる玄関だ、
門を開いてみんなを迎え入れる、あれ、なんだか大きな壺がいくつも置いてある、
中身は……空っぽなのもあれば厳重に蓋してあるのも、なんだこれ。
(嫌だぞ中にリッコ姉ちゃんがいて『ばあ』とか)
その手のドッキリは、幼い頃に何度かされた。
「じゃ、入ってください」
「うむ、邪魔しよう」「デレス様の御実家、緊張しますわ」
「失礼しますっす」「御主人様、私もよろしいんですよね?」「もちろん」
エントランスは吹き抜けでとても懐かしい、
冒険者として武勲を立て、第四夫人まで迎え入れられるようになったら帰る予定だった我が家、
そのハーレムもすっかり様変わりしたが、いまこの瞬間だけは昔のパーティーに戻った錯覚がした。
(僕の前をリッコ姉ちゃんが『さあ、報告に行くわよ』と颯爽に歩く姿の幻を見そうだ)
「デレス坊ちゃま!」「デレス様!」「デレスちゃんじゃない!!」
おお、これまた懐かしいメイドが次々と!
「カリヒ! メツバ! ミノゾ! ただいま、みんな元気そうで」
そして二階からの階段を降りて来たのは……!!
「デレス! デレスじゃないか!!」
「イリオン義兄さん! そんな駆け足で大丈夫?!」
「ああ、デレスのおかげだよ、結婚おめでとう!!」
えっ、もうそんな情報が?!
とりあえず抱き合って再会を喜ぶ僕ら。
「ええっと、誰から聞いたのかなぁ」
「ドワーフ国からさ、モバーマス大陸の方で、
そちらのお姫様とデレスが結婚したからって、いっぱい贈り物が届いたのさ」
(うわああああああドワーフの魔の手がこっちにまでええええええええええ!!!)
とりあえず、のた打ち回っておこう。