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【ついに完結】草食勇者と淫乱バーサーカー  作者: 風祭 憲悟@元放送作家
第三章 育成勇者と褐色ボクっ娘幻術師
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第43話 貴重な幻術師と、それ以前の問題

 夜、大きなベッドの上で僕とニィナさんとクラリスさんは車座になっていた、

 いつもとは違い凄く真面目な表情、深刻な話をする空気だ。


「デレス、もうアンジュは寝たか」

「はい熟睡していますね、もし目が覚めて覗きに来ても僕のスキルでわかります」

「あれだけはしゃいでいたものね、本当、楽しかったんでしょうね」


 ニィナさんもクラリスさんも、ため息をついている。


「それでデレスは、アンジュをどう思う」

「えっ?かわいいと思いますよ、いやほんとに、性別間違えたお詫びだけじゃなく」

「いやそのすまなかった、流れ的にアンジュとくっつけようとする形になって」


 うん、恋人同士にさせられそうになった、そこまで嫌じゃないのに。


「アンジュちゃん嬉しそうでしたからね」

「デレス様、その、ちゃんとわかってらっしゃいますわよね」

「いやその、こういうの口にはっきりして良いのかどうか言葉を選びますよね」

「ああ、アンジュは十八歳にもかかわらず、中身は幼い子供だ」

「市場で売り物のブローチを舐めはじめた時は、どうしようかと思いましたわ」


 うん、獣人の子供でもやらない、

 いや獣人にも領主になれるクラスの賢い人もいるけれど。


「問題はあれが、先天性なものか環境的なものかという事だ」

「それで夕方、冒険者ギルドでミロさんに聞いてきたんですよね」

「ああ、アンジュは孤児院の出らしいが、

 そこが補助金目当てのかなり劣悪な所だったらしい、もうないがな」

「でも魔法学校か何かは出たんですよね?」

「それがいびつな事になっていてな、普通は三年間、

 通常の学校を出てから魔法学院へ、選ばれた者だけが進学するのだが」


 あー、いびつってことは。


「アンジュちゃん普通の学校出てないんですか」

「そうだ、孤児院で十五歳まで過ごしてその後、魔法学院の幻術師コースへ」

「幻術師がレア過ぎる弊害ですね、学院も最初は大喜びだったでしょう」

「だがああいう子だった、しかも詳細に鑑定すればレベル上げが絶望的という事もわかったのだろう」

「でも、だったらだったで普通の学校的な、一般常識を教える方向で学ばせてあげたら良いのに」


 ここで首を横に振るクラリスさん。


「魔法学院は魔法使い、僧侶の憧れであり、

 入学するのも卒業するのも本来はかなり大変な場所なの」

「あーつまり、そういった事は最初から完璧に学んである前提で」

「もちろん魔力のみが突出したりしてる頭の悪い子も特待生でいたりするけど、

 それでも普通に学校は卒業して来てる訳だから」

「調べなかったんですかね、面接とかで多少わかるでしょう」

「学院としても幻術師が通っている、っていうだけで大きな実績になるから」


 だったらなお普通の勉強に切り替えたら良かったのに。


「魔法学院ではどうだったんですか?」

「ミロ氏が学院出の魔法使い、あのギルドの角に居た連中だな、あれらに聞いた所によると、

 やはりというか相当虐められていたらしい、そして教師からも」

「あー、やっぱり」

「というか、あそこでも虐められていたらしい」

「ギルド内でしたらギルド職員がちゃんと、って虐めってそんな事で解決しないですよね」


 そもそもが余り物の集まりだし、言い方悪いけど。


「地獄ですよね、魔法学院三年間、おそらくわけのわからない高レベルな幻術師の授業を受けさせられ、

 しかもクラスは自分ひとり、味方になってくれる人とかいてもいいのに」

「デレス様、あそこ出の魔法使いに聞いた話だと皆、そんな余裕は無いわ、あってもストレスのはけ口に」

「それで、あーそれで!無垢なアンジュちゃんに魔力を上げる方法って嘘ついて」

「今日まで誰も訂正してあげなかったっていうのが酷いわね」


 あの魔法使い溜まりの中で現在進行形だったんだろうな、そういうのも。


「でも一旦、貴族に引き渡されていたんですよね?」

「それも聞いてきた、酷い話でお抱え幻術師を持っているという自慢のために引き取ったが、

 そこのバカ息子が身体を弄んだのを、アンジュが悪い事にして追い出した」

「それで気が付いたら冒険者ギルドに、って言ってたんですね」

「ミロが抗議したら『アホの子とは知らなかった、息子の教育上良くないから返す』と」

「そもそもその息子、ちゃんと教育されてないじゃないですか」


 うん、アンジュちゃんは、おもちゃじゃない。


「アンジュちゃん、ただでさえ生き難いのに、環境が悪すぎましたね」

「ああ、幻術師というだけで奨学枠だから、食う寝るに困らなかったくらいか、唯一良かったのは」

「でも形だけの卒業だったんでしょうね、あの痩せこけ方を見ると」


 食事も手掴みなうえクチャクチャしててクラリスさんが指導してたなあ。


「私が女神教へ即、入れたのはもし、アンジュちゃんが私達で上手く使えなかった場合、

 お布施と一緒に引き取ってもらうためだったの、もちろん何でもすぐ契約とかしちゃうタイプかどうか、

 確かめたかったっていうのもあるけれど、とてももう、冒険者ギルドのあそこへは戻せないから」


 宗教施設とは本来、そういう面もあるんだよな、

 身体や心にハンデがあるような人の受け皿になったりもする、

 もちろん女神教は宗教としてはしっかりしているとはいえ、コネとお金は必要だろうけど。


「それでデレス様、もし駄目だった場合、定期的に金貨を」

「クラリスさん、いまは仮定で悪い方を考えるのはやめましょう」

「申し訳ありません、まだ何もはじまってませんものね」


 ニィナさんが難しい表情で腕組みをしている。


「とりあえずレベル上げは問題ないだろう、私達三人の今の個人特殊スキルが合わされば」

「そうですね、ってクラリスさんに上書きされた僕の能力、教えてましたっけ?」

「はい、おふたりの会話で想像はついていましたがニィナ様にあらためて」


 実際、どのくらいの速度で上がるかわからないけど、エグい事になりそうだ。


「ただ、アンジュがあの状態で、十代のうちでレベル五十になったとしたら」

「うーん、教育係は必要ですね、彼女の学習能力にもよりますが」

「私、教会の施設でそういう子を何人か見ましたが、本当に、人によってまちまちなんですよね」

「わかります、僕も学園の近くにそういう施設があって、授業の一環でふれあいに行ってましたから、

 本当に良い子たちなんですよ、ただ連れて行ったティムモンスのワーウルフがシッポ噛まれてましたが」


 あの時は悪い事をした、もう老犬いや老ウルフだけど元気かなあ伯爵家に置いてきたポンク。


「そのなんだ、一日では判断つかなかったがアンジュの状況が、

 単にまともに教育を受けなかったから、というのであれば時間をかけて教えてやれば良い」

「クラリスさんが女神教へ入れたのも、それもあるんですか?」

「ええ、女神教の孤児院ではちゃんと勉学もしつけも教えています、そこへお手伝いと言う形も取れるかと」

「引き取ってもらうにしても、なにもここシフリンでなくてもよさそうですね、

 いや今は後ろ向きな事は言わないんだった」

「学び直す先の話を言っているのであれば正しいぞ、冒険者活動と並行して行かせるのは、負担が大きいか」


 冒険者……そもそもアンジュちゃんは本当に冒険者になりたいのだろうか?


「まずはアンジュちゃんと幻術師、冒険者以前の問題として向き合っていかないといけませんね」

「ああ、アンジュは自分のその、自分自身の人としての状態、状況をどこまで把握しているのか」

「教会での知識ですが、告げた方が良い人と告げない方が良い人もいるそうで、そのあたりは専門家が必要かと」

「こういうのって本当、難しいですよね、全てがすべて1と100ではないですから」

「程度というやつだな、そのあたり、明日一度、いっそダンジョンへ連れて行ってみるか」


 レベルを上げるためには避けては通れない道だし、

 本当にレベル五十まで上げるつもりなら、早ければ早い方がいい。


「とりあえずいるだけでいいので僕が護ります」

「幻術師は弱い、極端に弱い、場合によっては一撃で死ぬ」

「わかってます、僕が彼女の盾に、タンクになります」

「……その言葉、私が言われてみたいものだ」

「わたしもですわ、と、いうことで……」


 僕の背後にまわったニィナさんに羽交い絞めされる!

 そしてクラリスさんが手をワナワナさせながらじりじり近づいてくる、

 真面目なモードから一転していやらしい表情に!


「今夜はお仕置でしたね、どんな声で鳴かせてさしあげましょうか」

「だ、だめです、アンジュちゃんが起きちゃいますって!」

「あら仕方ありませんわ、でしたら『サイレントヴィーナス』の魔法を」

「え、ええっ、僕にかけろと」

「命令です、部屋を無音にしなさい、今すぐに!」「は、はいっ!」


 こうしてこの夜、僕はふたりの淫乱バーサーカーに蹂躙されたのだった。

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