第441話 人魚族と港あるある
「ここか、ごく普通の港ではないか」
船が沢山係留されている広い港、
ただ、見えないバリアの先は魔物だらけなのはここからでもわかる、
その内側に人魚族が避難しているというのだが……
「えっと、水中装備を出しますか、それともナスタシアさんに早速」
「いや待て、まずはニッチから聞いた通り、餌を撒いてみよう」
「あー、言ってましたね、上からバラ捲けばいっぱい顔を出すって」
海は意外と濁っていて、
水面下がどうなっているかわからない、
この状況でナスタシアさんに潜ってもらっても確かに会えないかも?
「人魚の餌って何でしたっけ」
「何でも良いらしい、よってデレス」
「あっ、さっき貰ったヤツですよね」
僕は貰ったアイテム袋から早速、
ポーターおせんべいを一枚取り出した。
「じゃあ軽く……えいっ」
投げたのが海面に浮くと、
女性の顔が出てきておせんべいを掴んで、
咥えて潜っていった、うん、確かに居た。
(暗い海からああ出てくると、ちょっと怖いな)
「なんだ、会話する暇も無いな」
「じゃあ次は三枚……えーいっ」
すると今度は違う顔が三人、
同じように手に取ったり直接咥えたりして、
あっという間に海の中へ沈んで行ってしまった。
「あの、警戒されているようですね」
「クラリスさん、わかるの?」
「ええ、表情や仕草で、なんとなく」
その割には餌は普通に食ってるぽいんだけれど、
いや亜人に対して餌は失礼か、でもそんな感じだもん。
「よし、ならば十枚……それっ!!」
できるだけバラけるように捲くと、
出るわ出るわ頭が顔がちゃんと十人、
今度も全員別の顔だ、そしてすぐに居なくなった。
「……ひょっとして皆さん、飢えてらしている?」
「デレス、もっと増やそう」
「あっはい、ならば今度は……百枚で!」
さすがに僕ひとりでは持ちきれないので、
ニィナさんクラリスさんヘレンさんナスタシアさんにも二十枚づつ持ってもらう。
「ボクもーボクもー」
「アンジュちゃんは次ね、では行きますよ……はいっ!!」
百枚が海面に舞い落ちる!!
(うっわ、一斉に出て来た。これ百人居るや!」
どんだけ水面下に潜ってるんだっていう。
「ありますな、こういう港」
「イワモトさん、そちらの世界にも人魚が?!」
「いえ、普通の魚ですぞ、港あるあるですのう」
軽く奪い合いにもなってて、
咥える瞬間にエルボーで横取りされてる人魚も居た、
ちょっと可哀想だ、よーし今度は……
(海面に話しかけてみよう)
「ええっと、今、おせんべいを横取りされた人魚さん、個別にあげるので顔を出して下さい」
……しばらくしてひとつ、ふたつ、みっつよっつ……
って十二人も出て来た、そんなに居たっけエルボーされた人魚。
「ちゃんと受け取って下さいね、そーら」
十二枚投げ込むと受け取って沈んで行った。
「ふむ、統率が取れているのかいないのか」
「ていうかニィナさん、これ会話できていません」
「よし、もっと良い餌で釣るか」
となると……
僕はコモモを二十個、アイテムボックスの方から取り出した。
「今度はボクもー」
「じゃあ半分、お願いするよ」
僕とアンジュちゃんで十個づつ持って構えると、
ニィナさんが港に向かって語りかける。
「きちんと話が出来る者、出てきて欲しい、
高級な果実をこれから投げるので偉い者から順に来て、話をしてくれ」
……返事は無い、投げ込んでからか。
(用心深いなぁ)
人魚の涙は万病に効くとか、
肉は不老不死になるとか伝説があって、
住んでいる島が見つかると根こそぎ狩られるって噂だし。
「ではデレス、アンジュ」
「はい、行きます」「たーんと、おたべー」
勢いよく投げると、
どこからともなく来た物凄い速度の鳥型モンスターが、
コモモをふたつばかり空中で咥えた!!
(港あるあるだーーー!!)
「させないよっっ!!」
アンジュちゃんが杖を手にダークインテグレードを放つと、
鳥の魔物に命中して咥えたふたつのコモモごと落下する!!
「わぁ豪華!!」
そう言って海面でキャッチする髪の長いお姉さん!
「失礼、貴殿が族長か」
「はい、このあたりの人魚族の長、サリナミと申します」
他のコモモもしっかり別の人魚が拾い、
そのまま沈まずに待ってくれている、話せばわかるタイプだったか。
「ふむ、サリナミ殿、避難の様子はどうだ」
「もう密集していて大変です、お願いします、外の敵を倒してください!」
「そうかわかった、それで倒し方は」「一番てっとり早いのはですねえ……」
あっ、人魚族の皆さん、
よーーーく見ると……トップレスだーー!!
(うん、水面ぎりぎりで、見えたり見えなかったりしてるよっ!)
おかげで話が頭に入ってこないや。
「ねーねーイワモトさん」
「はい召喚主たるアンジュ様」
「イワモトさんは潜れるのー?」
あっ、そういえば水中装備持ってるのかな。
「アイテムならありますぞ」
「マジでー?!」
「こちらの『泡の貝殻』これひとつで三十分、潜れますぞ」
そんな便利なものが!
「いくつ持ってるー?」
「九千枚程度しかありまぬが」
「だってー、デレスくん」
いやいやいや十分過ぎるでしょう!
などと話している内にニィナさんとサリナミさんの話が終わったようだ。
「よし、では一旦アジトに戻って作戦会議だ」
「あっはい」
何をどうするつもりなんだろうか……?!




