第434話 ヴァンパイアのティムとヴァンパイアのティム
魔王を倒したのにまだ極悪な敵が沸く城内、
やってきたフロアというのは十階と九階を繋ぐ正式な階段だ。
(下が広場になってて、いたいた、ヴァンパイアボーイだ)
「ヘレンさん、あれ全部ティムして下さい」
「かしこまりましたわ」
「ではワタクシが一匹づつ動きを止めますゆえ」「囮は私が」
モグナミさんがヴァンパイアボーイを引きつけ、
イワモトさんが『さすまた』で各個捕縛してはヘレンさんがティムを試みる、
何度かで成功しては次の個体へ、を繰り返し無事、八体のティムが完了した。
「やっぱり魔王を倒せばお供はティムできましたね」
「ああ、しかしコイツを倒しても濃縮された闇魔石にはなりそうも無いが」
「旦那様、ひょっとして闇魔石八個をリザードマンかドワーフに合体させて貰うとかでしょうか」
ヘレンさんのアイディアは面白そうだけど、
せっかくティムできた高位(中位かも?)アンデッドがもったいない。
「その話はまた後で、では本命の方へ行きましょう」
と、やってきたのは操縦室である。
(中に入ると……あっ、マキデが逃げようとしてる!)
「ヘレンさん捕まえて!」
「はい旦那様」
再びしっかり捕獲すると、
観念したかのようにうな垂れたマキデ。
「……いったい私をどうするつもりよ」
「ヘレンさん、もう一体ティムできますか?」
「そうですね、ヴァンパイアボーイを一体解除すれば」
一度の操作できるティムモンスターは八体までだっけ、
でも解除しても待機とかついてこいとか簡単な命令は聞くっぽいけど。
「では上の部屋がティムモンスター小屋と同じ扱いになっておりますぞ」
「えっイワモトさん、どういう事?」
「ハシゴの上、あの部屋で解放すれば問題ないという事ですな」
言われた通りハシゴを登らせようとしたら、
アンジュちゃんがヘレンさんごと転移してくれた、助かる。
そしてヘレンさんだけハシゴを下りて戻ってきた。
「では旦那様、始めますね」
「い、嫌よ、人間の傀儡になるなんて、どうせ酷い事するんでしょ、そこの人間が!」
「えっ、僕?!」「安心しろマキデ、デレスは性的には、酷い事をするより酷い事をされる方が好みだ」
(やめてーーー!!!)
「とにかくティムなんて嫌よ!!」
「では諦めて、今の状態でお前の魔石を抜き出そうか」
「そ、それもやめて! おねがい! 何でもするからっ!!」
えっ、いま何でもするって言ったよね?!
「ではティムされろ、ヘレン」
「はいニィナ様」
「いやあああああああああ!!!!!」
こうしてマキデは無事、
ヘレンさんにティムされたのでした。
「さあデレス、これでいつでも魔石を奪えるが」
「それなんですが、多分アレが使えるので、一旦屋敷へ戻りましょう」
「じゃーとぶよー」
こうしてアンジュちゃんの転移で、
ザザムの別荘へと戻ってきたのだが……
(あっ、チゴパスが吊るされてる!)
ボロ雑巾みたいになった役立たず幻術師が、
天井から吊るされていた、後ろ手でゆっくり回っているチゴパス。
「わっ、私は実戦は向いてはおらんっ!」
「うわっと、ニィナさん達、お帰りなさいっす」
「ああ、魔王は倒してきた、魔石は無いが代わりにこいつらを……」
と見渡すと、ぼーっとしたマキデは居るものの、
他のヴァンパイアボーイまでは転移してこなかったみたいだ。
「かいしゅーしてくるー?」
「そうだな、ヘレンと頼む」
「あいあいあい」「行って参りますわ」
再びふたりだけの瞬間移動、と思ったらイワモトさんもか、
こうやってルーナ城の内部と転移で行き来できているのは、
魔王を倒したからなのか、それとも元からできたのか、まあいいや。
「アマリ! 無事でよかった」
「お爺ちゃん、ただいまー!」
「七大魔王相手に大活躍だったぞ」
代理だけど。
「お姉様!」
「ライリア、心配かけてごめんね」
「姫、うぅ、良かったぁ」
妹もおっかさんも涙ぐんでる。
「皆さん、冒険者ギルドで報告しませんか?」
「モグナミ、そうだな、そしてご苦労であった」
「いえ、私もレベルが上がったようで嬉しいです」
良かった、ソロでもちゃんと経験貰えたんだ。
「ただいまんごすちん」
「マンゴスチンというのは『果物の女王』と呼ばれるですね……」
「回収して参りました」
ちゃんとヴァンパイアボーイ八体がやってきている。
「えっとじゃあ、アンジュちゃん、えっと……いや、僕も行こうかな、
連れて来るなら僕とアンジュちゃんだけでいいかな、マスマ町へ行こう」
「どっちで行くー?」「えっ? あっ、そうだね、じゃあ転移魔方陣で」「あーい」
なぜか転移スクロールを節約した僕であった。
(……という事で無事、到着と)
「ワタクシもついてきてしまいました」
「あっそうか、アンジュちゃん、仕舞ってあげて」
「ぐんないべいびー」「これにて失敬」
ってここ狭いな、
なんでも僕ら専用の転移魔方陣のために小屋を借りたらしく、
扉が打ちつけてあってアンジュちゃんの転移でないと出入りできないようになっている。
「んじゃ、どこいこー」
「ヴァンパイアハウスだよ、転移で行けるかな?」
「よゆーよゆー、んしょー!」
おお、お城の屋根の上だ!
(今更だけど、もうすっかり夜だな)
「じゃ、のぞこー」
僕も浮かせて貰って窓に貼り付くと、
ヴァンパイアのキュンが内側から、
同じように窓に貼り付いていた?!
「きゃああああああ!!!」
素で驚かせちゃった、
下で馬車が驚いてら、これはあれだ、
アトラクションが終わったばかりの人を乗せて出て行く所だ。
(それを見てたんだろうな、そこへいきなり僕らが)
瞬間移動で中へ。
「な、何よアンタたち急に!」
「ええっとごめんなさい、ちょっとお願いがあって」
「見送りに行ったシュミットを待ちなさいよ!」
あっ、執事さんの事ね。
(でも話は進めておこう)
「ええっと、実は僕ら、魔王城を攻略しました」
「……ちょっとそれ本気で言ってるの?!」
「はい、マキデさんはご存じで?」「すっごく後輩だけど面識はあまり無いわね」
無いんだ。
「彼女を、ティムしました」
「……えええ、それも本気で言ってる?!」
「という事で、魔王城を操作したいので、お母さんの魔石を貸してください」
うん、これで動かせられると良いのだけれども。