第419話 甘すぎる僕とニィナさんが真っ先に確認した事
「な、なんでしょうか、ベルグレイス、さん」
「助けて欲しい仲間が、ちいとばかし、居やしてね」
奥から出てきたのは冒険者三人だ。
「この間の事件、岩盤崩落やハーピー大襲来とは関係ねえんだが、
ウチの組織で以前、身を挺して庇ってくれたり魔物と相討ちして、
重傷を負った者達だ、毒に犯され続けているヤツも居る、どうか、どうかコイツらを」
あーはいはいはい、
そういうことでしたかぁ、
だからあんなにやたら親切に護衛とかを。
(こうわかり易いと、むしろ清々しいな)
「でー、ボクたちに何か良い事あるのー?」
「アンジュちゃん……」
まあ、今回に関しては合ってるのかなこの言葉。
「パーティー名の頭に『ウィング』が付くのは俺らの組織のモンだ、
何か困った事があったら何でも申しつけてくれ、出来る事はなんでもやらせてもらう」
そうは言っても別大陸だしなぁ、
天大樹のレベルアップに人員が欲しい時くらいかな必要なのは。
七大魔王で人海戦術が必要な相手が出た時に、とも思ったがもはや僕らだけで何とかできそう。
「ヘレンさん」
「ここは旦那様にお任せ致しますわ」
うーん、アマリちゃんシカーダちゃんを見ると、
まるで『助けてあげて』って言っているように思えてくる。
(さすがにこれを助けるのは、甘すぎだろう……)
依頼でも無いし。
でも、でも……
「じゃヘレンさん、ゴッちゃんを」
「かしこまりましたわ」
「あんまーーーい!」「アンジュちゃん、言いたい事はわかるよ、ごめんね」
なぜか謝っちゃった。
「おお、俺を助けてくれたサキュバスが! で、では」
「ゴッちゃん、治してあげて」
「わかりました、時間がかかるかも知れませんが」
とは言ってもそれぞれ七回目、四回目、十一回目の詠唱で……!!
「おお、足が、俺の足が戻った!」
「ああぁ……毒が、毒が綺麗さっぱり!」
「私の腕が、魔力も元に戻っているわ!!」
うん、良かったね、みんな大喜びだ。
「あーあー、治しちゃった」
「アンジュちゃん、そんな言いか」「アンジュの姐さん、ヘレンの姐さん、デレスの旦那ぁ、ありがとう!」
僕の言葉を遮るように感謝するベルグレイスさん、
かと思えば僕の両手を握って真っ直ぐ見つめてくる、
いやもちろん目線は下向きだよ、身長差がエグいからねっ!
「これはできればなのだが、あとひとつ……あとひとつだけっっ!!」
そう言った後ろから姿を現したのは、
ベルグレイスさん程では無いものの背の高い獅子獣人の女性、
一緒に手を繋いで来たのは二歳か三歳くらいの子供だ。
「俺の八番目の息子なんだが、生まれつき目が見えねえ、その、できればでいいんだ、できれば……」
「ゴッちゃん、お願い」「わかりました、これは回数がかかると思います」
イワモトさんがいつだったか言ってた『タミー声』とやらで答えたゴッデスサキュバス、
どういう声なのかまったく意味がわからないがそれはともかく、
治癒の連続無詠唱が始まった、まあ蘇生まで出来るゴッちゃんの魔力だ、時間の問題だろう。
(ほんっっっとうに、僕って甘いなぁ)
結局、二十数回目で……
「んっ、ぐがっ?! ……がうっ」
「ロイメライ! 俺が、俺が見えるんだな?!」
「あぁ、ロイメライの目が! しっかり私達を……!!」
泣きながら抱きしめる奥さん、で合ってるよね?
そしてそのふたりごと抱き包むベルグレイスさん、うん、良かった。
「じゃあ帰ります、ヘレンさん」「はい、では」
転移スクロールを掲げる、
これ以上居て、また何か追加の、
治療のおかわりが次々来るのは嫌だからね。
「すまねえ、この恩は一生……」「ばいならー」
アンジュちゃんがおそらくイワモトさんに教えてもらったっぽい別れの挨拶を告げると、
ヘレンさんの使った転移スクロールによりラルス村の商業ギルド前に瞬間移動した。
(うん、夜だね、労働者が酒場街の方で賑やかだ)
「続いて~……チェイング!」
というアンジュちゃんの掛け声で天大樹の居間へ、
なんだか床を見ると線が引いてあるその内側に到着だ、なんだこれ。
「おお、みんな戻ったか」
「はいただいま、ってニィナさん、この線は何ですか」
「転移魔方陣のようなものだ、ようは人にぶつからないよう開けたスペースだな」
なるほど。
「そういえば転移スクロールだと、ぶつからないんですよね」
「おっちゃんがねー、『そういうアイテム』って言ってたよー」
「じゃあアンジュちゃんの瞬間移動の場合については」「しらなーい」
外は、夜は夜だけど、どのくらい夜なんだろう?
「それでデレス」
「はいニィナさん」
「……まずはアンジュ、皆を送ってやってくれ」
あっそうか、
わざわざみんなここへ連れて来なくても、
ジュマジさんの屋敷の方へみんな運んで先に帰ってもらっても良かったかも。
「んじゃいってくるけど、何かお言葉あーるー?」
珍しくアンジュちゃんに促されてみんな僕の方へ、
まずは姫姉妹からだ、なんだかんだ言って凄く楽しんでいた。
「ありがとうございます、ライリアと一緒に、奴隷である事を忘れられた一日でした」
「私としては姉さんが楽しそうに遊んでいるのを見るだけで幸せでした、ありがとう」
うん、良かった良かった、続いてセーラさんとシカーダちゃん。
「娘とあんなに大きな遊園地だなんて、ほんっとうに感謝だわ」
「アンジュちゃん、デレスさん、ヘレンさん、みんな、ありがとう!」
うん、また連れて行ってあげたいけど花火は無理かな、こっちだと夜中すぎる。
そして最後にアマリちゃん。
「アマリ、がんばって姿消すのも、お空飛ぶのも練習するから、もっとレベル上げるから、
ちゃんと戦力になったら、デレスハーレムに入れてねー、アマリほんとにがんばるー!」
ちょーっと、頑張る方向が怖いかなぁー。
「ねーねーアマリちゃんアマリちゃん」
「なーにーアンジュちゃん」
「ちゃんとね、ありがとうは言おうよ」
おお、アンジュちゃんがお姉さんしている!!
「わかったー、ありがとーーー!!」
うん、みんな連れて来て、良かった。
「んじゃ、まずみんなお屋敷、そっからニィナ城に送ってくねー」
「アンジュちゃんお願いね」
「ボクは戻ってくるよー」
と六人が瞬間移動で消えた。
「よし、それでデレス」
「はいニィナさん」
「一応確認するが、娼館へは行っていないだろうな?!」
聞きたかったのは、それかーーーい!!!