第415話 シャマニース大陸の首都ムンサンとは
「きちゃった」
なぜか色っぽい声で転移スクロールでの到着を告げるアンジュちゃん、
目の前はやたらでかい冒険者ギルドだ、なんだこれ、二階の窓にわざわざ書いてあるし。
『ム ン サ ン 冒 険 者 ギ ル ド』
窓ひとつに一文字、わざわざ内側から貼り付けたのか。
「アンジュちゃん、そんなヤンデレが家の前で立ってるみたいな言い方して」
「デレスくん、そういうのがすきなのー?」
「んー、精神的にじわじわ攻められるのも嫌いじゃないけどほら、ニィナさんだと有無を言わせず、って子供居るから!」
うん、アマリちゃんシカーダちゃんライリアちゃんに変な知識は入れたくない。
「身体の大きい方が多いですね、シカーダ、離れちゃ駄目よ」「うんママ」
確かに朝の冒険者ギルド前だけあって、
屈強な猛者たちがいっぱいだ、そして亜人が多い、
ていうか朝なんだ、僕らとしてはお昼ご飯を食べたい頃合いなんだけど。
「えっと、みんなはぐれちゃ駄目だよ、ちゃんとくっついてね」
「旦那様、シャマニース大陸の知識は」
「僕の知っている限りだと『恐ろしい人外魔境』だけど、首都ムンサンだけは安全なんだっけ、でも……」
ホゥクラさんによれば、
自由の国、おおらかな国だからって犯罪者も多く、
首都であっても油断ならない、でもそこを気を付けていれば本当に楽しい所だと。
「私とアンジュ様とナスタシアが以前来た時は色々と大変でした」
「あっ、そういえばアンジュちゃんが来られるって事は、そういうことだよね」
「ボクらがたすけたぼーけんしゃで、ここ来たいってゆーのが、そこそこまーまーいたからー」
じゃあムンサンに行った事のある冒険者に転移スクロール使って貰ったのか。
「ねーねーここってそんなにこわいのー? アマリ、アサシンの姿のが良かったー?」
「ううん、今日は遊びだからね、みんなおそろいの服だよ」
そう、冒険者だと変なのに絡まれる危険が他所より高いとホゥクラさんから聞いていた、
なのであくまで『観光客』である事を前面に押し出すため、みんな例のクソダサ熊ちゃんシャツを着ている。
(だって、おそろいって言ったらこれしかなかったんだもん!)
ヘレンさんのだけサイズがちょっと、
うん、熊が何か違う魔物になって伸びてる。
(今度、ヘレンさんやニィナさんのサイズのも買うかぁ)
なんなら今すぐ転移スクロールで買いに行けるが、
ちょっと待っててって隙に何かがあるのは怖いし、
じゃあみんな一旦戻ろうっていう気にもなれない。
「あの、旦那様、どうなされました」
「いや、服が窮屈かなあと」
「遊ぶ分にはそれ程でもありませんわ」
戦わないし、まあいっか。
「あのすみません、ここって」
「結局、どういう所なのですか?」
見知らぬ土地で不安そうな姫姉妹、
ナタイラさんとライリアさん、もちろん例のシャツ着用だ。
「本来は選ばれた冒険者、高レベル高ランクの者が来られる狩場なんだけど、
でも観光地としても栄えていて、大金持ちが他の大陸から遊びに来る場所だよ」
うん、わかりやすい。
「アマリわかったー、ニィナスターライツって大金持ちだもんねー」
「こら大声で言わない! 高価な物とか身に着けてないよね?あっ、そういえば指輪と武器」
「ニィナさんに返したよー、デレスお兄ちゃんが眠っている間にー」「そうですか」
さすがだな、ぬかりは無い。
「ボクも、杖も鎌もアイテム袋だよー」
「偉いねアンジュちゃん」「えへへー」
素のアンジュちゃんでも魔力が凄いから、
暴漢が八人くらい来ても何とかできそう、
いや、何とかするのは僕とヘレンさんの役割でもある。
「じゃあええっと、アンジュちゃん、優待券が貰えるんだっけ、商業ギルド?」
「観望者ギルドだよー」「???」「あっ、ぼーけんしゃだったー」
わけのわからないボケはイワモトさんの影響かな。
「って屈強な人だらけで外まで並んでるけど」
「でえじょおぶだ、しんぺえねえ」「どこの訛り?!」
あっ、瞬間移動した!
みんなまとめて冒険者ギルドの中、
列と列の間の、空いている空間に入ったが良いがこれ動けないぞ?!
(ホゥクラさんに、気を付けろって言われてるんだけどなぁ)
なんでもここムンサンの顔役は代々厳しくて、
入って来た冒険者、特に勇者はいきなり顔面を殴りかかってきて、
避けられなかったり防ぎきれないとギルドの外へポイされるらしい。
(でも気に入られると、名物の『鳩焼き』をふるまってくれるらしいけど、でも、でも今は……!!)
「ええっと、どうしよう」
「おいおいおい、どけどけどけ!!!」
うっわ、やってきたやってきた、
列なんかお構いなしで横断してきたでかい獣人、
獅子獣人の男性か、それでもでけえ、さすが全てがビッグサイズの大陸だ。
(そしてこっちへやってきた、お供もいっぱい居るな、やべえ)
気が付いたら取り囲まれてる、
やはり場違いな格好だからかな、
どうしよう、ここでいきなりトラブルは、連れてきた子たちが楽しくなくなる。
「アンジュちゃ……」
「アンジュの姐さん、先日はお世話になりやした!」
一斉に片膝着いて頭を下げる獣人たち!
アンジュちゃんはゆっくりと頷いている!!
「うむ、ベルグレイス、ごーくろうっ!」
(え? え? えええ???)
「ヘレンの姐さんも、おはようございやすっ!」
「その後、お身体はどうかしら?」
「へえ、俺も仲間もみんな、ばっちりでやす!!」
(い、いっ、いったい何したのおおおおお?!?!?!)




