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【ついに完結】草食勇者と淫乱バーサーカー  作者: 風祭 憲悟@元放送作家
第三章 育成勇者と褐色ボクっ娘幻術師
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第39話 あぶれた魔法使いと紛れていた幻術師

「朝日が……黄色い」


 シフリン魔法共国に着いた僕の第一声がこれだ。


「なんだ寝る時間あったではないか」

「そうですわ、冒険者たるもの、三時間眠れば十分と聞いています」

「いや僕はふたりを同時に相手にしていたんだから!疲労も倍!」


 それにこのちんちくりんな身体だし、自分で言うのも情けないけど。


「回復魔法はかけたはずですが、もう一回」

「これはそういう疲労じゃないから!」

「冒険者ギルドが見えてきた、あれらしい」


 ルアンコ教国の建物はどれも白を基調としていたが、

 こっちは案の定、黒を基調としていた、

 魔女の館っぽいのもいっぱい並んでいたし。


「この時間は混んでいそうですね」

「だな、どうする?早速ダンジョンへ潜るか?」

「私は構いませんが、どのみち情報収集はしませんと」


 うん賑やか、といっても声がうるさい訳ではなく人が多い、

 どちらかというと私語少な目、これも魔法使いメインの国だからなのか。


「デレス、そういえばアレを渡さないといけなかったな」

「あっ!そうだ、これ、これ」


 アイテムボックスからひとつ取り出す、

 金髪魔法少女ポーター呪い人形デラックスだっけ?


『イヴちゃんおめでと~♪』


 あいかわらず意味不明なことを言うので元にしまう。

 勇者専用受付に行くとすでに三組並んでいて、

 来る前に話していた通り、魔法使いがふたり入ったパーティーもいる。


「あっちは魔法使い四人のパーティーですよ」

「見た感じちっこいな、デレス程ではないが」

「魔法学校があるので、そこの生徒さんかもしれません」


 なるほど実習か、

 そう思いながらあたりを見回すと、

 魔法使いの一団と呼ぶには多すぎる二十人ほどが角に溜まっていた。


「あれは何でしょう」

「ようこそ勇者様、僧侶様、ポーター殿」


 話しかけてきたのは初老の魔法使いだ、

 持っている杖が他より太くて長くて強そう。


「勇者ニィナだ、失礼だがあれは」

「ああ、行き場がなくて困っている若い魔法使いですな」

「そんなのがいるのか、あんなにも」


 ぱっと見、言っては悪いけど孤児院の子供達が避難してきてるみたいだった。


「冒険者や貴族のお抱え魔法使いを目指し魔法学校を卒業したものの、

 パーティーに拾ってもらえず、自分たちでパーティーを組む力もなく、

 当然、ソロでやっていける力もない低レベル魔法使いが、

 ああやって拾い上げてくれる人を待っているのですよ」

「もったいないな、学校も無料じゃないだろう」

「よほど魔力があったり特別な能力があれば奨学枠がありますが、

 そのような生徒は入学時点でほぼ行先が……申し遅れました、

 吾輩、シフリン国首都ノノンの冒険者ギルド顔役、ミロと申します」


 何か書いてある紙の束を出してきた。


「あの子たちのリストです、良い子がいれば、是非」

「そんな事もしているのか」

「ええ、冒険者は半分引退していまして、

 皆さんを見て魔法使いをお探しだと直感してお節介を」


 良い人なんだろうなあ、

 ニィナさんがぺらぺらと紙をめくると、

 ある文字の所で動きが止まった。


「なんだこれは」

「ああ、みなさん最初はびっくりしますが、相当な訳ありでして」

「ニィナさんいかがなさいました?……こ、これは、幻術師?!」


 まさかのレア中のレア職業、幻術師の名前が出てきた!


「名前をアンジュと申しまして十八歳の幻術師です」

「やはり育成に時間がかかるから敬遠されているのか?」

「さようで、時間がかかるどころではなく、育成は無理かと」


 ミロさんがちらっと魔法使いだまりの奥を見る、

 でも、どれがそのアンジュだかわからないや。


「幻術師に関する言い伝えはご存じですかな?」

「デレスはそちらの大陸では」

「はい、『幻術師は孫に渡せ』と言われるくらい育成に時間がかかると」

「うむ、私が聞いたのは『幻術師 七十、八十は洟垂れ小僧』だな」

「九十歳になってようやく、まともに戦力になるという事ですね、教会でも聞いた覚えがあります」


 おそろしくレベル上げに経験が必要かつ、

 かなり高レベルにならないと、ちゃんとした魔法を覚えないらしい、

 ただしそこからが幻術師の真骨頂だとかなんだとか。


「アンジュの場合、普通の幻術師が九十歳でレベル五十になるとすると、

 調べた結果、二百五十歳までかかるという事だそうで」

「それは絶望的だな、誰も組まないはずだ」

「はい、魔法学校に入って三年勉強、実地訓練をしても

 卒業間際にやっとレベル二になったようで、それであの状態に」


 普通だったら冒険者になるのを、あきらめていそうだけれど。


「望みはあるのか」

「大富豪かSランクパーティー、もしくはどこかの帝国、大国が、

 シャマニース大陸にあるとされる『レベルアップの実』を大量に保持し、

 それを惜しげもなく飲ませるくらいしか方法が……」

「そんなアイテムがあるんですか!」

「ええポーターさん、ただ5%の確率で命を落とすらしいですが」

「それ大量に飲んだら死ぬんじゃ」


 でもレベルアップの実はないけれど、

 あきらかにうちのパーティー向きなのでは?


「会えないか」

「よ、よいのですか?レベル3になるのは、おそらく十年後ですぞ」

「話をしてみたい」


 ミロさんがいそいそと魔法使い溜まりに行った、

 奥から死んだ目をしたズタボロの痩せこけた背の低い少年、

 褐色で濃い青髪だが切ってないのかボサボサで長い、

 服も布きれをまとったみたいで汚い、本当に十八歳なんだろうか?


「名前を言ってみてくれ」

「……アンジュ」

「年齢は」

「十八」

「学校の成績は」

「幻術師首席卒業、ボクしかいなかったけど」


 つまり首席にして最下位か。


「よし、いくらだ」

「おやおやおや、よくあるんですよ娼館に売り飛ばすとか」


 確かにこんな子なら男でも売れそう。


「そんな事はせぬぞ、これでも勇者だ」

「レベルアップのあてでも?」

「ないことは、ない」


 じーっとニィナさんの目を見る、

 ひょっとしたらスキルか何かを使っている……?


「わかりました、ただ、後で娼館に売られていた場合は罰せられますから」

「せぬと言っておるであろう」

「お代は基本的にはいただいてません、いただくのはお気持ちだけです」


 お気持ちとして金貨を一枚渡した。


「ありがとうございます、アンジュ、今度こそ、戻されないようにな」

「……どうせ、飽きて、捨てられる」

「色々と辛い思いをしてきたのだな、安心しろ、このニィナが護ってやろう」


 うん、その頼もしさはよく知っている、

 でも気に入られすぎると夜のベッドでどエライ目にあうけど、

 ってそれはさすがに僕限定だよね?とか思ってしまった。


「また何かありましたら、お声掛けください」

「ああご苦労、ダンジョンについては受付で聞く」


 気が付くとクラリスさんが布の埃をはたいて取ってあげている、

 アンジュくんは何というか、まだ警戒しているというか信じていない感じだ。


「安心しろ、我がニィナスターライツに来た以上は、一人前の幻術師にしてやる」

「……二百五十年かかるのに?」

「詳しい話は宿でな、今はとにかく、する事がある」


 勇者専用受付でようやく順番が来た、

 まずは僕が勇者ポーターのカードを渡す。


「……まあ依頼の運搬をウチに!では早速、案内しますね」

「デレス、話を進めておくからひとりで行ってきてくれ」

「わかりました!」


 僕は別の暇な受付嬢に案内され、

 金髪ヤバヤバ女人形をどさどさアイテム棚へ投げ入れた。


「あ、いくつか貰ってきてもいいって聞きました」

「パーティーの人数分どうぞー」

「じゃあみっつ、いや、よっつか」


 発動率3%とはいえ、あって困るものじゃない、

 現にコイツに命を救われた訳だし、間接的にクラリスさんの命も。


「ありがとうございます、達成の報酬は数時間で記録されると思いますよ」


 戻るとすでに話が終わったみたいだ。


「デレス、ちょっとこっちで立ってみてくれ」

「はい?ええっと、こうですか」

「直立不動で、フードも脱いで、よし……アンジュ」


 僕の隣に並んで立つ、あっ、これは!


「ふむ、微妙にアンジュのが高いか?」

「髪の毛の量も関係してますから、同じくらいでしょうか」

「そういうのやめて!アンジュくんも可哀想でしょ」

「……ボクはそういうの、どうでもいい」

「ごめんね、僕はデレス、十九歳だから、仲良くしよう」


 ちょっと弟ができたみたいで嬉しい。


「……それが命令なら」

「命令とかじゃないから!仲間だから!」

「仲間?……本当に?!」


 やっと少し嬉しそうな顔になってくれた。


「では行こう、宿も紹介してもらった、勇者用で四人パーティ用だ」

「お風呂ありますよね?」

「当然だ、おそらく広い、一緒に入るか」


 ……そうだ、昔、元婚約者のリッコ姉ちゃんが僕にしてくれたみたいに、

 このちょっと臭いアンジュくんをお風呂で洗ってあげよう、

 うん、まだ状況に戸惑っているみたいだから、それできっと仲良く、なれる!はず!多分!

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