第4話 お試しパーティーと仮ポーター登録
僕とニィナさんは朝食を終え、
ずらり並んだ高級宿のメイドや警備に頭を下げられながら外へ出る。
「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」
このVIP待遇、勇者という事で元居た大陸でも何度か経験したがやっぱり慣れない、
堂々と歩くニィナさんの後ろに隠れるようにして表へ……すぐ出た所に馬車が用意してあり、
そこへ入るようにおじいさん執事に促されるが、無視して大通りを進む。
「お嬢様! ミシュロン家へお戻りくださいませ!」
「くどい! 私は忙しいのだ」
「しかし、お嬢様は今や丸裸の身、ここは一旦、お戻りになられては……」
丸裸と聞いてあの逞しくも美しい、
大きな裸体を思い出してしまった駄目な僕。
「さあデレス、まずは冒険者ギルドへ向かいながら今後の打ち合わせをしよう」
「は、はいっ、ニィナさん、よろしくお願いしますっっ!!」
今後は冒険者として生きていくぞという宣言をあの執事さんに聞かせたかったのだろう、
それを聞いて執事さんはもうついてはこなかった、後でまたやってきそうではあるが……。
「すまないな、私の家庭の事情に巻き込んでしまって」
「いえ……あれ? そういえば僕の名前、ちゃんと紹介してましたっけ?」
「昨日、冒険者ギルドの酒場で聞こえてな、
私の名前もちゃんと名乗る前に聞いたんだ、あいこで良いだろう」
僕はさささっとニィナさんの前に立つ、
あらためて見上げると身長差は倍近く感じる、
実際に測ったらそこまでは行かないのだろうけれども。
「新人ポーター予定のデレスです、よろしくお願い致します」
「冒険者としては新人勇者のニィナ=ミシュロンだ、これから頼む」
ぎゅっ、と堅い握手……力強い、でも女性だって思うと恥ずかしい、昨夜あんな事されておいても!
朝とはいえ日もかなり高くなってきたためか人目も多い、僕はまたニィナさんの背後に隠れようと歩みを遅くすると、
横にぴったり並んで歩幅を合わせてくる、これは急いだ方が良いな、と少し早歩きにするとそれにも合わせてくる、
女性相手に歩く速度を合わせろとは元婚約者のパーティー何人かに言われた憶えがあるが、ここでそれを逆にニィナさんの方にされるとは……
「ええっとニィナさん、何か済みません」
「何を謝っている、パーティの仲間ではないか」
「は、はいっ、でも勇者様とポーターでは対等という訳には」
「……今は対等で良い、デレスが正式にポーターになったらあらためて考えよう」
「は、はいぃ……足手まといにならないように、ガンバリマスッ!」
冒険者ギルドに到着すると人でごった返している、
朝は新しいクエストの募集が貼られたり、それぞれやりたい事をできるだけ早く始めたかったり、
様々な理由で混雑している、通常の冒険者受付は結構並んでいて初心者専用受付もこの時間は通常受付に姿を変えている。
「さっさと済まそう」
一番奥の誰も並んでいない大きな窓口、
いかにも勇者パーティーといった勇者、戦士、僧侶、魔法使いの男性四人組だけが何かやりとりをしていた、
魔法使いと僧侶が三十代で勇者と戦士は二十代後半といった感じか、中堅勇者パーティーかな、と見てると受付が終わったらしい。
「失礼いたします」
「ああ」
かっこいい感じの勇者が一言ニィナさんに会釈すると他のメンバーも……
僕には見向きもしないというか気付きもしなかったと言っていいかも知れない、
そして空いた受付にニィナさんが進む、僕もついていく、
直感で元冒険者とわかる巨乳のおば、お姉様が受付嬢だ。
「勇者専用受付へようこそ、まずは冒険者カードの提示をお願いします」
「昨日作ったばかりだが、これで良いな?」
真っさらなカードはE級冒険者……うちの大陸だとF級からなんだけどそこは違うのかな?
彼女の衛兵騎士としての実績をすでに加味されてEからかも知れない、後でちょっと聞いてみよう。
「ありがとうございます、E級からD級へ上がるための説明は必要でしょうか?」
「その説明は受けた、これから中サイズの魔石を取りにダンジョンへ向かう、二百個必要だったな?」
「そうです、一度に全部持ってこられなくてもこちらで記録しておきますので少しづつでも構いませんから」
魔石……魔物すなわちモンスターの、力の源となるもので魔力はそこから発生する、
僕ら人間は心臓がその役割も担っているが魔物はそれとは別でこれがあるために強い魔物は魔法を使ってきたりする、
その魔石を倒した魔物から取り出して色んな事に活用している、昨夜泊まった高級宿の魔導昇降機も動力源は魔石だ。
「そこでひとつ頼みだが、ポーターを雇ったのだが正式な試験は明日なんだ、
だから仮の冒険者カードを頼む」
「わかりました、それでポーターの方はどちらに」
「ここだ」
ひょいっ、と僕は両腕で持ち上げられる、
そんな『モンスターのワイルドキャットをティムしてきましたー』みたいに見せなくても!
受付嬢さんは苦笑いしながらもカードを用意してくれた。
「こちらはあくまでも仮ですのでこのギルドでしか使えません、お名前をお書きください」
「は、はい、ニィナさんもういいから!」
ずっと持ったまま書かせようとしなくてもちゃんと手は届く、なんとか。
「デレス様ですね、今日頑張った分は明日、
テスト合格後の正式な冒険者カードに合算されますから、頑張ってください」
「はい、デレス、ガンバリマス!」
この元気の良い挨拶は元婚約者に仕込まれたもので、
損した事は無いのでやめるつもりは無い。
「それではポーターバッグをさしあげます」
「えっ?正式なポーターになってからでないと貰えないんじゃ」
「そうですが合格できなかった方を見たことは無いので」
よく見たら少しほつれてたり擦った後があるから中古か、
ポーターなんてすぐランクが上がるから内容量一倍のバッグなんか使いまわしで良いのだろう、
早ければ初日で次のバッグに交換する事になるんだろうし……よし、肩のベルトを一番きつく絞めたらちゃんと背負える。
「では行ってくる、深淵の森の方向とだけ伝えておこう」
「あそこは奥の方はまだ未調査のダンジョンが多く、
かなり強い魔物が出てくる事もあるので気を付けてくださいね」
「これでも元王国騎士団員の勇者だ、心配しないで良い、ではデレス、行こうか」
「はいぃ」
「ご無理はなさらないでくださいね、この国の貴重な勇者様なのですから」
ああいう心配をしてくれるのも勇者専用受付嬢の仕事なんだなあと思いながら後にする、
今日は昨日色々と話してくれたギルドのヌシみたいな冒険者おじさんはいないのかな? と見回したが、
あのくらいの年齢だとまだ寝ててもおかしくないか、などと考えていたらギルド前に乗り合い馬車が。
「ニィナさん、これで深淵の森まで行けるみたいですよ」
「そんなものは使わん、こっちだ」
「は、はあ」
ギルドの裏手の建物へ、ここはティムしたモンスターを預ける獣舎だ、
テイマーが買う事も売る事もできる、二階建ての面積を広く取った建物、
入って階段を上り二階へ、さらに上り屋上へとつくと中サイズのドラゴンが並んでいる。
「あ、勇者便の近距離タイプか」
「よく知ってるな、勇者とそのパーティだけが使える」
上空を見ると四人乗りドラゴンにさっきの中堅パーティーが乗ってどこかへ飛んで行った、
ニィナさんは獣を懐かせれば王国イチみたいな白髪なおじいさんテイマーぽい人に銀貨を何十枚か渡している。
「深淵の森まで」
「はいはい二人乗りだね」
用意されていたのは紅いドラゴン、まんまレッドドラゴンと呼ばれる種類で火山に生息する、
ティムした証の首輪は銀色だ、操縦するテイマーがすでに乗っていてその後ろに僕が座らされ、
その後ろにニィナさん、いやこれ子供を胸にしまっているような形になっていないか?!
「では頼んだ」
「ハッ!行くぞシノン!!」
ドラゴンの名前だったのか応えるようにひと鳴きして上空へ舞い上がる、
この急激に上昇する、身体がひゅんってなる感覚も慣れないんだよなあ……
「さあ私たちの初仕事だ、何も心配はいらない、私に任せてくれ」
「はいはい……」
本当は男が女性に言うべきようなセリフなんだけど、
勇者が新人ポーターに言うセリフだと考えると普通か、な?
うーん、なんというこの男前な女勇者様なんだ! と僕はそのぬくもりを感じながら思ったのだった。