第374話 一瞬だけという事でミリシタン大陸に戻ってみた
昼食が終わり会計を済ませ、レストランの外へでた。
「んじゃ行ってくるねー」
「あっ、待って! イワモトさん、転移スクロールって距離が遠くても問題無いんですか?」
「ゲームでは特に何も、ええ、まったく問題はありませんでした」
じゃあどれだけ距離があっても寿命が縮むみたいな事は無いのか。
「戻ってこれないとか無いですよね」
「複数枚あれば……試しに私が使ってみましょうか、ってあれ?」
イワモトさんが取り出すも見て首を傾げている。
「どうしました?」
「何も表示されていません、ゲームでは全ての街を制覇したのですが」
「じゃあここムームー帝国も以前」「いえ、ここは知らない大陸ですな」
やはりサモンになったから、
変な言い方をすれば『自分での行動』つまり自主性は無くなっているのだろうか。
「みせてー……ボクはばっちりー、あれれー」
「どうしたのアンジュちゃん」
「しらないとこがあるー、どこだろー」
あーそれはひょっとして、
アンジュちゃんの生まれ故郷とかでは!!
「なんて街?」
「テールッコだってー、って、もーがっこー」
「い、行ってらっしゃい」「イワモトさん、じゅぎょー見学してってー」
そう言い残して一緒に消えた、
午後の授業ならアレか、シューサーくんとの特訓か、
同じアサシン同士、手合せするのも面白いな、それはともかく。
「ニィナさん」
「うむ、午後は暇だ、アイテム収集も良いが一度、行ってみるか」
「一瞬だけでも……一応、帰ってこれなかった場合に備えて、ええっと留守番を」
クラリスさんは怪我した時に必要、
それを言ったらヘレンさんもか、
ゴッデスサキュバスの蘇生があるからね。
「ナスタシアさん、ニィナ城で待機で」
「かしこまりました、デレスご主人様」
「転移スクロール持ってたよね? 一応もう二枚どうぞ」
さあ、食後の軽い運動って訳じゃないけれども、
今からミリシタン大陸まで、ひとっとび、と言いたいけれども……
「ごめんなさい、怖いんで中間の、スターリ島で一旦良いですか?」
「構わんが入国手続きなしだからな、長居は避けた方が良いだろう」
「わかりました、皆さん良いですよね? それでは……ええーい!!」
転移スクロールを使った!!
「……あっ 朝だ」
「ふむ、いかにも海の島、そこの冒険者ギルドといった感じだな」
「今は混んでいる時間のようですわ、屈強な褐色の戦士が多いようです」
ほんとだ、ここがスターリ島の冒険者ギルドみたいだ。
「あっ、しまった」
「どうしたデレス」
「アンジュちゃんが居れば転移魔方陣を」
でもさすがに長距離過ぎて無理かも。
「それは次でも良いだろう、今は行けるかどうかのテストだ」
「そ、そうですよね、じゃあ次は……まだ怖いので大陸の一番近い所で」
「任せる」
(次はミリシタン大陸の……ププカへ!)
転移スクロールが光ると着いた場所は夜だ、
うん、ププカの首都デムスの冒険者ギルド前に居る。
(ここで受付嬢さんが融通きかせてくれたから脱出できたんだよなぁ)
ちらっと覗いたがその受付嬢さんは居ない、
まさかクビになってやいないかってちょっと不安が。
「ふむ、アンジュが居れば時差というものを理解していたかどうか」
「知識では知っていましたが、遠すぎると本当に、同じ時間でも昼や朝や夜だったりするんですね」
「こちらに女神教の教会は」「クラリスさん、それは今度にしましょう、もうクラリスさんも来られるんですから」
いっそ僕が行った街を片っ端から、
ってそれこそアンジュちゃんやナスタシアさんが居た方が良いな。
「では戻るか」
「いえ、その前に」
「デレスの実家か」
それはまだ心の準備が。
「いえ、お墓詣りです、では行きますね」
(いざ、イクタマッキ村へ!!)
「……うわ、冒険者ギルドができてる! 出張所ってあるけど」
「デレス様、確か『妖精の指輪』を入手したダンジョンがある」
「うん、前に来た時は空家だったのをギルドにしたのか、夜は普通に閉鎖されてるね」
照明とかまともに無い村なので、
ライト魔法をつけて、雪が少し積もる中、少し歩いて小さな勇者の墓へ。
「デレス、これが例の彼か」
「はい、ある意味、今の僕があるのも彼のおかげです」
僕、ニィナさん、クラリスさん、ヘレンさんで祈る。
「……花はあったっけ」
「デレス様、こちらを」
「ありがとうクラリスさん、頼んでもないのに」
造花を一輪置いて、と。
「あっ、今度、暇があったらコモモ採りに行きましょう」
「私で入れるのか?」「うっ、ニィナさん、ごめんなさい」
アンジュちゃんとペアだな。
「ではデレス、一気にモバーマス大陸まで戻れるかどうか……」
「その前にもう一か所だけ! お願いします」「うむ」
転移スクロールを出して飛んだ先は……!!
「なつかしーーーい、ナヒタの街だ」
「こちらも雪が残っているな」
「さっきの村からドラゴン便で四時間の距離です」
夜っていっても結構遅いんだろうか、
みんなを待たせひとり冒険者ギルドへ入って行くと、
まったく知らない受付嬢がうとうとと番をしていた。
「はっ、す、すみません」
「いえ、デレスと申します、これをキャシーさんに」
「サブギルマスにですか?! わかりました、お渡ししておきますが……」「じゃっ」
さっさと出てニィナさんたちと合流する。
「何を渡してきたんだ」
「その、お土産に、例のシャツを」
そう、帝国の田舎名物、くっそダサい熊ちゃんシャツを。
「嫌がらせか?」
「ネタお土産と言って下さい! では行きましょう」
こうして転移スクロールでニィナ城、
ではなくシュッコの冒険者ギルド前へと戻ったのだった。
「うわ、眩しい!」
「……本当に一瞬だな」
「デレス様、これなら一時間で世界旅行も可能ですわ」
あ、ヘレンさんが呆けてる!
「すみませんヘレンさん、帝国のレストランから出てまだ一言も喋ってませんよね、何かひとこと、どうぞ」
「……旦那様のご両親に、早く結婚のご報告を致しましょう」
「やっぱそれかぁ」
いつにしようかな、それ。




