第36話 解放聖女と空気が読めないおっさん
僕とクラリスさん、さらにニィナさんは、
女神教の教祖、レナン様から出される最終試練を固唾をのんで待つ、
僕を見定めるような視線でまじまじ見た後、告げられた言葉は……!!
「クラリスや、その勇者様のレベルを、五十まで育てるのじゃ」
「えっ、デレス様のレベルを、五十に?!」
「そうじゃ、五十になるまで女神教のために戦わせるのじゃ」
……レベル五十?!
「レナン様、レベル五十で、間違いないのでしょうか?」
「そうじゃ、これは経典にも決められておる、それまで二、三年、それ以上かも知れぬが、
女神教でデレス殿と一緒に頑張るのじゃ、五十になった瞬間に認めよう」
「その、五十以上のレベルになれば良いのですね」
「しかし皆で魔王を倒したと聞いた、じゃからしばらくはダンジョンもおとなしいじゃろうて、
信者の獲得や他宗教、特に五大宗教間の争いが仕事の中心に……」
「あのすみません、レナン様、レベル五十以上であればクラリスさんは自由になれるのですね」
ウンウン頷く教祖様、
ふと幻術師のおじいさんを見ると苦笑いしている。
「あの、これを」
「冒険者カードですか、見てさしあげなさい」
「はい失礼します、こ、これは!」
従者のベテラン聖女が驚いている。
「どうしたのじゃ?キラよ」
「こちらの勇者様、レベルが、レベル七十五です!」
「ほうほう……ではレベル五十まであと……な、七十五じゃとおおおお?!」
あ、入れ歯が飛びそう。
「本当か?偽造じゃあるまいか?」
「レナン、このちっこい勇者は本物だ、女神教で手に負える器ではない」
「ぐぬぬぬぬ……う、うむ、よかろう、クラリスよ、婚姻を認めよう」
あっ、折れた!良かったー、幻術師さんも普通の笑顔になった!
「しかし!しかーし!外の世界でも、女神教の布教を忘れるでないぞよ」
「はいっ、ありがとうございますっ!」
「デレス殿よ、クラリスを頼んだ、これも女神様が下された天命であろうて」
「ありがとうございます、クラリスさんを、幸せにします」
「チッ」
あ、いまニィナさん舌打ちしなかった?!
「それでは皆よ、祝福で送り出すのじゃ!」
クラリスさんが私物をまとめ終わり、
最後に聖女仲間のカノンさんとお別れを交わしたのち、女神教を後にした。
「良かったんですかクラリスさん、送別の宴を断って」
「はい、夕食はカーナさんとの予定とニィナさんから聞いていましたから」
「すまないな私の予定に合わせてもらって」
向かった先は冒険者ギルドだ、
そこ併設の食堂で待ち合わせだがその前にと、
勇者専用受付で昨日の魔王退治の精算を受ける。
「まあまあですが、白金貨にも届いてないですね」
「参加者が多すぎたからな、なあ受付嬢」
「はい、でもきちんと分配できたのは良い事です」
そういえばここルアンコでの、前回の魔王討伐では揉めたんだっけ、当事者じゃないけど。
「宝石はこちらです、ちなみにカーナさんは先ほど、先に受け取られました」
「そうかご苦労、あとはもう無いな?実は我々は、もう次の国へ行くのだ」
「まあそれは!どちらへ行かれるのですか?」
「シフリン国だ、今まで世話になった」
「それでしたら勇者ポーター様に丁度良い依頼がありまして」
おっ、僕が呼ばれた!
受付の机の上に顎をのせて応える。
「はい、何でしょう?」
「実は大量の同じアイテムを、シフリンの冒険者ギルドへ届けていただきたいのです」
「了解しました、それはどちらに」
案内された近めの物置、その中にあったのは……!!
「ポーター魔法使いデスデリカ人形512体です」
「ははは……」
「500体の納品で残りは予備や事故、不良品の交換用ですので、二、三体なら先方でいただいても構いません」
うん、無くしたたびに戻ってきそう。
金髪のヤバい奴をアイテムボックスに収納し終わったあと、
約束のギルド酒場へ行くと、すでにカーナさんが出来上がっていた。
「おそかったじゃないのさ」
「すまない、諸々あって」
「聞いてるよ、聖女さん、もう具合はいいのかい?」
「はい、身体的にはもう」
「そうかいそうかい、では乾杯と行こうじゃないか」
みんなお酒を注文する、僕も今日ばかりは果実酒を、
クラリスさんは魔法で毒のチェックを忘れない、良い事だ、
リーダーのニィナさんが立ち上がってエールを持つ。
「ではこれからの旅路を祝して、乾杯!」
「「「「かんぱーーーい!!!!」」」」
ぐびぐび呑んでいると、でかい男性、おっさんがやってきた!
真っ直ぐにカーナさんの方へ来た筋骨隆々のおっさん、背はカーナさん以上だ。
「おいカーナ!大変な事になったぞ」
「おやアンタ、こんな所まで何しに来たんだい」
「ブンベではないか、久しぶりだな」
「ニィナか、アイリー騎士団辞めたんだって?丁度良い、そちらの聖女さんも聞いてくれ」
「あら、私もですか」
クラリスさんまで巻き込まれて何だろう?
「うちのパーティー『キューティアイランド』の回復の要、僧侶チェリンが辞める事になった」
「あんだって?アンタ、体調不良の原因はわかったのかい?!」
「ああ、カーナの時を思い出してピンとは来てた、ご懐妊だ」
妊娠かあ、ってこのブンベって人、カーナさんの旦那さんか。
「一年前、チャンミオの街ではぐれて困った時、助けてくれた一般人と仲良くなったらしい」
「ああ、それでチャンミオに行くたびに宿は別行動だったのかい」
「出産、子育てや相手の事を考えると冒険者は辞める意向だそうだ、そこでだ」
ニィナさんを真っ直ぐ見る大男ブンベ。
「どうかウチのパーティーに入ってくれないか、そちらの聖女様と一緒に」
「アンタ!」
「次の行先はチャンミオだ、そこでお試しパーティーを組んでから決めてもらって構わない」
あー、急に冷たい表情になった、そしてエールを飲み干して言う。
「誰に入ってもらいたいと?」
「勇者ニィナと、そちらの聖女、賢者様にだ、
クラリスさんだよな、俺は剣士のブンベ、妻が世話になった」
「女神教の聖女クラリスです、カーナさんのおかげで魔王を倒す事ができました、ありがとうございます」
普通にぺこりと頭を下げた、つられて頭を少し下げたブンベさん。
「回復役が居なくなった今、ポーションだけではおっつかない、
元々勇者で火力をもうワンランク上げるつもりではいたから、
回復魔法も使えるニィナが来てくれれば完璧だ、いざとなったら後衛でもいい」
わかります、役割分担として、作戦としてそれは使える。
「そのうえ賢者まで加わったとなるとうちのパーティーだけで魔王を倒せる戦力になるだろう、
剣士、タンクがメインの戦士、魔法使い、ここに前衛も回復もできる勇者、攻撃魔法も回復魔法もできる賢者、
これだけ揃えばパーティーとしてバランスも良いしクエストに対する柔軟性もある、儲かるぜ、どうだい良い話だろう」
うん、さっきから思っていたけど、このブンベさん、視界に僕が最初から入ってないな。
「断る」「ええお断りしますわ」
「なぜだ?!悪い話ではあるまい、俺のカーナの実力はわかっただろう、俺はそれと遜色ないぞ」
アチャーという表情のカーナさん、うん、わかってくれてる。
「すまないねえニィナ、クラリスさん、そして何より彼氏、デレスさん」
「いえいいんですよ、いいんですよ僕なんて」
「アンタ!また肩を外されたいのかい?!」
「な、なんだよ、ようやくほぼ治ったばっかりだっていうのに」
「ちょいと来な、状況を説明してやるからさ」
ニィナさんがぽつりと呟く。
「私より強い男が眼中に無いパーティなぞ、入るものか」
そう言いながら、僕の頬にチュッと、キスしてくれた。
「あら私もですわ」
反対側の頬にクラリスさんも!
あー僕、愛されちゃってるなぁ……。




