第34話 ふたつの生命と上書きの夜
魔王を退治し終えた冒険者ギルドは歓喜に沸いていた。
「うきょ!うきょっきょ!うきょきょきょきょー!」
「うきゃきゃきょ、うきゃっきょ、うっきょうきょー!」
「きょーー!うきょきょっきょ、きょっきょ、あ!ありがとうございました!」
今回ばかりは混ざりたい気分だったが素でお礼を言われてしまった。
「戦闘妨害、しかも魔王戦となるとタダじゃ済まないからな!」
魔王にヒールをかけていた僧侶が縛られて連れて行かれる、
赤く光ったままだ、ニィナさん勇者魔法の解除していないのか、
そしてほたほた教の皆さんにやられたと思われる、全身落書きだらけだ。
「あの、これを」
「え?あ、ええっと、メルスさん!先ほどはお見事でした」
魔王に最後の、とどめの一撃を与えた、
パンツは前後裏表四日履く教の、臭さそうな聖女さま(三日目らしい)だ、
黒い木彫りの人形みたいなのを持っている、ボスのレアドロップっぽい。
「ひょっとして、いただけるんですか?」
「はい、今回の主役は皆さんですから」
「ニィナさんどうしよう」
「貰っておけデレス、わざわざデレスに持ってきてくれたんだ」
「では遠慮なく、ありがとうございます」
リーダーのニィナさんではなく、
この僕に渡してくれた事が嬉しかったみたいだ、
そんなやりとりののち、勇者専用受付でみんな冒険者カードを渡す。
「おめでとうございます、ニィナさんは勇者レベル四十三となりました!」「うむ」
「おめでとうございます、カーナさんは戦士レベル四十八となりました!」「やったわさ」
「おめでとうございます、クラリスさんは賢者レベル三十七となりました!」「ありがとうございます」
「おめでとうございます、デレスさんはポーターレベル四十六となりました!」「えっ魔王を倒したのに?」
聞くとポーターの場合、高レベルになると相手がスライムでもゴブリンでも魔王でも経験は同じプラスひとつらしい、ぎゃふん。
「あ!じゃあこれも」
こっそり勇者の冒険者カードを渡すと、確認して囁くように言ってくれる。
「……おめでとうございます、勇者レベル七十五となりました、水晶に手を」
「はい、あとこれも調べてください」
手をかざしつつ、さっき貰った黒い木彫り人形を渡す、
奥で鑑定専門職員がなんやかんやしているうちに受付嬢が囁く。
「新しい勇者魔法『オートリザレクション』を会得されていますね」
「それはどんな魔法ですか?」
「死にかけると勝手に、確実に蘇生してくれます、
ただし一度発動すると次、使えるのがいつになるかわかりません」
再び使えるようになる『次』は、数分後かもしれないし、
数年後かもしれないし、もう二度と使えないかもしれないらしく、
発動後は、こまめに冒険者ギルドでまた使えるか調べた方が良いらしい。
「お待たせしました、こちらのアイテムは『ブレシングライフドール』といいまして、
持っている人の命を確実に護ってくれる代わりに熱くない炎で燃え尽きます」
「こちらも100%ですか」
「そうですね、ですから勇者様は例えて言うと今、命を新たにふたつ貰った事になります」
すごく運が良いな、というか都合が良すぎる。
「そういえばデレス、個人スキルの能力向上を持っていただろう」
「はい、魔王退治の経験値もそれで増えてレベルが上がったのかと」
「おそらくそれは、運も上がるのではないか?」
それでかあ、と自分を納得させ勇者受付を離れる、
ちなみに魔王退治の報奨金やドロップした宝石の分配は人数が多い事もあり、
冒険者ギルドで計算中との事だった、次に来るのが楽しみだ。
(運かあ、運が良いって事は、ひょっとしたら、
ニィナさんやクラリスさんと出会えたのも運が良かったから……?)
遅めの祝福の宴を四人で終えたあと、
カーナさんは旦那さんの待つ宿へと帰り、
僕ら三人はルアンコ教国最大にして最高級の宿に来た。
「金貨ひとり二十枚って凄い値段ですよね」
「何割かはお布施だろう、ここの運営はどこが?」
「女神教です」
あっ、と察する僕とニィナさん。
「これでも夕食抜きの値段なんですよ」
「そうなんだ、そこはちゃんと引いてくれて良かった」
「ここか、最上階の特別ルーム、聖女パーティ専用の」
そう、仲間に聖女がいないと泊まれないという特別室、
豪華絢爛なうえ呼び鈴でいつでも部屋専属メイドを呼べるらしい。
「その、デレス様、本当に、よろしいのですね?」
「うん、保険もふたつあるし、運がいいみたいだし」
「私も混ざりたいのだが危険がまったく無い訳ではないからな、嫉妬で狂いながら待たせてもらう」
そう、今夜わざわざこんな超高級宿へ来たのは、
魔王を倒したお祝いっていう事ではなく、
クラリスさんのいま所持している特殊個人スキルを上書きするためだ。
「確認します、クラリスさんはいま暗殺スキル、性行為をした相手を殺すスキルを持っています」
「はい」
「でもクラリスさん本人の、生まれ持ってのスキルは性行為をした相手からスキルを写し取る能力です」
「そうです」
「で、写し取る個人スキルは強さ、レベルみたいなのがあり、
自分がいま移し持っている能力以上のレベルでないと移せない、上書きできないと」
クラリスさんの話を全て信じると、これで合っているはずだ。
「スキルのレベルを確認いたしましょうか」
「じゃ、じゃあ念のため」
アイテム袋から薄紫の水晶を出し、
まずクラリスさんが手をかざすと結構な光を放つ、
続いてなぜかニィナさん、うん眩しい、クラリスさんより上だ、
そして最後に僕、うわっ、眩しすぎるっ!誰よりも光っている。
「間違いありません、この強さでしたら、上書きできます」
「でもクラリスさんの暗殺スキルが発動するため、僕は命を落とす危険がある、そこで」
「今日判明した勇者魔法ですよね、死んでも一度は復活するという」
「それに加えて身代わりの木彫り人形もあるから使うよ、ふたつ同時に発動したらもったいないけど」
「仕方ないだろう、それより本当にデレスの命が安全か、きちんと生き返るかが心配でたまらない」
うん、ニィナさんの表情が本気ってわかる、僕、愛されている。
「大丈夫です、僕、運がいいから……クラリスさん」
「はいっ」
「僕に何かあったら、代わりにニィナさんを助けてあげてください」
「わかっております」
「嫌だ、私はデレスがいい、デレスしか駄目だ」
あ、涙目だ、僕は胸の中に入って精一杯抱きつく。
「僕はニィナさんが大好きですよ、ですから、信じてください」
「……わかった、扉に背を付けて、終わるのを待っているからな」
豪華なお風呂でひとり、身を清める、
お湯を出す女神像も僕を祝福してくれているみたいだ、
入信する気は無いけれど。
(ある意味、魔王より緊張する……)
九歳も年上の女性相手にこれからする事を考えるが、
これがあの、婚約者だった僧侶フラウ先生だったらと思い浮かべてしまい、
お湯を頭からかぶってその雑念を追い払う。
「これから相手するのはクラリスさんなんだから……」
「はい、失礼いたしますね」
「クラリスさん!!」
バスタオルを胸に巻いて入ってきた。
「お身体を、流します」
「い、いやその」
「ニィナ様から許可はいただいておりますから」
なら仕方ない、と納得してしまい身を任せる、
そういえばフラウ先生に『全身くまなく洗ってさしあげましょうか』って言われて、
慌てて逃げた事もあったなあ、いまクラリスさんから逃げないのは成長か、それとも……
「あの、本当に感謝しております」
「まだその、コトが終わってないから」
「もし済んだら、もう私はデレス様のものです」
「いやそんな、嬉しいけど欲しかったのはパーティー仲間であって、
無理して恋人みたいなのにならなくても」
「いいえ恋人どころではなく、私はデレス様の所有物になります」
あう、だんだん、じわじわと敏感な所へクラリスさんの手が!
「クラリスさんみたいな方を、モノ扱いなんてできないよ」
「では、私は何にしていただけるのでしょうか」
「僕にはすでにニィナさんが居るし、でもまあ、
クラリスさんが本当に僕を想ってくれるのであれば」
「本気です、なぜならこれは女神様の与えてくれた感情だからです」
「あ、そ、そうですか」
まいった、こういう時に宗教を持ち出されると何も言えない、
全ての理屈とか疑問とか理由とかがそれで片付いてしまうからだ。
「その、クラリスさん」
「はいっ」
「僕の背中に、おおきいのが、あたって、います」
「バスタオル脱ぎましたから」
「つ、続きは、ベッドで」
ニィナさんが少しうらめしそうに見送る中、
僕とクラリスさんは寝室へ入る、手を繋ぎながら……
物凄く大きなベッドの枕元に、命を守ってくれる身代わり人形、
黒い木彫りの、ええっとなんだっけ、変な名前のやつだ、ブレッシングなんとか?
あ、変な名前といえば!と、ついでに金髪デスデリカ人形も出す。
「ふたり仲良く見守っててくれよ」
「デレス様、お水を」
「あっはい、んっ?!んんんっっ!」
僕は冷たいお水をおもむろに、
口移しで飲ませてもらったのだった、
そしてそのまま絡み合い、運命の『上書き』へ……
『ギニャアアアアアアアアアアアアア!!!』
とんでもない絶叫が寝室を包む!
「どうした!!」
慌ててニィナさんが入ってきた!
僕とクラリスさんもその声の主に目をやる、
燃えている……熱くない炎で燃え尽きてゆく、デスデリカ人形が!!
「って、そっちが身代わりになったの?!」




