第322話 帝国への出発と天使族の罠
みんなが夕食を終えたタイミングで、
いよいよムームー帝国へ戻る? 事となった。
(大人数だなあ)
例のアンジュちゃんに素足で踏まれたがっていた老幻術師も、
そのスフマさんに負けた人数合わせ幻術師のニョワーさんも一緒だ。
「スフマさん、本当なら自力で帰って貰う所なんですから、ちゃんと感謝して下さいよ?」
「いやいや、ちゃんと冒険者ギルドに頼んだぞ? なあウサギさんや」「はい、私もそうです」
兎獣人アサシンのナツネェさんも一緒にアスリクまで戻る、
結局、今後どうするんだろう、彼女の実力ならウチへの移籍は大歓迎だけど……
(でもケモナー沼に引きずり込まれそうで、正直言って怖い)
今後と言えば『妖精の指輪』を盗んだお猿さんたちだ、
とりあえず八匹のうち半分はバウワーさんに預けたままにして、
残り四匹は今はリーリヤさんがティムしている、ドナジンと一緒に。
「えっと、結局、猿は屋敷留守番の天使が面倒見てくれるんですよね」
「はい、それで話をしておきますね♪」「という事ですジュマジさん」
「騒がしくなるが、アマリの遊び相手になってくれると良いのだがな」
結局、闘技大会でジュマジさんが知ってる老剣士とか老戦士とか出なかったな、
まあ、あの大会は若手が名を売る場もしくは奴隷の展示場みたいになっちゃってるから。
(あ、リーリヤさん以外の天使はとっくに帰ってます、お昼に)
さあ、まずはラルス村の屋敷組からだ、
ジュマジさんアマリちゃんリーリヤさんティムモンス五匹、
ついでにさっさとナツネェさんスフマそのお付き(居たんだ)、ニョワーさんを転移させる。
「いってきまー」
アンジュちゃんが連れて行った隙に色々とお話を。
「ニィナさん、今夜って結局、帝都ママムーに泊まるんですか?」
「流れによるが、冒険者ギルドで即、ドラゴン便を使うのも手だな」
「あーそれで別荘へ、ところで別荘のある街って名前何でしたっけ?」
帝国西の海岸沿いとしか覚えてないな。
「ザザム地方ですね、書類に書いてありました」
「クラリスさんも目を通していたんだ」
「ニィナ様もご存じでしたよね?」「あ、ああ無論な」
……ニィナさんは意外と完璧じゃないって今日わかったから、
なんだか疑わしく感じるな、あっ、もしかして、
今夜ドラゴン便で移動したいっていうのは、夜通し移動でお仕置を避けるため……?!
「クラリスさん、ニィナさんへのお仕置はどうしましょう」
「そうですね、ベッドで、皆でする行為を正座で見ているだけ、というのがよろしいかと」
「あーそれ良いかも、という事でニィナさん、いいですね」「ははっ」
というほのぼの? した会話で待っていたら、
アンジュちゃんだけ戻って来た、意外と速いな。
「アンジュどうした」
「げんじゅつしーがー、さんにんいるからはーやーいー」
「そうか、そういうこともあるのか」
行きの時は気付かなかったな、
いや行きはスフマが居なかったんだっけ。
「では行くか」
ニィナ城留守番組にはすでにしばしのお別れを告げてあるので、
さっさと転移する、まあ何かあればいつでもすぐ戻ってこれるからね。
転移魔方陣をいくつも通って最初の目的地ラルス村のお屋敷へ。
(あっ、早速ドナジンでみんなドーナツ食べてる)
屋敷の天使が群がっている、
あげた魔石で足りるかなって心配になる勢いだ、
リーリヤさんが僕らに、いや僕に気付いてやってきた。
「今日は本当にありがとうございました」
「あっはい、ご近所周りのお手伝いのお礼ですから」
「それで私からもプレゼントなのですが……」
普段は隠匿魔法で消していた羽根をあえて出現させ、
その中から特に綺麗で大きく純白の羽根を一枚、抜いてみせる。
「い、痛くないですか」
「痛くなくはないですがデレス様のためですから、はい、これをどうぞ」
「う、うん、何かの素材になるのかな」
受け取ろうとした瞬間、
その腕をニィナさんにガシッと掴まれた!
「よせ、嫌な感がする」
「えっ、いったい何か」
「他の天使の視線がおかしい」
確かにドーナツを食べながらチラチラ見てたのが何人か、
でもそこまでおかしい感じは……クラリスさんも羽根をじーっと見ている。
「これはおかしな魔力を感じますね」
その言葉に混じってドーナツを食べていたアンジュちゃんがまじまじ見る。
「んー、『全てを捧げる天使の羽根』天使族の婚姻に使う羽根だってー、
受け取った異性は問答無用で夫婦関係になるってー、なんかこわいー」
「ええ?! 僕には『天使の羽根』としか表示されていないけれど」
「ばれちゃいましたかー大丈夫ですよ、天使族の間でだけ記録される婚姻ですからー」
うーん、すっごく怪しい、
よくよく見ると確かにおかしな魔力が、
受け取った瞬間、身も心も奪われたりするんじゃなかろうか。
(ナツネェさんのポイントチャームみたいなものか)
あれも落ちていたら一生、しっぽ狂いにされてたかもしれないからな、
危ない危ない、いくら面倒見てあげた天使でも、
食欲のためなら悪魔にでもなるのかも、現に畑を荒らしていたし。
「おいリーリヤとかいったな」
「ニィナ様でしたよね、少し怖いですぅ」
「どういう事か説明してもらおうか」
あまりの迫力に焦るリーリアさん、
他の天使族もおろおろしている、でもドーナツは食ってる。
「ご、ごめんなさい、わ、私は、私達はもう一生、皆さんの言う事をききますからあ~!」
「その羽根を受け取っていたら、どうなっていた」
「つ、つがいになれるっていうだけですー、要は渡した相手がどんな種族でも、子供が作れるように……」
「それだけか?」「あ、あとちょっと、ちょっとだけ魅了魔法が、ご、ごめんなさあああああい!!」
絶対ちょっとじゃない!!
「デレス、危なかったな」
「はい、ニィナさん、よく気付いて」
「あきらかにリーリヤの、デレスを見る目がアレだったからな」
そうだったのか、まるで気付かなかった。
「あっでも、そんな便利な方法があるなら、村の男性に渡して貢がせても良かったんじゃ」
「ううう、さすがに相手は選ばせて下さい、それに私達、本当に力が弱いんですうっ」
「そうか、よほど力をセーブできるやさしい男でないと無理だな、デレスのような」
セーブできるというより、されるがままになってるような。
「魔力の強い相手でないと子供もできないそうで」
「それで、その抜いた羽根はどうするのだ」
「すぐなら戻りますよー、ほら」
抜いた場所に刺したら何事もなく戻ったっぽい。
「まったくデレスは本当に護ってやらないとな」
「あ、ありがとうございます」
「これでお仕置は無しだな」「いえ、それはそれ、これはこれです」「てへっ☆」
いやそんなげんこつで頭叩いて片目閉じなくてもー!
(それにしても天使族って、本当は恐ろしい種族なのでは……??)
「リーリヤさん、もしこんな方法で僕を手に入れようとしても、
そんな事したらきっと、ニィナさんたちが天使族を滅ぼしますよ」
「はいいい、こんなに良くしてくれた皆さんに、デレス様に、お礼として、
妻として一生、お仕えしたかっただけですう、ごめんなさああああい!!」
さて、ちょっと騒がしくしちゃったけど、
次はアスリクだな……あれ? アマリちゃんがやってきた。
「アマリも魅了かけたーい」
「おいこら!」
アサシンだからね、
成長して魅了スキル習得したら気を付けようっと。
「あの、デレス様」
「はいナスタシアさん」
「私も勇者アサシンですから、頑張って魅了魔法……覚えますね」
いや、顔をポッと紅らめないでー!!