第308話 サモナー最終決戦とまさかの展開
「勝者、スイセ!!」
クリスタルに輝く精霊系の魔物で一角の魔獣を倒したテイマー、
いかにも猛者といった中年女性だ、大喜びで鞭を舞わせている。
「さあテイマー部門の優勝が決まりました、
彼女はお好きなティムモンスターを半額で買う事ができます!」
へえ、この街だとお高いのも多かったはず、
いったいどんな魔物を買うんだろう?
「ではお聞きしましょう、スイセ様、お目当ての魔物は?」
「噂では神獣であるケルピーがこの街で飼われていると聞いたので、
是非とも交渉したいと思います」
いやいやいや、飛び火しないでーー!!
(あれを売るなんて、とんでもない!!)
「クラリスさん!」
「非売品は半額になっても非売品かと」
「だよね、安心して良いよね、無理矢理持っていかれないよね?」
不安ならクラリス城へと持って行くか、
もしくは途中のあの屋敷に、裏庭にでっかい、うにょうにょの樹が生えはじめた……
「さあ皆様、特に男性陣の皆さま、お昼前からお楽しみの時間でありまあっす!!」
おっ、いよいよか。
「サモナー部門エクストラマッチ、まずは挑戦者、ゴブリンサモナーのラティット様、御入場でえぇーーっす!!」
勇ましいゴブリン四匹と一緒に入場してきた、
随分と長い間、一緒に過ごして鍛えてきたのだろうに……
(倒したら記憶も経験も、全部無くなっちゃうんだよなぁ)
このあたりはサモナーの宿命とでも言うべきか、
ゴブリンでもコボルトでも、もっと単純なスライムでも、
長く長く育て続ければほぼ無制限に強くなり続ける、が……
「愛着も湧いているでしょうし、胸が痛みますね」
「しかしこちらも負ける訳には」「ですよねー」
こっちだってあの、そうそうたるサキュバス達が魔石に戻るのは見たくない、
育成のためにさんざん魔石も食べさせ続けているし、
蓄積させた経験はまだ二か月にも満たないとはいえ、消えたら精神的ショックが大きい。
(ここは心を鬼にして……!!)
「それでは皆様の、男性陣のお楽しみ、サキュバスサモナーのヘレン様、ご入場でえっすえっすえっすえっすえっす!!!」
セルフエコーきたああああああ!!!
そしてヘレンさんに続いて飛んで入場、
新顔の黒光りサキュバスに興味津々なお客様も居る。
(うん、見るからに強い、八体ともただのサキュバスじゃないのは、あきらかだ)
「なおヘレン様は『隷属の首輪』をしておりますが、あの!
七大魔王のひとつを倒した『ニィナスターライツ』様の保有奴隷ですので、
そのあたり、当然のごとくアンタッチャブルでお願い致します!」
なんだその表現は!
でもちゃんと告知してくれて良かった、
サキュバス好きスケベエ貴族が白金貨積んで来ても困る。
「さあ勝っても負けても恨みっこなし、サモナー最終決戦、スタートでっす!!」
ゴブリン四匹もさすがにこの相手は、という表情だ、
不気味に見下ろすサキュバス八体、
うん、一体も掛ける事なく終わってこれよ……
(審判が両サモンを見渡して……」
「はじめっ!!!」
結果、サキュバス八体が、
一直線に相手サモナーのラティットさんを持ち上げ、
ぽーーいっ、と場外へ投げ捨てた。
「勝者、ヘレン!!」
うん、良かった、
ゴブリンの攻撃がまるっきりサキュバスには効いてなくって、
何事もなく無反応でラティットさんへずんずんと向かっていった。
「ヘレンさんの様子、安心しましたよ」
「ええ、本来ならサモナーはサモンに護られ、触れられる前に決着がつくはずなのですが」
「力の差があり過ぎて、逆に良かったって感じですね」
うちのサキュバスだけじゃなく、
甘いと言われようが相手のゴブリンも無傷で良かった。
「それでは『ニィナスターライツ』のリーダー、
ニィナ様の意向により、只今よりヘレン様の、
『隷属の首輪』を外させていただきまあああっす!!」
(えええええええええええええええええ?!?!?!)
「クラリスさん!」
「今回の賞金で払ったとしても、まだ借金はあるはずですが」
「思い切った事するなあ、どうなっちゃうんだろう」
(サキュバスの群れを引き連れた淫乱バーサーカーを野に放つかぁ)
商業ギルド奴隷部門の人が何やらカチャカチャやっている、
こっそりニィナさんも居るけどあの巨体でこっそりも何もないな、
そばらく経ったのち……うん、無事に首輪は外された!
「只今を持ちまして、ヘレン様は奴隷を解放されました!!」
やんややんやの大拍手、
コロシアムがこういう盛り上がり方をするとは!
チアーさんが感極まっているヘレンさんに聞きに行った。
「ヘレン様、今後はどうなさいますか?」
「は、はいっ、愛するお方にその気持ちを、伝えたいと思います」
その言葉に僕は、背筋が寒くなった。
(あーこれ僕の方を見ているな、どうしよう)
どうしようもこうしようも、ないか。
突然の、急な事とはいえ、僕には受け入れる選択肢しかない、
クラリスさんを見ても頷いている、ナスタシアさんは……
(な、なんで爪を噛んでいるのおおお?!?!)
羨ましいのだろうか。
聞きたいけど聞くべきじゃないな、う、うん、なんとなくそんな気がする。
「以上、サモナー部門のエクストラマッチでした!
さあ次はいよいよ、幻術師部門の準決勝でええええっす!!」
おおお、ついにとうとう、アンジュちゃんの出番だぁ!!!