第297話 奴隷勇者はもうお腹いっぱい
「勝者、プリンセスバタフライ!!」
大歓声に包まれるコロシアム、
気が付けば相手の女勇者ふたりはベルセルクソードで弾き飛ばされていた。
(ふたりがかりでも歯が立たなかったか~)
でも何気に僕ならどこをどう動いて戦うかシミュレーションしてしまった、
いやもちろんニィナさん相手にである、うん、ニィナさんのクセは知り尽くしているからね、
闘いの場でも、夜のベッドでも……いや知ってても勝てない事もあるけれども!!
「それでは負けた勇者道場のおふたりには、隷属の首輪がはめられます!」
あーあ、商業ギルドのお偉いさんに装着されちゃった、
ニィナさんはアイテムボックスから再度、勇者道場の看板を出して
ベルセルクソードで縦に真っ二つにしちゃったし、まさに公開処刑だな。
(結果的にナスタシアさんの仇を打ってくれた事になるのか)
「それでは退場していただきますが、プリンセスバタフライさんは明日の勇者部門、
ベスト4からのシード参加となりますので是非ともご覧ください!」
えええそんな事になってたのかー!
そうか、参加するニィナさんの知り合いの知り合いって、そういう事か。
(これ、ウチの奴隷勇者に優勝の目は無いな)
「さあそれではこれより、ほんっばんっの開始となりまぁ-っす!
まずは拳闘士部門のベスト16からでありますが、こちらにもシード選手が……」
ウチの奴隷参加者が気になるが、
やっぱりここはニィナさんが気になる。
「ごめん、ちょっと行ってくる」
「デレスくん、とぶー?」
「んーー、いいや、入れなかったら後で頼むかも」「りょかーい」
なぜか『う』を抜かしたアンジュちゃんは放っておいて、
歩いて地下の控室へ向かう、うん、この時間に入場する客も多い、
あのエキシビションマッチを見られないのは損だったな。
(ええっと、こっちだこっちだ)
冒険者カードを見せるとすんなり入れた、
やはりここシュッコだと七大魔王ビーストシュータを倒した肩書きは大きいようだ、
係員に聞いて進むと例の天使族三人の横を通りがかる。
(うっわ、コロシアム名物弁当の空が山積みだ)
そして喰う喰う三人、見た目お綺麗なのに。
邪魔しないよう、そっと通り抜けるといたいたニィナさんたち!
丁度、勇者道場の女勇者ふたりに奴隷主人の登録をする所だった。
「ニィ、いえプリンセスバタフライ、お見事でした」
「デレス、一緒に登録するか」「あっはい」
僕も一緒に隷属の首輪へ手をかざしてっと、
これでいつでも好きにこの首輪を絞める事が出来る、
書類を見ると普通にニィナさんの名前がある、そこは隠さないんだ。
「うっ、ううっ、うううううっっ」
低い声で泣き続けるのは坊ちゃん勇者、要塞都市だっけ?
アリスとかいう国の第三王子、お付きの幻術師が慰めている。
「坊ちゃま、しっかりなされい、このチゴパスが必ず優勝し、一緒に奴隷解放してみせますゆえ」
「ううっ、た、たのんだ、も、もう、もう、じぃしか……」
あっそうなんだ、
司会のチアーさんが派手に売るとか言っちゃったけど、
まだそんなワンチャンがあったとは。
(でもアンジュちゃんは手強いゾ)
「おいトロベリ、命令だ、さっさとコレに着替えろ」
ピンクのシャツを渡すニィナさん、
それを広げた王子は絶望の表情になった。
「な、なんだこのセンスの欠片も無い、熊の絵は」
「このようなもの、着る必要なぞありませぬぞ……ぐわあああ!!」
容赦なく手をかざして爺さんの首を絞めるニィナさん、
その様子に慌てて着替える坊ちゃん、うん、これは指さして笑われる。
「ううう、うううううっっ」
また泣き始めた、
わんわん泣かないのはやはり王子たるプライドだろうか、
この奴隷勇者王子の運命やいかに、それは明日の幻術師部門にかかっている。
(ってよく考えたら『奴隷勇者王子』って凄いワードだな)
見た目もコレになったし。
「さあリサル、オルカ、お前たちも着るんだ、奴隷だから今すぐここでな」
「ニィナさんそれは可哀想です、あっいやマダムバタフライ、いやプリンセスバタフライ」
もうめちゃくちゃだぁ。
「こういう時はだな、おいお前たち、並べ、トロベリお前もだ」
うちの勇者奴隷がずらりと並ばされる、
アスリクで入手した奴隷勇者四人ジアン、シティエ、エルドリア、ナスタシア、
そしてアリス第三王子のトロベリ、おまけで爺さん幻術師も並んだ。
「さあ人で壁を造った、その後ろで着替えてこい、命令だ」
「は、はい」「わかりました、ご、御主人様」
その背後で着替えさせられる奴隷女勇者ふたり、
凄いなもう、奴隷勇者が七人も居るなんて勇者のみでパーティー組んでも余るな。
「ニィナさん、その」
「なんだデレス、何か不服でもあるのか」
「いえ、そうじゃないんです、その」
僕のために道場破りに行ってくれた事を、お礼言わなきゃ。
「ふむ、わかった、デレスの考えている事はよくわかった」
「あっはい、あ、ありがとうございます」
「うむ、今日で蝶の仮面はやめて、明日から白鳥の仮面にしよう、『プリンセススワン』という名前はどうだ」
いや、そっちじゃなーーーーい!!!
「……そんな事はどうでもいいっていうかバタフライでいいですニィナさん、お礼を言わせて下さい」
「なんだデレス」
よし、ニィナさん呼びで大丈夫になった、元からバレバレだし。
「僕のために朝早くから道場破りをしてくれたんですね、ありがとうございます」
「そのくらいデレスのためなら当たり前だ、気になった事もあったしな、おいオルカ」
「何でございましょうか」
早速くっそだっさい人権無視なクソダサ熊さんシャツを着てやってきた。
「ナスタシアとの対戦、道場で先に一本取れた理由を明かせ」
「あれはうちの師範代による初期スキルです、初動を一瞬だけ4000倍に出来る」
「なる程、それでデレスをハメようとしたのだな」「申し訳ありませんでした」
すごいな4000倍とか、ニィナさんはどう対処したんだろう。
「ニィナさんはどうやって勝ったんですか?」
「あんな連中に一度づつくらい打たれた所でどうという事はない」
「あっ、じゃあ力技で」「道場破りだからな、一本取って終わりとかそういうものでは無い」
もうひとりのリサルさんも着替えてきた、うん、気の毒だ、可哀想に。
「デレス、このふたりはどうする」
「いやどうするって僕が聞きたいですよ」
「いっそ女勇者ハーレムでも築くか」「いやいや」
そんなこと言うからふたりとも顔が曇ってるし!
「正直、奴隷勇者はもうお腹いっぱいです」
「では売るか」「そうですね、奴隷オークションへ」
正直、育てるのが面倒くさいからね。
「そうだデレス、良い事を思い着いた」
「なんですかニィナさん」
「私が付ける面を蝶の面ではなく、この熊の面に」「やめて下さい」
唐突に何を思い付いているんだか。




