第292話 豪華な夕食のあとはやはり
アスリクで有名らしい豪華レストラン、
とはいえムームー帝国民御用達らしく、
外国人の僕はお断り、となるのはついこの間までだったらしい。
(やはりここの魔王を倒したからなのかな、丁重な扱いだった)
奴隷とはいえナスタシアさんが居るのも大きいみたいで、
それはそれはもう高級な薬草サラダや高級パンに僕は大満足だった。
「ふぅ、美味しかったぁ」
「デレスご主人様、申し訳ありません」
「えっ、何が?!」
レストランを出た所で頭を下げられた。
「思っていた以上に、その、金額が」
「あーうん、お金には困っていないから」
「でも、やはり私の食べた量が」
それは今更だ、うん、僕は草食だからね。
「僕と比べたらみんな大食いになるから大丈夫」
「……奴隷の身分で申し訳ありませんでした」
「そんなことより、クラリス城でいいよね」
もちろん大金使ったから節約のためではない、
せっかく貰ったお城は使える時には使わないと。
「はい、デレスご主人様のお好きなようにして下さい」
「……ナスタシアさんは、僕を好きにしていいって言われたら?」
「そうですね、歯止めが効かなくなるかと」
とまあいちゃいちゃしながらクラリス城へ、
各地への転移係、幻術師ニョワーさんが居ないからか、
警備も少ない、まあ夜だし逆に誰か居てくれるだけでありがたい。
(うん、敬礼されて入るのも悪くない)
「じゃあまずお風呂」「脱がせてさしあげますっ!」
とまあ、こんな調子ですっかり奴隷モードを満喫するナスタシアさん、
まるでそういうプレイみたいにしているけれど、正真正銘、本物の奴隷だ。
(……気が付いたら並んで入浴中です)
「その、ナスタシアさん」
「はいデレスご主人様、お身体洗ってさしあげた時に何か粗相はありましたでしょうか?」
「ないない、そういう話じゃなくって」
湯船の中でもやっぱり隷属の首輪は気になるな。
「……本当に、僕のお嫁さんになりたいんだよね?」
「私、冷静に考えると、難しいかもしれないという事に気が付きました」
「えっ、どうして?!」
実は婚約者がいたとか?!
でも僕とは初めてだったしなあ、
いや婚約にそんなの関係ないか、式で初めて顔を合わすとか相手が貴族とかなら有りうるし。
「デレスご主人様、この国の上位貴族は正式な嫁は四人までしか迎え入れられません」
「うん知ってる、ウチの、僕の故郷、ミリシタン大陸でもそうだった」
「私は五人目ですので」「あっ! そっか、貴族になってもそうだよね」
いや薄々勘付いてはいたけれども!
「ですので私は、どうしたら良いのでしょうか」
「うーん、そうは言っても『事実婚』っていう言葉もあるし」
実際、正式な奥さん意外に愛人との子がって話は山ほどある、
いやナスタシアさんを愛人に、って決まった訳ではないけれど。
「永住する国で特別に第五夫人を許していただくとか」
「七大魔王を全部倒したら、ありうるかもね、あとはいっそ……」
「デレスご主人様が新しい国を作る、とかですか」
そうなると未知の土地へ行かないといけなくなるかも。
「あっそうだ、シャマニース大陸ってどうだろう」
「良いですね、噂ではとんでもない人外魔境みたいですが」
「だからこそ、そういうルールに緩いかもしれない」
これは後でちょっと調べてみよう。
「さすがデレスご主人様、私、一生ついて行きます」
「あはは、お風呂の中だからって、ちょっとくっつきすぎかな」
「闘技大会、デレスご主人様のためにも全力を尽くしますから、見ていて下さいね」
こうしてお風呂でいちゃついた後、
ベッドの方へ……うん、凄く綺麗にされている、そして……
「ナスタシアさん、その、あらためて見ても、綺麗です」
「嬉しいです、ご主人様、デレス様、今夜は何なりと、ご命令を」
「はい、じゃあ……無理しない程度で、ナスタシアさんの好きなように、僕を……愛して下さい」
こうして僕は彼女も、
ナスタシアさんもまた『淫乱バーサーカー』である事を確認したのだった。
(これ、奴隷じゃなくなったら、本当の意味で遠慮なくなったら……恐ろしい)
――翌朝――
「あさだよーあーさーだーよー朝食たべて闘技大会いこー」
僕とナスタシアさんの眠るベッドの上、
旋回しながら飛び回る元気な幻術師の姿が!
「あっ、アンジュちゃんおはよう、ってまだ外は暗いよ」
「ご飯食べたら良い時間だよー」
「そっかそっか、ナスタシアさん……ナスタシアさん?」
ちょ、起き抜けにまた続けようとしてるううう!!
「んっ、デレス様、今度はここをこうしてこう……」
「もう朝だから、闘技大会があるから、起きて、ベッド出るよ!」
「ナスタシアさんのハレンチ~」
アンジュちゃんどこでそんな言葉を……
「はっ! も、申し訳ありません」
「ははは、後で一緒にシャワーでも浴びる?」
「はい、是非」「ボク、朝食付き合うよ~」
……クラリス城の食堂はビュッフェスタイルになっており、
ここの転移魔方陣を管理する冒険者ギルド職員の憩いの場にもなっていた。
「あっそうだアンジュちゃん、ちゃんとニョワーさんは登録できた?」
「してたよー、ナスタシアさんも登録してたー」
「えっ闘技大会のだよね? 本人不在でも」「んーエシキビジジョンっていうんだっけー」
エキシビションね。
「なるほど、それで本人じゃなくていいんだ」
「ニィナさんがやってたー」
「ちなみに僕は」「えっ、出るのー?!」
出ない出ない。
「そういえば僕の観客席ってちゃんとあるのかな」
「デレスご主人様、おそらく関係者席が」
「だよね、まあ駄目でも一番後ろの席でもいいや」
うん、いま気付いた、ここの朝食、
このお城で前の城主が雇っていたシェフの料理とほぼ同じだ、
ただ微妙に違うからレシピだけ残してもらったっぽいな、サラダが美味しい。
「それでね、それでねデレスくん」
「うん、いいけど喋りながら食べると色々汚いよ」
「ニィナさんじゃないけど、ニィナさんが出るよ、ニィナさんじゃないニィナさんが」
(えっ、どういうこと???)
その意味を知るのは、もう少し後になるのであった。




