第288話 第三王子とお抱え幻術師
ニィナ城の地下牢、意外と綺麗というか鉄格子がある事以外は
客人でも泊められそうな感じだ、人型ティムモンスターを入れる場所にも使えそう。
(そして坊ちゃん勇者と幻術師が騒いでいる)
「あっ、お前! こんな事をして、ただで済むと思うのか!」
「さっさと開放するのですな、さすれば我が国も寛大な処置を……うぐぐぐ!!」
ニィナさんが手をかざして遠慮なく首を絞める!
派手に苦しむ奴隷ふたり、心なしか『隷属の首輪』も豪華に見える。
(あ、王子が白目剥いてる)
「ニィナさん、奴隷にして五日以内に殺すと罪に問われるんじゃ」
「ふむ、わかった、殺すのはその時にしよう」
絞めるのをやめると息を整えながら水桶に柄杓を入れる坊ちゃん。
「はぁ、はぁ、ここから出たらお前ら全員処刑だ!」
「我が国、崇高要塞都市アリスを舐めてもらっては困りますな」
初めて聞く地名に僕はニィナさんを見る。
「崇高かどうかは別にして要塞都市アリスは貿易の要となっている、
険しいレベリィズ山脈、紅い見た目が『血塗られた山脈』と呼ばれているのだが、
凶悪なドラゴンが住んでいてその山頂や上空は『足場も壁も無い殺人ダンジョン』とも言われている」
ええっと、ダンジョンが上空、空中にあって、そこは壁も床も無い、と。
(うーーーーん、それってダンジョンか?!)
「そのような状態なので山脈を越えるにはとてつもなく大きく迂回でもしない限り、
山脈の間を唯一通れる街、要塞都市アリスを通らなければならない、シフリンからシュッコへと繋がる
大貿易街道の要、そこが狭い面積ながらもひとつの国になっている最大の理由だ」
つまり、通れる場所がそこしかないから関税をかけ放題という訳か、
そりゃあ儲かるな、でもシフリンからシュッコへの道っていう事は……?
「ニィナさん、僕らってその山脈を越えてきたんですよね」
「ああ、上空に関してはそこそこの迂回で通り抜けられる道がある、
ドラゴンの群れと群れ、縄張りと縄張りの間、このあたりの情報は機密事項だ」
ニィナさんが軍上がりで良かった、
そしてそこを通り抜けるテクニックも余程に腕が必要なのだろう、多分。
「爺、今の話は本当か?!」
「ふんっ、そんなものがあっても我が崇高都市は……」
「お前らは黙っていろ「うがぁ」「うぐぐぐぐ」
殺しちゃまずいけど苦しめる事はできるからね。
「それでニィナさん、結局こいつらは」
「国の衛兵から説明は聞いた、ヘレンの時と同じだ」
「あー、襲ってきたから奴隷として、っていいんですか」
もちろんこいつらの自業自得だが。
「聞いた所によると、あと各ギルドの調べによると、
自分たちの地位を良い事に好き勝手やってきたらしい、
他人の奴隷を強引に奪えるのも、そういう国の王子だからな」
じゃあ相手が悪かったってことか、
でもそれじゃあ、これ、このまま貰っても大丈夫なんだろか?
(あ、爺さん幻術師が泡吹きはじめた)
首輪をゆるめてもピクピクしている、
坊ちゃんはとうとう泣き始めた、いくつだコイツ。
「それでコイツらはそもそも何しに来たんですか」
「まず魔王が攻略された事により、弱くなった高レベルの敵を倒して
楽に経験を稼ごう、アイテムを手に入れようとやってきたのがひとつ」
ボーナスタイムだからね、
そのビッグウェーブにタダ乗りに来たのか。
「もうひとつがこの幻術師、闘技トーナメントに招待されていたらしい」
「あー、アンジュちゃんが言ってましたね『もうひとり出るかも』って」
それがコイツかあ、じゃあ年齢もレベルも結構行ってそうだ。
「爺、爺、何か言ってやれっ……ううっ」
「あーその幻術師さんもう失神してますね」
やはり幻術師は物理に弱い、
あの隷属の首輪も幻術師魔法を封印する特別製なのだろう。
「そのような訳で一応は襲われた賠償として、奴隷として貰ってきた」
「その、本当に大丈夫なんでしょうか」
「シュッコの領主は慌てふためいていたが、国家間の話など冒険者には関係ない」
ですよねー。
「ギルマスは、冒険者ギルドの方のだが、一応、形だけでもチャンスを与えてやってくれと言っていた、
それでお飾り領主に対して顔を立てるというか、する事はやったというアピールにしたいのだろう」
「チャンスですか……チャンスねえ」
僕は牢屋の中のふたりをまじまじと見て考えた。
「……そうだ、こうしましょう、この爺さん幻術師は元々、闘技大会に出るつもりで来たんですよね」
「ああ、お供も何人か出るつもりだったようだが要らないのですでに売り払ってきた」
だからこの二人しか牢に入れてないんだ。
「じゃあこうしましょう、闘技トーナメントで優勝したら賞品賞金を僕らが貰って解放って事で」
「ふむ、幻術師はともかくこの勇者王子は無理だろう」
「じゃあこっちで相手を用意して、それで勝てばという事で」
うん、なかなか面白い事になりそうだ。
「わかった、幻術師は普通に参加させるとして、勇者の相手は」
「それはもちろんこちらの勇者奴隷、いや勇者奴隷アサシン、ナスタシアさんです!!」
あとはナスタシアさんが引き受けてくれるかどうかだけれども。




