第274話 女の子らしい格好しやがって……ほんとにアンジュちゃん?!
「おーいしぃーー」
シュッコの地下にある隠れた名喫茶店、
幸運の店『オーバジーン』にアンジュちゃんとふたりで来ている、
いや正確には学校終わりのヒョウくんと一緒に転移して来たのだが。
「アンジュ様、ごっ、きげんっ、ですねっ!!」
いちいち小刻みなリアクションで接客してくれているマダムバタフライ、
なんでも今日は珍しく、店主である闇ギルマスが所用で居ないらしい。
(で、このお方が店に居るのは良いけど西冒険者ギルドの勇者受付はどうした)
まあ後輩がちゃんと育っているみたいだし、いいか。
「デレスくんもー」
「はいはい、2人用だもんね」
アンジュちゃんがウマウマーって感じで食べている特大パフェ、
スプーンが2つ刺さって出てきたカップル専用のものらしい。
「うん、確かに美味しいね」
「しってるー? つめたいのいっぱいたべたら、このクッキーたべるんだよー」
うん知っている、あと熱い紅茶もね。
(それにしてもアンジュちゃん、学校終わって『おきがえしてくるー』っていうから何かと思ったら……)
いま目の前でパフェをパクついている幻術師様の格好を説明すると、
まずセクシーパンサーローブはアイテム袋に入れてあるそうで、
少し長めの濃い青髪、褐色のかわいらしい顔がはっきり見えている。
「デレスくーん?」
「あ、ごめん、パフェも美味しいけどアンジュちゃんに見とれてた」
「えへへへへーー」
そしてこの服装だ、いまパフェの雫がシャツにポトリと落ちたが、
ピンクで中心には例のクッッッソだっっっさい熊が描かれたシャツと、
いかにも女の子らしい長くも短くも無いピンクのチェック柄スカートを履いている。
(これ、どこの女の子だよまったくもう……)
いやアンジュちゃんが可愛いのは知っていた、
でも普段から『ボクってカワイイでしょフフーン』とか言うタイプじゃないから、
急にこんな女の子っぽい恰好でデートってなると、え、どちら様? ってなってしまう。
「あ、ごめん、ますます溶けちゃうね、僕も急いで食べるよ」
「うーん♪ おーいしっ」
奥の厨房からこれを作ったであろうヒョウくんが覗いてる、
パフェの消化具合が気になるのかアンジュちゃんが女の子しているのが気になるのか……
もしここへ歩いて来ていたら、道行く男性は見惚れていたのだろうか?
「アンジュちゃんって、よくローブ取って帰ってるの?」
「ううん、デレスくんがよろこぶかなーって」
「そ、そうなんだ」
なんだかその言葉に、女の子っぽいっていうか乙女を感じてしまった。
(十九歳ならまあ乙女だもんな)
♪カランコロ~ン
「よ・う・こ・そ、、いらっしゃいまほー!!」
珍しい、僕ら以外にも客が来た!
それは良いけどチア、いやマダムバタフライ、
いらっしゃい魔法ってなんだよっていう。
「……ガルザスが風邪をひいた」
「ささっ、こちらへ」
いかついおじさん、顔や腕に傷がある剣士か戦士?
なんとなく勇者でないのはわかる、雰囲気というか佇まいというか。
「あいつらは」
「まだ十代の、こ・ど・もっ、ですわっ!」
「……まあ良い」
ええ、子供って僕らの事か?!
確かにふたりともギリギリ十代だけれども!!
「まずは、おっみーずをっ、どうぞっ!!」
「……その動きと言い変な蝶の仮面といい、ふざけているのか」
「いいえっ、カモフラーーーーーージュッ! で・す・わっ」
あ、僕でさえちょっとイラッとしてしまった。
「まあいい欲しい情報さえ貰えればな、実は……」
僕らを気にしてか小声になった、
とはいえ静かな店内に他に客は居ないから、丸聞こえだ。
「なんざましょ」
「噂を聞いた、この都市に、腕利きの幻術師が居ると」
「……確かにそんな噂はありんすね」
今度はありんすって!!
「しかも常時空中に浮いていて、さらに禍々しい鎌と杖のふたつを操るとか」
あっ、その幻術師、見た事ある!!
(アンジュちゃんがなぜか頭を低くしている、でもパフェは食べるんだ)
「ふむふむ、それでその幻術師様の情報を買いたいのですわね」
「ああ、噂によれば七大魔王を倒したパーティーに居るらしいが、スカウトは可能か」
いやあ、無理だと思うよ。
「その情報でしたら、わったっくっし、持っておりますわ」
「何、本当か」
うん、僕も持っている、あとアンジュちゃんも、それとヒョウくんも。
(って知らないのはこのおっさんだけやーん!)
あー今の心の口調は、ミリシタン大陸で同級生だった女の子の、って今はいいや。
「白金貨の枚数によって情報の精度、詳細さが変わりまんっす!」
いやもう語尾に突っ込むのはやめておこう。
「……聞いてからそれ相応の情報量では駄目か」
「ですわね、それでしたら最初に安い金額からでは」
「ならこれで頼む」
出したのは金貨三枚か、ケチくさい。
「ではいただきまん……ウッホン、常識的に考えてみて下さい、
七大魔王のひとつビーストシュータを倒す程の勇者パーティーに居る幻術師、
そう易々と引き抜きなどできると思われまうすか?!」
いや、まうすかって! これは突っ込まずにはいられないよ。
「ふむ、という事は白金貨を積めば方法を教えてくれるという訳か」
(えっ、そうなの?!)
「まっ、信じるも信じないも、お客様次第ですわっ!」
「よし、考えておこう、他をあたって駄目ならまた来る」
いつのまにかヒョウくんが置いたらしき薄い紅茶をぐいっと飲み干した傷の男、
僕らをちらっと見るとさっさと出て行った……アンジュちゃんをスカウトかぁ。
「チアー……あーっとマダムバタフライさん」
「はい、追加注文でしょうか」
「うんっ、ボク、ちょっとパンケーキがたべたーい!」
いやアンジュちゃん話を横取らないでー!!
「その、アンジュちゃんをスカウトする方法ってあるんですか?」
「あるといえばありえます、ないといえばなきにしもあらず」
「その方法は?!」「白金貨をば」
僕からもお金取るんかーーーい!!
「アンジュちゃん、ニィナスターライツから出て行かないでね」
「ん~、どっしよっかなぁ~♪」
「こらこらこらこらこらっ!!」
(冗談……だよね?!)