第27話 夜這い聖女と殺意の正体
「ではおやすみなさいませ」
「うむ、おやすみ」「おやすみなさいクラリスさん」
その夜は全ての宿代をクラリスさんが出してくれるというので、
昨晩借りた『二人用なのにベッドがひとつ』な部屋ではなく、
ちゃんと個別にある四人用パーティーの部屋を借りて今に至る。
「なんか普通に行っちゃいましたね」
「ああ、もしや混ざるとか言い出さないかと警戒したが」
「とはいえベッド狭いですね」
これでもその四つあるベッドのうち一番大きいのだが。
「私としては絶えず密着できて嬉しいのだが」
「好きですよね抱きつくの」
「ああ、そのまま眠ると寝つきが良い」
「でも僕がいつも思い出すのが、テイマーが小さい従魔と一緒に寝て、
寝返りで圧し潰しちゃう話なんですよね」
「デレスは小さくとも、そんなヤワな身体ではないだろう」
とはいっても重い物は重いし、きついものはきつい。
「さあデレスはやく」
「はいはいサイレントヴィーナスの魔法ですよね、はい」
無詠唱で魔法をかけると、これでこの部屋は無音になる、
ニィナさんの口の動きが『ア・イ・シ・テ・ル・ゾ』を告げたのち、
僕はそのまま淫乱バーサーカーの餌食となったのだった。
=※真夜中のお食事(意味深)※=
……コトが終わり軽くシャワーを浴びて別の部屋に入る、
よく『一戦交えた』とか比喩する人もいるけれど、
僕の場合は一方的な虐殺だ、うん、残酷な食事といった感じ。
(でも幸せそうに寝てたなぁ)
終わって僕を抱きしめながら眠ったニィナさん、
そこから何とかもがいて脱出してきた訳だが、
お湯を浴びでスッキリしたせいか僕も一気に眠気に襲われる。
(ふわあああ、明日は攻略三日目かぁ、アダマンタイトソードの威力を試すぞー……)
枕元にポーター魔法少女デスデリカちゃん人形を飾り眠る、
魔除けか何かのつもりだったのだが、逆に変な物を呼び寄せそうでもあるなこれ。
(久々のひとり就寝だぁ、おやすみなさぁい……)
そして深い眠りに落ちしばらく経った後、
僕はニィナさんの強い声に跳び起きた。
「何をしていた!」
只ならぬ事態を感じ目を覚ますと、
クラリスさんが部屋を出ようとしている所だった!
僕、何かされた?でも人が入ってきたなら勇者スキルで気付いて起きるはずだし、同じパーティーでも。
「あの、その、その」
「スキルを使ったな」
あ、そういえば賢者スキル『シークレットステップ』を習得したばかりだっけ、
十歩までなら魔物も人も関係なく気付かれず近づけるという、
だから勇者スキルの探索でも気付かなかったのか、僕は魔光灯をつける。
「ご、ごめんなさい」
廊下のニィナさんとベッドの僕にそれそれ頭を下げる、
着ているのは女性用僧侶ローブだが中は何もつけていない、
見事に綺麗な白い肌、ニィナさんの肌も綺麗だがクラリスさんは透き通る系の白さだ。
「具体的に何をしたか聞こうか」
「そ、その、ちょっと、キスしただけです、本当に」
「……そのキスに魔法効果はあるのか」
「いえ、まったくありません、本当に単なるキスです」
「おかしいな、お前から殺気を感じた、確実にだ、どういう事だ?」
えっ、僕、殺されかけてた……?
「やめました!やめて、それでキスして、帰ろうと」
「では何をしようとしたのだ、正直に答えないと、この場で首をへし折る」
「おやめください!あの、あの、わ、わわわたしは、その……」
『お前の背中の毛、全部剃ってやろうかー!!』
二人が一斉にこっちを見た、
僕が何の気なしに触ったデスデリカ人形がシャベッター!からだ、
うん、これで落ち着いてくれる訳ではないが良いタイミングを作れた、とクラリスさんを座らせる。
「結婚と言いながら命を狙っていたのはなぜだ」
「その、全てお話しますと、私の、個人保有の特殊スキルのせいです」
「あー賢者にもあるんでしたっけ、レア職業の人にも」
「はい、勇者様は全員に必ずありますが、賢者は約半分、サモナーは三割程の人が授かっているそうです」
「それでクラリスの個人スキルは?」
息を呑み、クラリスは語る。
「……私個人としては、抱かれた相手の特殊スキルをうつし貰えるスキルです」
「抱かれたというのは性行為か」
「はい、ただ、最初はレア職業の個人特殊スキル持ちなら誰でも良いのですが、
その様々なスキル自体にレベルのような強さがあるみたいで、
次にうつして貰えるのは、さらに強いスキルでないといけないのです」
「なるほど、もしかして紫水晶で調べていたのは」
「はい、スキルの強さです、手元にないので部屋に戻らないとお見せできませんが、今の私はかなり強い光が出ます」
それで、それより強い光、強い個人スキルを求めていたのか、
勇者受付を張れば確実に個人スキル持ってるもんな、でもそれでなんで殺されなきゃいけないのだろう?
「塗り替えという事か、ならばうつし終わると前のスキルは」
「消えます、だから、だから強いスキルで」
「なるほど、それでお前が今、持っているスキルが……」
静寂の後、衝撃的な言葉が待っていた。
「抱かれた相手を殺すスキルです」
うわ、強制腹上死!
「なるほど、それがお前の暗殺方法か」
「はい、前にうつした、レア職業アサシンの方が持っていたものです」
「あれ?クラリスさんおかしくないですか、その職業の人、抱いた相手を殺すんですよね」
「はい、抱いた抱かれた、つまり性行為で100%確実に」
「だったらクラリスさん、その時点で死んでませんか?」
ひょっとして、まだ嘘ついてる?
「いえ、私がその前に持っていた特殊スキルは勇者さんからいただいた、
相手の攻撃的な特殊スキル発動をはね返す、お返しするスキルなんです」
「それはまたややこしい」
「ですから私を抱いたアサシンは死にました、信じられないといった表情で」
「いただいた、という事は相手のスキルを奪うのか」
「いえ、うつしているといっても、うつされた方のスキルは残ります、はじめのうちに調べました」
まだレベルの低い特殊クラスを貰っていた頃の話か。
「その話でいくとお前はその持っている暗殺スキルを消したいのだな?」
「はい、その、お恥ずかしながら、結婚してしまえば、単なる腹上死という事でカタがつくかと」
「クラリスさんの言っていた、結婚しないと他所の国へ出られないっていうのは嘘ですか?」
「それは本当です、嫁に出たらその出た先でも布教、女神教の教徒を増やす活動はしなければいけませんが」
「しかしお前のそれ程のスキル、はいそうですかと逃がしてはもらえぬだろう」
確かにスケベな男ならいとも簡単に引っかかるだろうし、
クラリスさん程の美人なら女性だってなびきかねない、ん?
「あれ?最初ニィナさんを狙っていたってことは女性相手でも」
「はい、性行為であれば、うつすことができます」
何をどうやってどうなったら、という事は今は置いておこう。
「でも教祖様、レナン様とふたりでお話したとき、
このスキルを上書きして、なおかつ教団に大きな利益を与えれば、
さらに最後、もうひとつ条件をクリアすれば自由にしていただけると」
「その条件は?」
「わかりません、前のふたつをクリアすれば教えていただけるようです」
うーん、すごい難解な条件を突き付けられそうだ。
「申し訳ありません、でも、もう暗殺したくないし、されたくもありません」
「死にたくないと繰り返し言っていたのは本心なのだな」
「はい、それで一瞬でも本当に殺そうとしてしまった事は謝りますから」
「……どうするデレス?こいつは私はもう殺したい気分だ」
「さっきからお前って呼んでましたもんね、うーん、同情はしますが」
僕に殺意を向けた時点でニィナさんの中ではクラリスさんはもうおしまいなんだろう、
そもそもクラリスさんは人殺しだ、とはいえ宗教戦争、いわばルアンコ教国の内戦みたいなものだ、
だからって僕が殺されかけた事が許されるかっていうと、あのまま夜這いされてたら僕は今頃……
「申し訳ありません、この通りです」
深々と頭を下げたときフードが脱げ、
はじめてあまり気にしてなかったクラリスさんの髪をまじまじと見る、
僕を裏切った元パーティーの僧侶、フラウ先生と同じ長い銀髪……胸はもっと大きい。
「デレスが決めて欲しい、リーダーは私だが直接被害を受けそうになったのはデレスだ」
「クラリスさん、殺すのをやめたのは、なぜですか?」
「その、やはりかわいい見た目、幼い少年を殺めるような気分になったのと」
「はいはい僕はどうせ合法少年ですよ!」
「その、突然直感的に、デレス様が、殺さなくても救ってくださる気がしたので」
うーん、これは僕が本当にそうしないと、別の方法で救ってあげないといけない流れかな。
「ニィナさん」
「どうした」
「僕が許してあげてって言ったらクラリスさんを許してくれますか?」
「今回はな、私はデレスの愛の奴隷だ、対等でもない、デレスの喜ぶ事をするのが私の生きがいだ」
「だったらあまりベッドで泣かせないでほし、いやそうじゃなくて!彼女、クラリスさんを許してあげて」
気が付いたら頬に涙を垂らしていたクラリスさんが明るい表情になる!
ニィナさんは少し納得いかないといった表情。
「理由を聞こうか」
「はい、やっぱりこの境遇は本当であれば同情できます、甘いと言われても」
「わかって言っているのだな」
「殺そうとしてきた相手ですからね、でも何より彼女の利用価値です」
「貴重な賢者だからか……よしわかった、クラリス、これからも私たちの力になるか?」
涙をぬぐうクラリスさん。
「はい!もし自由になれたら、おふたりのパーティーに、一生ついていきます!」
「……信じられるかどうかは別にしてデレスの命令だ、今回は許そう」
「ありがとうございます!」
「それにしてもニィナさん凄いですね、クラリスさんの殺気を別の部屋から感じ取れるなんて」
「怪しさは宿に泊まるときからあったからな、張ってはいたさ、ただ殺気に関しては……嘘だ、ハッタリだ」
ズコー!




