第268話 ナスタシアさんの今後と本人の希望
「という訳で『機敏の種』は全てナスタシアに食べさせる」
そう言ってニィナさんはパラパラと手の平へ落とす、
十何粒あるんだろう、あれって一気に食べて大丈夫なものか。
「美味しい種はシティエへ、これで料理を」
「はい、これだけあれば何に使うか迷いますね」
百粒近くあるな、アンジュちゃんがこぼれたのを床に落ちる前に拾って食べた。
「あの、これはいかがなさいましょう」
「バラカ、喋って良いとは言ってないぞ」「ひいっ」
手をかざされただだけだったみたいで安堵するおっかさん、
と思ったら時間差でビッグマムが絞めはじめた!
「うぐぐぐぐ!!」
「もうそのくらいにしておいてやれ」
「はいニィナ様」
バラカが落とした種もアンジュちゃんが回収、
これは食べずに僕に渡された、ふむ、『幸運の種』だ。
「んー、これは奴隷じゃない気がする」
「デレス、食べるか」
「運ねぇ……溜めて売る手もありますが、ここはニィナさんが」
ふうふう吹いて落とした時についた埃を払う、
ニィナさんは受け取って呑み込んだ、これで幸運値がちょこっと上がった、はずだ。
「他の種類の種については追って考えるが、闘技大会までに決めよう」
うん、結局何人か参加する事になっちゃったけど、
やるからには勝ちたいからね、賞金も賞品も出るみたいだし。
「一応確認しよう、デレス、出場意志は」
「ありません、そもそも勇者ポーターってことになっていますし」
「……そういう意味でいけば、ナスタシアは出られるのであろうか」
あー勇者アサシンだからね、
おそらくこの世界で唯一の職業だ、
シャマニース大陸の奥地でこっそり誕生してたら知らないけれども。
「その、私はまだ勇者のカードを持ってはいますが」
いちいち手を挙げながら言わなくても首輪絞めないのに。
「勇者部門は跳び抜けて強い者が出るらしい、ナスタシアはやめておけ」
「それっていったい……ニィナさんの知り合いですか」
「知り合いの知り合いといえば、そうなるな」
なんなんだ、そしていったい、誰なんだー!!
「さてついでだ、ナスタシア、あらためて方針を告げる」
「はいニィナ御主人様、なんでしょうっか」
「鍛冶屋に頼んだ装備は素早さ重視、さらに機敏の種も渡した、後はわかるな?」
そのうえ勇者『アサシン』ときているもんな。
「すなわち、アサシンの特徴でもある、スピードを上げるということですか」
「ああ、さらに勇者としてのパワーを持っている、ナスタシアは素早さ重視で育てる事とする」
そうなれば前衛としても頼もしい、
まず最初に戦いで、真っ先に攻撃ができる仲間がひとり居れば、
どんなやっかいな特徴の相手でも優位に進める。
「デレス、異論はあるか」
「ええっと、手ごわいダンジョンで前衛ふたりに頑張って時間を稼いでもらう時、
ニィナさんのようにベルセルクソードで一気に、も良いですが、
ナスタシアさんが手数で、というのも良いですね、ふたりの競演が楽しみです」
「つまり、異論は無いという事で良いな」「はい」
続いてクラリスさんに目を向けるニィナさん。
「クラリスから見てはどうだ」
「先手を取れる素早い前衛ですか、素早さならサキュバス、
とくにシルバーサキュバスがすでに居ます、あとケルピーも」
「そうだが狭いダンジョンもあろう」
あと召喚魔法が効かないダンジョンもあるとかなんとか。
「それに、早く移動をするという観点ではアンジュちゃんが」
「確かにアンジュの転移は素早いとかいう次元では無いな」
うん、高速移動とはまた別次元の話だ。
(ここは僕がフォローしておこう)
「ええっと、アンジュちゃんを前衛として計算するのはさすがに違うかと、
オールマイティーではありますが根本は幻術師、魔法系ですから」
いかに『死神の鎌』で初動攻撃できるとはいえ、ねえ。
「わかった、アンジュ自身はどう思う」
「それはどうかと思うよ」
「何の話だ」「わかんなーい」
言ってみたかっただけかな?
「ヘレンはどうだ、発言を許す」
「私、いざとなれば前衛に出る事も」
「そんな暇は無いだろう、サモンが出せないダンジョンではティムモンスターを操ってもらう」
よし、ここで話を僕が終わらせよう。
「あの、お忘れかもしれませんが」
「なんだデレス、どうした」
「いざという時に前衛に入るのは僕ですが」
これはさすがに誰も何も言えなくなった。
「……ならナスタシアの前衛は不要か?」
「そんなつもりは、もしもの時は僕がフォローするので遠慮なくナスタシアさんに前衛をやらせてあげて下さい」
「わかった、ではそれで決定で良いな?」
みんな頷く、もちろんナスタシアさんも。
(ナスタシアさんは素早さ最優先の前衛をやってもらう、という事で決定した)
「決まったな、ちなみにナスタシアの将来の目標は何だ」
「将来、ですか」
顎に手をあてて考え込む。
「なんでも良い、正直に言え」
「はい、それでは……デレスご主人様の、お嫁さんです」
(は、は、恥ずかしいいいいいーーーー!!!)
「だそうだデレス、何か一言あるか」
「ええっと、えええっと……ありがとうございます」
あ、ヘレンさんがちょっと怖い顔しているうううう!!!
(奴隷同士、仲悪くならないといいな)