第262話 ゆっくりと息抜き五日間がはじまる
「がっこー、がっこー」
「アンジュわかっている、ナッキチ殿に手短に話してくる」
「じゃ、とぶー」
どこに何があるかわからないまま、
アスリクのギルマスルームに転移したアンジュちゃん!
場所はソファーの上だ、土足で着陸するとナッキチさんが美味しそうなケーキを頬張っていた。
「なんだなんだ?!」
「すまない人が座ってなくて良かった、実はだな」
「がっこーちこくー」
急かすアンジュちゃんのために本当に短く伝える。
「帝都から逃げてきた、クラリス城の管理を頼む、ではまたな」
「またねえい」
アンジュちゃんのその言葉で今度はラルス村の屋敷へ、
そこではジュマジ爺さんとクソダサ熊ちゃんシャツのアマリちゃんと
奴隷勇者ふたり、ジアン、シティエがくつろいでいた。
「留守番ご苦労」
「ニィナの姐さん! いまジュマジさんにも話してたんっすが、どうやらやはり見えない何かが」
「ジアンすまない時間がない、が、話は聞きたい、シティエとついてきてくれるか」
あ、まとめてシュッコに連れて行っちゃうんだ、
と思ったらとことこアマリちゃんがついてきた。
「アマリも行きたーい」
「ジュマジ殿」
「構わんよ、わしゃあ留守番しておこう」「わーい」
こうして転移を繰り返しニィナ城へ。
「んじゃがっこー」
瞬時に飛んだアンジュちゃん、本当にギリギリの時間だ、
たまにはちょっとくらい遅刻してもと思わなくもないが、
アンジュちゃんにとっては今、一番大切な事なのかもしれない。
「ウッキー」「ウキウキ」「よし、猿たちもちゃんと八匹、ついてきているな」
部屋から出るとティムモンス小屋で、
いつだったかどっかのタイミングで戻したケルピー三頭が室内放し飼い中だ。
「ブヒィン!」「グヒヒッ」「ヒッヒヒイイイイィィィン!!」
括られてないからとハイテンション、
散歩は? と思ったら外は雨だった。
「おーう、ちゃんと見守っとるぞ」
「バウワー殿、仕事が増えた、こいつらも頼む」
「ウッキウッキ!」「ウキッキー」「猿系か、まあ手間がそこまでかからんなら」
ちゃんと引き受けてくれるみたいだ、
奴隷ではなくなったとはいえ雇ってはいるからね。
「どのくらいまで物事を覚えるか試してくれ」
うん、この猿たちがケルピーの世話をできればバウワーさんも楽ができる、知能によるけど。
それで言えばヘレンさんのサモンサキュバスがティムモンスターだったらもっと便利だったんだけどな、
そう考えるとゴージャスサキュバスを買った冒険者ギルドは良い買い物をしたと思う。
「ではとりあえずリビングへ行こう」
アンジュちゃんは行ってしまったので徒歩で、
すると城の中庭で一心不乱に剣を振る奴隷勇者が居た。
「エルドリア、雨の中、鍛錬か」
「ニィナ様っ! 闘技大会、楽しみでありますっ!」
「ダンジョンへは行かないのか」「いつも午後からでっ」
まったりやってるな、でろでろエクスタシーの連中は。
「重要な話がある、ついてこい」「ははっ!!」
こうしてナスタシアさんも含め勇者奴隷四人に、
あらためて重要な話である、リビングに到着するとビッグマムことセーラさんが、
娘のシカーダちゃんと一緒に紅茶を出してくれた、奴隷は床に正座だが。
(アマリちゃんも真似してちゃんと正座中だ)
「でろでろエクスタシーの連中はどうした」
「午後からの冒険者活動に向けて寝てますね、起こしてきましょうか」
「いやセーラ良い、ダンジョンを真面目に潜っているなら短期集中型として許そう」
ホントに真面目にやっているならね。
「ではジアン、シティエ、エルドリアあらためてナスタシアもだ、
これから重要な話をする、よく聞いてよく考えて欲しい」
ということで十二勇者筆頭ライタニーさんが奴隷解放された事、
一応は反省していて、責任を持って十二勇者の残り三番目から下を、
全員買い戻したいと希望している事を包み隠さず、正直に話した。
(ジアンさんは笑顔に、シティエさんは考え込んで、エルドリアさんは困惑している)
ナスタシアさんはため息ついてます。
「どうしたナスタシア」
「いえ、あらためて聞いてもライタニー様は身勝手な方だなと」
「そうだな、単なる我儘だ、心意気はわからぬでもないが」
そして、僕らがそれに従う義務は無いのだが。
「だが、あえて聞こう、奴隷に選択権は無いのだが、お前たち、アスリクに戻りたいか?」
「そりゃ何もかも元に戻して貰えるならば、ありがたうこと、このうえないっす!」
「私は正直、自分がどうしたいと言える立場ではないのでお任せしますね」
「い、今は闘技大会の事で頭がいっぱいだ、その、難しい話はその後では駄目か?!」
あー脳筋かなこの人は。
「よしわかった、今後の参考にさせてもらおう」
「ナスタシアはっ?!」
「ジアンやさしいな、彼女はすでにデレスのものだ、身も心もな」
ちょ、その言い方!
ナスタシアさんもポッて頬を紅らめているしー!
「とにかく三人とも闘技大会へエントリーだ、もし優勝すれば奴隷を解放しよう」
「本当かっ?!」「そうきましたか」「それは望むところだが、いいのか?!」
うん、僕も初めて聞いてびっくりだ。
「優勝できれば、な」
あーこれ絶対、大本命がいるな。
(まさかニィナさんがこっそり出場するとか?!)
とまあ話が終わったらジアンさんが例の話を切り出した。
「それで、裏山の謎の飛行物体なんだが……」
「おはよー……あれ」
あ、寝ぼけたおっかさんが来たのをニィナさんが蹴った!
しかも延髄を……うん、僕もローキックをお見舞いした。
「さあジアン、話を続けてくれ」
「お、おうっ」
悶絶するおっかさんは放っておこう。
「な、なんで、なんでいきなりぃぃぃ……」




