第247話 リザード村長と試しの問答
「これを頼む」
ニィナさんがリザード村内部へと通じる厳重な出入り口で、
冒険者ギルド並びに領主から貰った手紙を衛兵リザードに渡した、
しばらくすると許可が下りたようで中に入る、が、六人までだと言われた。
(ニィナさん、クラリスさん、アンジュちゃん、僕、レワンさん、ヒョウくんかな)
入っても大丈夫的な木札を首からぶら下げられる、
前から順番に……あれ? ヒョウくんだけスルーだ。
「あとおひとり、構いませんよ」
「えっ」
「同族は出入り自由ですので」
ヒョウくんはいいのか、ハーフなんだけど。
「でーはー、わったくっしめが!」
チアーさん追加で奴隷ふたりは待たせる、
洞窟の奥へ入るとうん、鍛冶屋の匂いだ。
(ごついヒョウくんがいっぱいだぁ)
やはりこっちは密集度が違う、
外はやっぱり観光客向け、とまでは言わないが、
こっちはちゃんとした生活の場所なんだって伝わってくる。
「はぐれないように」
先導してくれる衛兵についていく、
中に入ったら後は自由にって感じじゃないな、
一応、紹介状があるから丁寧に扱ってくれている感じ。
(なんていうかこの村、立体的だな)
極端に言えば吹き抜けダンジョンに住んでいる感じだ、
そこそこ換気がしっかりしてはいるものの、
普通の人間が住むのはちょっと辛いだろうなあって思いながら歩いて行くと……
「村長、お連れ致しました!」
うわ、それっぽい洞窟に連れて行かれた!
奥に控えし石の玉座、そこに居たのはガタイの良い白髭のリザードだ。
「うむ、お主らがワシらに頼みごとがある連中か」
ここは片膝でも着いて控えた方が良いのかな?
と思ったがニィナさんが物おじせずに応えはじめた。
「ああ、細かい事は言いだしたらきりがないのでまずは主題だ、
この素材を加工して貰いたい、モバーマス大陸七大魔王、そのひとつの素材だ」
アイテムボックスからビーストシュータの素材、
巨大な甲羅を出して見せる、なんだかまだ焦げくさい。
「ほほほう、確かにこれは我が村の、よほどの者でなくては無理じゃな」
「これで防具と、あと踏み台を作って貰いたいのだ」
「……踏み台、じゃと?」
あ、片目を閉じて怖い顔になった!
(ひょっとしてピンと来ちゃったか?!)
しばしの沈黙ののち、両目を見開いた!
「ドワーフの回し者かっ!!」
あ、これ『帰れ!!』って怒られるやつか?!
「いや、確かにドワーフに物の依頼はしたが、そこまで親しい訳では無い」
「じゃが踏み台、しかもこのような素材という事はじゃ」
「ご存じであったか、これには事情がある、説明が必要か」
ニィナさんの声にまたも考え込む、
よし、ここは僕がちゃんと説明しよう。
「あの、よろしいでしょうか村長様」
「なんじゃちっこいの、相当強いようじゃが」
「あっはい、その踏み台、実は相当な訳ありでして……」
どこまで正直に言おうか迷ったが、
ここはちゃんと、きちんと説明するのが誠意だと思い、
ヒョウくんがいる手前ちょっと言葉を選びながらも説明した。
「……という訳で、流れ的に婚約者へ、いえ結婚相手に渡す、
踏み台を造って送らなくてはいけなくなったのです、グスン」
最後はちょっとわざとらしいけれど、
色々と追い詰められてというのは伝わったと思う。
「ほうほう、なかなかに悪い男じゃのう」
「も、もちろんメインは、主目的は装備の方です、これでニィナさんに重厚な装備を……」
「ではひとつ聞こう、そのドワーフの姫とは、結局、どうしたいんじゃ?」
ど、どうしたいって言われましても。
「……踏み台と同時に、正式にお別れの、婚約破棄の手紙を書いて送ります」
「なんと、立派な立派な、最高の踏み台を送ったうえでか!」
「はい、逆にそれが誠意かな、と」
一瞬間を置いて大笑いする村長さん。
「ぶわっははは、傑作じゃわい、よし、気に入った!」
「そ、それでは」
「少なくともその踏み台だけはリザード一族最高のものを造らせよう、
それでドワーフの姫を振るとなれば、これほど愉快な事はないわい!」
あ、やっぱドワーフとは仲悪いのか、
鍛冶屋のライバル的な感じなのだろう。
「よろしくお願いします」
僕が頭を下げるとニィナさんが話を戻す。
「それで鎧の件なのだが」
「待て待て、最後に確認じゃ、そこのリザードハーフ、名を何と言う」
「……ヒョウ、です」
緊張気味に自己紹介するヒョウくん、
両サイドのレワンさんチアーさんも少し心配そう。
「よしヒョウ、着いてこい」
「な、なら俺も」「私もですわっ」
「ならん!!」
あーあヒョウくんひとりだけ奥へ連れて行かれちゃった、
大丈夫かなあ、レワンさんも無理してでも突っ込もうかと、何か変な動きしている。
「うむむ、信頼して良いものか」
「ええっと、いざとなったら僕も一緒に暴れて奪還します!」
「おうデレス、お前さんも男らしくなったなぁ」
待っている間に別室へ、
と促されるがあえて立って待つ、
別室とか言われても洞窟だしなあ。
「リザード茶でございます」
リザードマンのメイドからお茶が振る舞われる、
女性だからリザードウーマンか? うん、渋くて濃くて美味しい。
(ヒョウくん、何してるんだろう……??)
そうこう三十分くらい経ってから村長と一緒に戻って来た。
「ヒョウ、大丈夫か!」
「何もなかったかしらっ?!」
「うん、お話しただけだよ、えへへ」
そして玉座に戻った村長さん。
「うむ、ふたりには愛されているようじゃの、安心した」
そ、それじゃあ!!
「お前たちのこの村での行動、依頼、全てを許そう」
やった、許されたーー!!