第234話 死のダンジョンとガス魔石考察
サキュバスに抱えられて飛ぶ僕ら、
アイテムダンジョンからさらに山を越えた先、
山脈の合間に黒い霧に包まれた場所を見つけ降りる。
「ここが死のダンジョンか」
「浄化してあるであろう拠点がありますね」
「よしヘレン、あそこへ」「かしこまりました」
小屋が上から見ると六つある、
降りると人は常駐していないが自由に使えるようだ。
「なんだ、でかい岩が立ててあるな」
「これは慰霊碑ですね、よほど犠牲者が多いのでしょう」
そう言って祈るクラリスさん、
まわりの小屋は無人の休憩宿泊所と荷物倉庫か、
しかもこんな所まで帝国用と外国人用に分けてある。
「下らんな」
「はい、こういうのを差別って言うんでしょうね」
「転移魔方陣が設置できそうな小屋はどっちだ」
僕らは空をひとっ飛びしてきたが、
下を見るとかなり大変そうなルートだった、
冒険者ギルドから一瞬で来られるとなると便利だろう。
(それには幻術師の常駐が必要だけれどね、高レベルの)
あとはガス魔石を利用した転移アイテムで瞬間移動できるんだっけ、
その材料たるガス魔石が取れるのがここらしいけれども……
「では早速入ろう、アンジュが居ない分、撤退の判断は早めにする」
「はい、気が付いたら身体が半分ない、とかあるらしいですからね」
「そうなったらエリクサーでも難しいだろう、慎重にな」
こうして安全地帯から一歩踏み出すと、
ダンジョンの入口から早速、シャドウが出てきた。
「ノーマルの、一番下っ端か」
「これでも多数に包まれればやばいんですよね」
「クラリス」「はいっ」
無詠唱の軽い浄化魔法で一掃する。
「ではデレス、今回の目的はわかるか」
「ええっと、やっぱりガス魔石が目的ですよね」
「ホゥクラ殿が単騎で沢山、狩っていたと聞く」
(すなわちそれは方法があるという事だ)
と話している間にクラリスさんは洞窟内を照らし、
地下一階から広い室内を光魔法で浄化しながら進む、
一応、まわりは前後左右上とサキュバス達がしっかりガードだ。
(これなら最悪、犠牲はサキュバスで済む、もったいないけど)
ここが命の危険が高いのはガス魔石よりも経験が美味しいかららしいが、
敵の出現にムラがあって一階であっても何十匹ものシャドウが取り囲むタイミングがある、
とはいえクラリスさんが息を吐くみたいに出す光魔法で姿が見えた瞬間に瞬殺されている。
「とりあえずこのあたりは通過するだけですね」
「そうだな、その間にガス魔石の入手方法を考案しよう」
「ええっと、シュッコでのシャドウ系からガス魔石を出す方法は、人力でしたよね」
奴隷とか切羽詰った冒険者が自らシャドウに突っ込み、
手探りで広い亜空間から動力源のガス状魔石を見つけ抱えて持って来るという
超ウルトラ級難易度で、それこそ奴隷の大量使い潰しでもしない限り無理だった。
「しかしホゥクラ殿は大量に持って帰ったと聞く」
「勇者の初期特殊能力でしょうか、だったらお手上げですね」
「いや、そのような特殊能力では無いだろうと冒険者ギルドで聞いた」
いやそれ情報漏洩では!
「いいんですかそんなの聞いて」
「あくまで『推測』だそうだ、例の顔役アサシンの」
「あっ、良かった、ギルド長や職員から聞いたんじゃないんですね」
となるとあのナツネェって兎獣人、鑑定持ちなのか、
それとも一緒に潜ったりした事があるのか、ベッドで聞いたか……
「深い所に居る高位のシャドウから、独特の方法で入手できるのかもしれない」
「それは見てみないとですね、ガス魔石が沢山取れたら夢は膨らみますね」
「ああ、ヘレンのレベルか熟練度を上げてシャドウ系サキュバスを召喚する事ができる」
ひょっとしてひょっとしたら、
そのサキュバスの名前は『シャドウサキュバス』になるんじゃないかな!
「よし二階への入口だ、クラリス、ここからはマッピングだ」
「はい、一応、一階も確認のためつけておりました」
冒険者ギルドの軽い依頼で、
過去に作ったマップのおさらいもしている、
一階は全部出来ているそうだが二階以降はまちまちだとか。
「ヘレンもサキュバスは欠けていないな?」
「はい、これまで大丈夫です、むしろ一度も触れられていません」
「よし、では進むぞ」
二階の敵はクイックシャドウと言ってスピードは二倍だ、
とはいえクラリスさん常時放出の浄化魔法に触れるのが早いだけ、
早く現れては早く消えて行き経験値がざっくざっくだ、
妖精の指輪はこのダンジョンでヘレンさんに移行。
「速さだけではなく量も多いな」
「こんな所ホゥクラさん、どうやって単騎で来たんでしょうね」
「クラリスはどう思う」
このパーティー一番の知恵袋、クラリスさんが口を開く。
「……やはりそうですね、結論から言えば」
お、さすがクラリスさん、もうわかったのか!
「ホゥクラ様にお聞きするのが一番かと」
ズコー!
「ふむ、それはそうだな、冒険者ギルドへ戻ったら聞こう」
「まずはそれを置いて考えるなら、特殊な倒し方があるのかと」
「普通では無い方法か」
「はい、勇者魔法か、もしくはアイテムか」
「なるほど、その情報もギルドで収集しよう」
そんな勇者魔法あったっけ?
またちょっと冒険者ギルドで魔法図鑑みたいなやつで調べてもらおう、
あくまで勇者全体の魔法の種類を見るだけだから、
ホゥクラさんの情報漏洩にはならないだろう。
「さあ、地下三階までマッピングを急ぐぞ」