第222話 決闘の申し込みと地下二階層
「という事で二件の要請が来てはいますが、いかがなさいましょうか」
昼食後に勇者専用のボーイッシュ受付嬢から告げられた依頼、
一件はここアスリクの領主、ニーワクアロック公爵からの治療依頼、
もう一件は『単なる一介の冒険者』勇者ライタニーからの決闘の申し込みだ。
「冒険者ギルドは決闘の仲介までしているのか」
「ええっと、あちらの冒険者ギルドが勝手に言っている事なので無視しても構いませんが」
「だそうだ、どうするデレス、私は構わん、むしろ」「やりましょう」
なんでも鉱山手前に勇者しか入れない聖域みたいな所があって、
そこで『勇者と勇者による正々堂々とした決闘』をやりたいのだとか。
「詳しいルールは」
「はい、向こうは十二勇者全員が揃うそうで、
ニィナスターライツ側も十二人まで勇者を揃えて良いと」
あーこれ12vs2なら勝てると思っているのか。
「デレスどうする、誰かシュッコから呼ぶか?」
「んー呼ぶならセッキさんくらいですけど、あ! 良い方法があります、これなら呼ばなくていいや」
そもそもまだシュッコに居るかどうかわからないからね。
「よし、決闘に関しては受けよう、領主に関しては行けたら行く、気が向いたらな」
「かしこまりました」
こうしてお昼過ぎからはメインダンジョンの地下二階探索、
夜通し走っていたケルピー達も眠って回復したのか連れて行けといった感じだったので、
サキュバスに運んで貰って一緒に入口へ、うん、大所帯だ。
「おい、しっかりしろ!」
「ううぅ、無理するんじゃなかった」
「くそっ、普通の解毒ポーションじゃ効かない!」
しくじった冒険者パーティーのひとりが横たわっている、
あーあれは呪いをくらったっぽい、大丈夫かな、だんだん身体が腐り始めている。
「あの、どうぞ」
辻ヒールならぬ辻解呪するクラリスさん、
こういうの躊躇なくやれる所が素敵だなぁ。
「おお、治っていく、すげえ!」
「あ、ありがとう、こんな高位な魔法、い、いくら払えば」
「いえ、先を急ぎますので」
「ああっ、聖女さまっっ!!」
もっと高位な回復魔法を使えるゴッデスサキュバスが出るまでもなかったか。
(ニィナさんは何も言わないな)
地下一階層はルートさえ覚えてしまえば距離があるだけの話だ、
とはいえまだ出会ってないレアな敵とか居るかもしれない、
アンジュちゃん抜きで戦っている今、慎重に気を緩めずに……
「ブヒンッ!」「ブルルルルッ!」「ブヒョヒョヒョヒョーーー!!」
ケルピー三頭が前衛で頑張ってくれている、
こんなに強かったっけこいつら?
能力向上の特殊スキルがティムモンスターにも効いている感じか。
(さらにはサキュバス七体、も容赦なく手刀や魔法で……)
うーん、先へ急ぐためとはいえ仕事が無い、
ケルピーに先導してもらいサキュバスに護られ、
やはり時間はかかるものの初回より随分と早く地下二階へ。
「今度は沼地だ、歩ける場所と深く沈む場所がある」
見た目にはまったくわからない、
このあたり剣や杖を刺して確認しながら歩いている冒険者が多数、
でも僕らはそんな心配なんかいらずサキュバスに持ち上げてもらう。
(うわっ、急に敵が跳び出して来た!!)
「ブヒヒンッ!!」
でかいナマズ型モンスターが体当たりしてきたが、
サキュバスに抱えられているキューピーが蹴り飛ばしてくれた。
「もっと高度を上げよう」
だが上は上でコウモリ型モンスターや、
黒いカマキリ型モンスターが飛んで襲ってくる、
むしろ的になりそうだったがクラリスさんやサキュバスが範囲魔法で一掃する。
(あーあー倒した敵の残骸が、冒険者にぼとぼと当たって申し訳ない)
「ヘレン、できるだけ下に人がいない所を飛んで欲しい」
「かしこまりました御主人様」
とまあ長々とうねうね飛んだのち、
下に何かないか探しながら進んでいると突然、真っ黒な、
大きい羽虫?鳥?のようなものが目の前を駆け抜けた!
ニィナさんが反応しようとするも目で追うのが精いっぱいだった……
「今のはなんだ?!」
「すごい名前でした『プレミアムダークフェアリー』ですって」
「あとで冒険者ギルドに聞いてみよう」
アンジュちゃんが居ればなぁ……
なんだかんだいってやっぱりウチのナンバーワンだ、
と最強の幻術師を思い浮かべながら地下三階への入口を探していると……
「あそこにエリアボスらしきものがうごめいているぞ」
「出入り口もありますね、『マッドゴーレム』らしいです、泥の塊みたいな敵ですね」
「冒険者たちが手こずっているな、加勢して良いか聞いてみよう」
僕らはそこへ急降下するのだった。
(……あ、近くにきたとたん、全滅しそう)
これは聞くまでもないな、と最後にひとりだけまだ構えていた勇者の男性が、
泥ゴーレムのパンチの餌食になりそうな所をニィナさんがベルセルクソードで一断する!
腕がぼとりと落ちるも、反対側の腕がニィナさんを狙って来た!
「コールドフリージング!!」
クラリスさんが魔法でマッドゴーレムに氷の雨を降り注がせる!
その止まらない雨は泥を氷で固め、やがて動かなくなった、そこへ……
「ハァッ!!」
ニィナさんがベルセルクソードで横一文字に斬ると、
ずずずっと巨体が切れて真っ二つになった、あ、土魔石も斬っちゃった。
「大丈夫か」
「お、俺は良いから仲間を」
何人か泥に埋まっているのを救出して回復、
どうやら六人パーティーだったらしい。
「た、助かった!」
「間に合って良かった」
「俺の名は……はっ、も、もしやお前はニィナか?!」
「なんだ知り合いか? そういえば……」
「俺だよ俺、シーザスだ! 大きくなったなぁ!!」
えっ、まさかの知り合い?!