第208話 キュンとヴァンパイアハウス
馬車は雰囲気のある夜道を進む。
「ええっとニィナさん、一応、魔王討伐に行くんですよね」
「それだ、どういうスタンスで行くべきかまだ戸惑っている所だ」
ヴァンパイアハウス受付では物わかり良い感じだったのに。
「クラリスさん、謎解きになったらよろしくお願いしますね」
「はい、お任せ下さい」
うちの頭脳担当がひとりで全部クリアしてくれるかもしれない。
「アンジュちゃんは」
「みんなでデートだよねー?」
「ま、まあ、そうなるかな」
とてもダンジョンへ行くノリでは無いな、
いや案外、シロアリ女王を倒した時もこんな感じで行ったのかも?
「ヘレンさんは」
「いざとなったら私のサキュバスを犠牲にしてでも」
「う、うん、無理はしないで」
こっちはこっちで意外と真剣だ。
(そもそもヴァンパイアハウスは本当にダンジョンなのか、それとも)
そんな感じで紹介の小冊子を眺めつつ、
あ、間違いさがしがある! 意外と難しそうだ。
とまあどのくらい経ったかわからない時間でついに目的地へと到着した。
「お降り下さい」
雰囲気ある馬車の引手に扉を開けてもらい降りる、
みんなが出ると馬車は小屋へ、そして謎の男は館の裏手へ。
(ついてっちゃ駄目なんだろうな)
ようこそといった感じのヴァンパイアハウス入口、
あ、上を見るとテラスから白い美少女が! ってこれ人形か、びっくりした。
「あれ、とってくる~?」
「いいよアンジュちゃん……うん、普通のでっかい屋敷だね」
八階建てに九つの試練か、
ニィナさんは難しい顔して小冊子を読んでいたな。
「デレス、どうしても気になる謎がある」
「はい、なんでしょう」
「この案内には地下二階、地上八階とあるが確かギルドの前情報では地下三階と聞いた覚えがある」
「そうでしたっけ、覚えていませんが」
「これは地階が変化するダンジョンなのか、それとも……」
こっちの方も例の魔王城みたいに入るとダンジョンが変化するのかもしれないな。
「んー、一番上に窓があるー」
ふわふわ浮いていくアンジュちゃん!
確かに最上階に窓があるけど、ここからだと中までは見えない。
「覗いてくるー」
「う、うん、何か跳び出してくるかもしれないから気を付けてね」
窓と同じ高さまで行って覗くが首をかしげている、
そして窓ぴったりまでおでこをつけると降りて戻ってきた!
「どうだった?」
「顔くっつけると中が見えたよー、人がいたー」
「どんな?」
「見たらわかるー、えーい」
五人まとめて空中浮遊、
そして八階の窓に到着、意外と小さいなこの窓。
「ほんとだ、離れてると中がわからない」
「でもー、くっつけるとー……」
おっ本当、見える見える!
おでこの広い少女とあと男性執事さんかな、
何か打ち合わせしてるっぽい、向こうから見えるかな?
(ちょっと驚かせてみよう)
コンコン、コンコンッ
あ、気付いた、と同時に驚いてる驚いてる!
窓にびっちり女四人、男一人の顔がくっついてるんだもんな、
腰抜かしてる! 執事も持ってた書類を落としてあたふたしてるし!
「アンジュ、中へ」
「あーい」
ニィナさんの声で転移、
いきなり入ってきた僕らに二度びっくりな感じだ。
「ななななな、なんなのよ、アンタたち!!」
「我々は今日、このダンジョンを攻略に来た冒険者パーティーだ、貴女が『キュン』だな?」
「そ、そそそうよ、私がこの『ヴァンパイアハウス』の女主人よ、なんなのよ、もう!」
「そうか、手間が省けた、では早速、魔王退治といこう」
アイテムボックスからベルセルクソードを出すニィナさん、
あーキュンとかいう少女が涙目になってる、これビックリってレベルじゃないな、
執事はどうした? って思ったらソファーの裏に隠れているし!!
「や、やめなさいよっ、ここは単なるお化け屋敷、謎解きミステリーハウスなんだからっ!!」
あ、よーく見るとおでこも身体も青白い、やっぱりアンデッドか、執事も。
「では魔王では無いと?」
「たっ、確かに厳密にはここはダンジョンで、私は魔王って事になるんだけれどっ!」
「そうか、ならば早速」「や、やめなさいってばあああっっ!!」
取り乱し具合にちょっと気の毒になってきた。
「ニィナさん、もうそのくらいで」
「ふむ、ではキュンとやらに聞こう」
「な、なんなのよ」
「このヴァンパイアハウスの案内小冊子、地下二階地上八階とあるが、人伝の情報だと地下三階とある、どういう事だ」
「そっ、それはねえ……地下三階は業務エリアよ! 立ち入らないでよねっ!!」
あ、納得いった。
「ふむわかった、ひとまず剣は収めよう」
ニィナさんも理解したみたいだ。
「シュミット! な、なんとかしなさいよっ!」
「お嬢様、この者たちは相当なレベルで、歯が立ちませぬ……とほほ」
「んもう使えないわねっ! それでアンタたち、今日の参加者なんでしょ?! 表から入りなさいよっ!!」
うん、もっともだ。
「えっとすみません、大体は把握してたというか察してはいたんですが、ここはアトラクションですよね」
「そうよ、町おこしの一環よ!」
「あーあれですね、ミリシタン大陸でもありました、巨大迷路作って半年で飽きられたとか」
こまめに魔物を放ったりしてたみたいだけど、
観光客がすぐ来なくなって結局、更地になってた。
ニィナさんがキュンに少し詰め寄る。
「さあ、褒美の闇魔石をいただこうか」
「だから表から」
「では玄関から入ってすぐここへ瞬間移動しよう、アンジュ」
「あーい」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ、そういう話じゃないんだからっ!!」
段々と可哀想になってきたぞ。
「すみません、デレスといいます、ここは魔物が人間をもてなして遊ばせる、
危険の無いダンジョン、という事で良いんですよね?」
「そう言ってもらえるなら、それでいいわよ!」
「ニィナさん、ここは空気を読んであげましょう、そしてみんなでデートしましょう」
「わかった」
急に物わかり良くなったなぁ。
「ということでキュンさん」
「なによ」
「闇魔石ください」
「だーかーらー!」
一方、アンジュちゃんは装飾品をつんつんしていて、
ヘレンさんは全体的に呆れていた。