第204話 マスマ町と緊急メッセージ
転移した先から出るとマスマ町だ、
すでに前、ざっと見回したが本当に普通の町、
最低限のお店、最低限の宿、最低限の冒険者ギルド。
(それでもカヤヤ村の簡易ギルドよりもはマシだけれどね)
そういやアンジュちゃん、タミィさんを一度ここへ転移させてあげたらしい、
喜んでお買い物してたって話だから例のクソダサエプロンもその時に買ったのかな。
「まずは冒険者ギルドだ」
中まで入るのは僕は初めてだ、
クラリスさんが道行く何人かに会釈している、
布教活動してたからね、胸しか見てないおっさんもいたけど。
(残念、それはもう僕のものなのだよ、ふっふっふ)
とはいっても親子にしか見えないんだろうなと自虐的な事を思いつつ、
冒険者ギルドへ、昼前なのに冒険者が見当たらない、顔役も居ないのか。
(でも勇者専用受付はちゃんとあるんだよな、ん?)
反対側の端、初心者受付の隣りに『ヴァンパイアハウス専用受付』がある、
例の魔王キュンが住む八階建ての館型ダンジョンへ向かう冒険者用か、
あんなのがあるって事はよっぽど難攻不落なんだろうな、興味が湧く。
(あ、受付嬢は真ん中の普通の窓口ふたつにひとりずつしか居ない)
勇者専用受付まで行くと近い方の受付嬢がさささっとスライド、
人手不足なのか暇だから人員が少なくて済むのか、ギルドの空気感からいって後者か。
「お待たせいたしました、ようこそマスマ町冒険者ギルドへ、素晴らしい! 女勇者様であらせられますか」
「ああ、今日から魔王退治までしばらく滞在するつもりだ、よろしく頼む」
「ヴァンパイアハウスへ行かれるのですね、完全予約制となっております、まずは冒険者カードを」
ニィナさんは黄金カードを渡す、
僕は勇者ポーターのでいいかな。
「あっ、デレス様も黄金勇者のカードをお願い致します」
「は、はいぃ」
ばれてら。
「……まずはメッセージが三件ありますね、帝都の冒険者ギルドから緊急メッセージです」
「なんだ、申せ」
「はい、まず一件、出国希望の89人に許可を出したそうで、各自、自力で出国するそうです」
「そうか良かった、我々が行かなくて大丈夫か」
「普通にそれそれ国境を出られるようですが、何人かは帝都でお待ちになられているようです」
移動費を浮かせたいのかな?
まあ、元々僕らが運ぶ手筈になっていたからね。
「次は何だ」
「はい、ムームー帝国冒険者ギルドからの正式な依頼です、
ここマスマ町はもちろん、様々な主要都市と帝都を、転移魔方陣で結んでいただきたいと」
「なんだ、妨害していたくせにもう手の平返しか」
「その、申し訳ありません、そのあたりは色々と複雑な事情が」
「聞いている、ちなみに君はどちら側だ?」
あ、黙り込んじゃった、でもすまなさそうにしている。
「まあ良い、困らせるつもりはなかった、すまない」
「いえ、場所に関してはこちら側で用意致しますので」
作るのは良いけど幻術師は足りるのだろうか?
転移は一瞬とはいえ、あのお爺ちゃんが過労死しなければいいけど、
って攻撃してきた相手の心配をなぜしてるんだろ僕。
「わかった、考えておくが一応、帝都への魔方陣は作っておこう」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げる。
ひとつの転移魔方陣であちこち行ければ良いんだけど、
ひとつにつき行先はひとつなんだよなあ、この辺なんとかできないものか。
「最後にこれは特に重要なメッセージだそうです」
「頼む、読んでくれ」
「はい、ドワーフ国からですね『姫の誕生日が近づいてきたので贈り物を至急』だそうです」
(いやあああああああああああああああああ!!!!)
「デレス、しっかりしろ」
「ううううう、贈らないと駄目ですよね」
「そうだな、宿に戻って考えよう」
「これに関して我がムームー帝国、冒険者ギルドのマスターからアドバイスが添付されております」
「それも読んでくれ」
あ、他の国から派遣されている人だっけ、冒険者出身じゃないギルマス。
「なんでもドワーフの娘と結婚するとき、夫となる方は『踏み台』をプレゼントするのが慣わしだそうです」
「え、踏み台って、踏み台ですよね」
「はい、木製の箱ですね、もちろん木製でなくても良いとは思いますが」
背の低いドワーフならではだな。
「ニィナさんどうしましょう」
「今までの例もある、立派なものを用意しよう」
「あっ、はい」
そうはいっても、これ贈っちゃったら結婚確定になるのでは……?!
「メッセージは以上になります」
「うむご苦労、ではダンジョンについて頼む」
「そちらでしたら専用窓口で」
「ここでは駄目か? 勇者なのだが」
「申し訳ありません、説明の手順がありますので」
(手順???)
ニィナさんが渋々、反対側の端へと向かうと
受付嬢がアイコンタクトでもうひとりに頷く、
するとそっちの嬢がヴァンパイアハウス専用受付へ。
「それでは只今から説明をさせていただきます、よろしいですね?」
「頼んだ、それで難易度は……」
「ミュージック、スタート!」
受付嬢がテーブルの下で何か押すと、
おどろおろどしい音楽が聞こえてきた、なんだこれ?!
「ようこそヴァンパイアハウスへ、それでは皆様へ、試練の館についてご説明いたしましょう……」
ギルド内もなぜか薄暗くなったし!
いったい何が始まるというのだろうか……?!