第20話 訳あり聖女と宗教戦争
僕とニィナさんは宿屋で受付を済ませ、
併設されているレストランで食事をしながら話を聞く事になった、
運ばれてくるまで話はニィナさんが聞いてくれるようだ。
「で、本当に聖女なのか?」
「はい、これは賢者魔法なのですが……アプレイザル!」
コップの水を手でかざしながら唱えると緑に光った。
「……これは?」
「毒があるかどうか調べました」
「ということは安全か」
頷くクラリスさん、
疑ったらきりがないのでとりあえず聖女という事で話が進む。
「なぜ私と結婚なのだ?私はこのデレスと今夜にでも結婚したいくらいなのだが」
「そんなにー?!」
「はい、実は命を狙われていまして、というのも私自身、命を奪ってきたからです」
さっき緑に光らせた水を飲む。
「聖女がか?」
「この国には十三の宗教があって絶えず争っています、単純な信者の奪い合いから、
どこの宗教を味方につけるかとか裏切ったとか騙したとか寝取ったとか」
ちょっと聞きたくない言葉が最後に耳に入った。
「確か女神教といったな」
「はい、この世は女神アルテイジア様がお見守りになられているという考えです」
「そこはどうでもいい、それでなぜ命を奪ったのだ、命令か」
「そうです、ここ数年はいかに聖女や司祭の命を奪うかの争いになっています、
私自身、はじめは裏で悪い事をしている宗教の悪人を退治するためと聞かされていたのですが」
「次第に疑念を持つようになったと、その理由は?」
前菜が運ばれてきた、僕はいつもの高級薬草サラダと穀物スープ、
ニィナさんは鶏系魔物の肉を使ったサラダとオーク肉スープ、
クラリスさんはきのこスープにサラダに乗ってるのは何だろう?
「あ、これですか?これはルアンコの特産品、セイントポテトです」
「色が白いな」
「美味しいですよ……アプレイザル!」
食べる料理も念入りに鑑定する、全て緑に光る。
「疑念は単純に他の宗教で仲の良い僧侶の祖父を殺せと命じられたり、
すでに共闘を組んでいた宗教の幹部を殺せと言ってきたり、
命令する上の方同士も意見が分かれて、宗教同じだがあいつを殺せみたいになってきたり」
「むちゃくちゃだな」
「そこで他宗教の聖女や幹部とやり取りをして、単に力の削り合いをしているだけだと気付いたのです」
「つまり、そこに正義はないと」
「はい、聖女といいながら単なる暗殺の道具にされている事に気付いてしまって」
水を一気に飲み干す、大きな胸が揺れてドキッとする僕。
「それがどうして結婚?」
「はい、女神教では嫁げばその方についてこの国を離れる事ができるからです」
「ここは女同士でも結婚できるのか?まさかクラリス、生えてたりしまい」
「生えてませんよ、下は無毛です」
「いや、男ではないのだな」「はい」
余計な情報あせる……
「で、あの紫の水晶は」
「嫁ぐ相手というのが、特殊な力を持つ勇者さまと決められているのです」
「それに反応するのか」
「はい、女神教の教皇様に結婚を認めてもらうには、この水晶が激しく反応する方でないといけないのです」
「なぜ反応しないといけないのか、理由はあるのか?」
急に難しい表情になったクラリスさん。
「理由はあるのでしょうが、ほら、宗教って理由がちゃんとした理由でない事も多いではないですか」
「ああ、たとえば女人禁制の聖域は血で汚れるから、とかか」
「おそらく嫁に出すにはそれくらい能力のある勇者相手でなければ、という事なんだと思います」
「命を狙って来ている宗教に心当たりは」
「んー、はっきり言ってしまえば私の居る女神教以外全部、それどころか私に暗殺を命じた女神教の幹部も含まれていますね」
じゃあ女神教も含めた全部じゃん!と思いながら高級薬草サラダを食べていると、
メインの色んなお肉がたくさん運ばれてくる、あいかわらずステーキもりもり食べるニィナさん、
ここからは僕が話を聞こう。
「あれ?クラリスさんそれは」
「これはトーフステーキというもので私の好物です……アプレイザル!」
緑に光らせたあと美味しそうに食べる。
「それでクラリスさん、この国の宗教って具体的には」
「はい、本部支部を置く主要十三宗教は信者が多い順で『ルアンコ純聖教』『天祈教』『女神教』『愛と自由教』『博愛教』『四分教』
『魔共教』『十七歳教』『ほたほた教』『遊派味覚教』『パンツは前後裏表四日履く教』『瀬我万台教』『うきょきょっ教』です」
「……ちょっと頭が痛くなる名前もありましたが、女神教は三番目なんですね」
「博愛教までの五大宗教が力を拮抗させています、そこに他の宗教があちこちくっつりたり離れたり孤立したり」
「相手がどこか、狙っているのが誰か判別つかないとなると、そりゃあ逃げたくもなりますね」
いつのまにか僕らのお水が継ぎ足されている、話に夢中で気が付かなかった。
「……アプレイザル!」
クラリスさんが飲もうとした水に鑑定魔法を唱えると赤く光った!
「ほら、こうなんですよ」
レストランの水槽にどばどば入れると中の魚がぷかぷか浮き始めた!
僕とニィナさんの水にも魔法をかけてもらうが、そちらは緑に光った。
「お二人に危害が加わるといけませんので今日はここまでにします、
食事代と水槽の魚代は払っておきますね」
「あっ、はい」
「私がそばにいなければ、出会ったばかりのお二人に危害は加えられないと思います、明日またお会いしましょう」
笑顔で去っていったクラリスさん……
なんだかとんでもない事に巻き込まれそうな気がする。
「ニィナさん、どしましょう」
「ふぁにふぁぐぁ?」
「く、口の中のお肉飲みこんで!」
「……何がだ?話が途中になったせいで情報が足りんが、毒を入れられるタイミングわかったか?」
「いえさっぱり」
「ふむ、あの聖女、おそらく色々と隠しているな」
僕もそんな気はした、ちょっと引っかかる事が多い。
「毒にしても自分で入れた可能性すらある」
「クラリスさんの自作自演ですか!」
「ああ、疑ったらきりがないが、ただ冒険者パーティの戦力としては僧侶は是非とも欲しい」
「そこそこ年齢行ってるように見えましたね」
「気になるのはそこか、私の年齢で何か反応していたようだが」
ぎくり!
「四つ年上は嫌か?」
「いえいえそんなことは」
「まあ良い、明日はする事が多い、さっさと休もう、さっさとする事をしてな」
「は、はい、する事って、つまり」
「ふふ、ふふふふふふ……」
ある意味、毒より怖いよ……。