第195話 陰キャと湖ダンジョン攻略準備
冒険者ギルドのピンチェさんがお休みの二日間、
僕らニィナスターライツものんびりお休みにした。
(だって近い方のダンジョンはもう攻略しゃったしー)
その間、一度ニィナさんもアンジュちゃんと一緒にシュッコまで戻り、
準魔王の素材を持って行った所、女王シロアリの卵は一部買い取ってくれたが、
ほとんどはやはりムームー帝国の冒険者ギルドに下ろした方が良いと言われた、巨大光魔石も当然。
「あと意外な素材が化けるかも知れないぞ」
そうニィナさんが言ったのは準魔王シロアリ女王の死骸から出た素材、
その名も『ホーリージャイアントターマイトファング』ようは牙である、
これを腕のある鍛冶屋に加工してもらえば上位職業が使える毒ナイフが出来るとか。
(ふたつあるから姫姉妹に良いかも)
ただ、とんでもなく腕のある鍛冶屋に身に覚えはあるが、
これ以上はもう依存したくない、でもマリウさんレベルの人は見つかる気がしない。
とりあえず鑑定だけしてもらって牙は二本ともニィナさんのアイテムボックスだ。
「それと、聞いていた話は本当だったぞ」
「え、何の話ですか?」
「我が城に、ビッグマムが降臨していた」
(だからなにそれー!)
僕も近いうちにニィナ城へ戻らないと、
そう思いながらもここカヤヤ村でのんびり身体を休めている、
一度だけ、戻ってきたアンジュちゃんに連れられマスマ町まで行ってみたが、
うん、お店が一通りちゃんとあるっていう以外はそんなに、って感じ。
(タミィさんの着てたクソダサ熊ちゃんシャツがいっぱい売られてたな、色違いまであった)
あっちの宿はこっちより広いかもしれないけど、
病気の母を養いながらがんばって民宿をやっているタミィさんを置いて移る程じゃない、
それにこっちには遠いとはいえまだ、もうひとつダンジョンがある。
「タミィさん、おはよー、だよ」
「あらアンジュさん、おはようございます」
「おはよ、おはよの、おっはよー」
アンジュちゃんも懐いているし。
という訳で二日が過ぎ簡易冒険者ギルドにピンチェ嬢復活である、
早速、朝から行ってダンジョン攻略のご相談なのだが……
「こちら、冒険者ギルドカヤヤ村出張所の副所長、クセルさんです」
「お初にお目にかかる、ニィナスターライツのリーダー、ニィナだ」
「……どうも」
陰キャっていうやつだろうか、真面目そうではある眼鏡の青年だが。
「勉強のために同席したいそうですが、よろしいですよね?」
「構わん、むしろ意見が多く聞けるなら歓迎する」
「……どうも」
ニィナさん大人だなあ、
僕なんかだと、どうしても帝国側の、お局様のスパイって気がして警戒しちゃうのに。
「それで縦穴ダンジョンの攻略ですよね」
「いや、そっちはもう片付いた」
「はい?」
「準魔王の死骸と魔石はどこへ出せば良い」
「ま、まままさか討伐なされたのですか?!」
うん、アンジュちゃんがひとりで。
「とりあえず預ける、この事は内密にな」
「は、はいぃ」
「……」
クセルさんがなんとなくいぶかし気だ、
本当か?! といった感じだからここは現物を見せるべきかな、
と思ったらニィナさんが大きな光魔石を出してふたりを驚かせる。
「こ、これが! す、凄いですぅ!」
「……すぐに鑑定を」
「ああ、頼んだ」
あっさり渡しちゃった。
「準魔王の亡き骸もグチャグチャだが出せるぞ、
牙だけこちらの方で抜かせてもらったが……」
「……そちらもお願いします、裏の倉庫に」
「後で行こう、もっと凄い物もある、大量にな」
おお、陰キャが喰いついた!
凄い物が大量、って卵のことか。
「それでピンチェ嬢、もうひとつのダンジョンの情報をもっと知りたい」
「アイジニアス湖ダンジョンですか、あそこは年に一度、カヤヤ村祭りの日に水が抜けるのですが」
「それは湖の掃除のためか?」
「いえ、見ていただければわかるのですがそんな事ができる規模の湖ではありません、
しかし年に一度の数日だけ水位が一気に下がる、水が抜ける日があるのです」
「祭りに合せてか」「祭りをその日に合わせたようです」
なるほど、祭りの日に水が抜けるんじゃなく、
水が抜ける日に祭りをするのか。
「その日なら攻略できるのだな、いつだ」
「半年ほど後ですね」
「我々は明日、攻略したいのだが」
「魔王をですか?! 祭りの時期以外は魔王部屋自体が水中ですが」
「それを何とかするのが我々だ」
休みの間に考え付いた秘策を話すのだろうか?
「……無謀ですね、しかし水が埋まり切ってない場所までの攻略ならお手伝いできるでしょう」
陰キャが眼鏡をクイッとした、
元冒険者だとしたら魔法使いだろうな。
「まずは地図があれば見せていただきたい」
「はい、お待ち下さい」
こうしてボス部屋までの前知識を全て仕入れた後、
アンジュちゃんは急いで学校へ、
僕らは裏の倉庫へ準魔王の亡き骸と卵を置きに行く。
(あーやっぱり転移魔方陣は消されている、まあいいけど)
ニィナ城と繋ぐ予定だったけど使えなかったやつだし。
「では置かせてもらおう」
こうして倉庫は卵で埋まったが、
後からこれが孵って村が大惨事に、なんて事が無いように釘を刺した。
「……ほ、本部に、帝都の冒険者ギルドに報告しておきます!!」
(あーニィナさん、この陰キャを、クセルさんを泳がせたのか)
さあ、何が釣れることやら。