第194話 褒めるニィナさんと叱る僕
準魔王部屋に転移すると、確かに女王アリがボロボロに朽ち果てていた。
「アンジュ、どうやった」
「んとね、学校で寝ながら魔力回復する飴を作れるだけ作ってね、
ここに入ってでっかいシロアリにダークインテグレード撃てるだけ撃って、
魔力なくなったら飴飲んで、回復してダークインテグレードいっぱい撃って……」
闇属性が弱点って話だっけ、
それで一撃必殺レベルの闇魔法をとにかく撃ちまくったのか。
「危なくはなかったのか」
「しゅわしゅわの液かけられたけど、これがあるからぁ」
四段階デスデリカちゃん人形をドヤッと見せてくれる!
あ、背中押しちゃった。
『シャ●ソンって何なの? ねえ、シャ●ソンって何なのー? シャ●ソンってなんなのよーー!!』
あいかわらず意味不明である。
「なるほど、状態異常も即死攻撃も防げるうえで、リスクを承知でソロ討伐か」
「うんー、倒したら扉が開いて、あっちもー」
見ると小さい(といっても僕より全然大きい)ジャイアントターマイトの残骸の山が!
「これは子供か」
「前に倒したあとー、新しいのがわらわらかなー」
あ、以前一掃した後にさらに子供が産まれたって事ね、それもこんなに大量に。
「ヘレン、サキュバスであっちの魔石も回収だ」
「かしこまりましたわ」
凍ってるからアイス魔法を乱打したのか、魔力が余ったのかな。
「わたくしは、こちらの奥を見て参りますわ」
クラリスさんは逆にボス部屋の奥へと入っていった、
索敵で魔物が残ってないのはわかるから大丈夫とは思うけれども。
「アンジュ」
「あい」
ニィナさんがアンジュちゃんの方へ、浮いてるから目線が同じだ。
「良くやった!」
「!!」
抱きしめて頭をわしゃわしゃ撫でる!
えっ、いいのか?! ニィナさんの事だから怒ってどやすかと思ったのに!
あ、アンジュちゃんにわからないように僕にアイコンタクト、そうか、そういう事か。
「ひとりで準魔王討伐とは恐れ入った、さすがニィナスターライツ最強の冒険者だ」
「えへ、えへへへへ」
「しかも魔石は光属性でこれだけ大きい、これはとてつもないアイテムに加工できるだろう」
「わぁいわぁい」
「本当、アンジュが仲間で良かった……これからも頼むぞ」
ひとしきり褒められてご満悦のアンジュちゃん、
よし、次は僕の番だ。
「デレスくん、ほめてほんめてー」
「駄目だよ、アンジュちゃん」
「……?!」
なに言ってるの? って感じで首をかしげている。
「結果的に倒せたけれど、ひとりで勝手な行動しちゃダメだよ」
「えー、だって、だって、さぷらーいず……」
「そんなのサプライズとは言わない、無謀って言うんだ」
あ、僕が怒ってるって勘付いて、しょげはじめた。
(でもこれでいいんだ、これで)
「アンジュちゃんにとって僕らって、そんなに頼りない?」
「そんなこと、ない、よ」
「確かにアンジュちゃんは強いよ、ホーリージャイアントターマイトを単騎で倒せたんだから、
ニィナさんが褒めるのもわかるけど、でも、でも僕はアンジュちゃんが心配なんだ!」
ぎゅっと抱きしめてあげる。
「……デレス、くん?」
「アンジュちゃんに何かあったら生きていけないよ、だから、勝手に無茶しないで欲しい」
「う、うん……」
「みんなで一生懸命、討伐方法を考えていたんだけれどさ、それってみんなが生きて帰るためなんだ、
見たよね? 植物系の魔物に身体を乗っ取られてニィナさんが殺して助けた冒険者、あんな風になって欲しくないんだ」
「でも、でもー、これが」
デスデリカ人形をまた見せてくれる、
コイツも空気を読んでか何も言わない。
「高級な装備やアイテムで固めて、凄い魔法いっぱい覚えてて魔力が無尽蔵に使えても、
想定外の事があればあっさり死ぬのが冒険者なんだ、わかってよアンジュちゃん」
「……デレスくんがそう言うなら」
「ローブもボロボロでしょ? 今回はそれで済んでるけど、七大魔王とかそうはいかないよ」
あ、ちょっと涙目になってる、そこまで強くは怒ってないんだけどなあ。
「……ごめんなさい」
「偉いねアンジュちゃん、わかってくれたんだ」
「うん……(コクコク)」
再び抱きしめるとニィナさんも頷いている、
ニィナさんが褒めて僕が叱る、アイコンタクトでそれはわかった、
ってこれ完全に子育ての夫婦じゃん! アンジュちゃんって僕らふたりの子供?!
(いやもちろん夫婦にはなる予定だけど、それだったらアンジュちゃんとも、クラリスさんとも、ヘレンさんとも!!)
「アンジュちゃん、こういうサプライズはいないから、ちゃんと僕のそばに居て? いいね?」
「あい……あーい」
「よし、わかってくれたらそれでいいよ」
奥からクラリスさんがすっ飛んできた!
「奥に、奥に大変なものが!」
ニィナさんアンジュちゃんと一緒に見に行くと……
あー、わかってはいたけどやっぱりか。
(アイテム扱いだから、索敵には引っかからなかったんだな)
そこには無数の、ジャイアントターマイトの卵があった!!
「あ、この特に光って大きいやつ、これ女王になりそう」
(これ、アイテムという事は……売れるか?!)
恐る恐るアイテムボックスに仕舞い始めると、
ニィナさんも続く……うーん、食べるのは嫌だなあ、コレは。