第173話 勝者の選択と男の選択
ビーストシュータ討伐の報告をしていると、
なぜかどういう訳かナイトキャップを被ったチアーさんが
寝ぼけまなこでやってきた、いったいどこから来たんだろう、
かわいいパジャマだ、48歳人妻のくせに。 いや、くせにはよくないか。
「ニィナ様っ、皆さまっ、このたびは、おっ、めでとーうっ、ございっ、ますっ! 祝っ!!」
「ああチアー、もう話が行ったのか」
「だ・ん・な・さ・まに、緊急連絡でっ!」
旦那ってあの地下情報屋のだよな、
あれ? 冒険者ギルドの情報ってあの闇のギルマスが、
妻であるチアーさんから抜いてきてもらってるんじゃないのか?!
「ではっ、これにて、おやすみなさいっ!!」
もう帰るんかーい!!
そしてどこかへ去って行った、まあ嬉しいよ、うん。
「うおーーーい、戻ったぜえい」
「ガネス殿、早いな」
「置いてくるだけだからな、一応待機していた連中にもう解体し始めてもらっているぜい」
一応とか言いながら討伐してくるって信じてくれていたんだろうなあ。
「明日には貰えるのか」
「当然だろう? そーこでだ、魔王の魔石をどうするか選択して欲しい」
選択ってなんだろう、と考えたが心当たりはある、
今は亡き(生きてはいるかな?)コロメの嘘を見破るために、
ビーストシュータの魔石を高レベル用の、高級鑑定水晶に加工するって話があった。
(もう必要ない、ってこともないのか)
結局は前に倒したアンデッドダンスドラゴンの魔石を加工することになって、
その加工中の代替え品としてドワーフ国から借りた鑑定水晶でコロメの罪を暴いたんだけれど、
今後また悪質な隠匿能力を持った高レベル冒険者と出会うかもしれない、その時には必要だ。
「水晶に加工したいならこっちで受け取って、まーたドワーフ国に依頼してやってもいいぜい」
「その場合はシュッコが買い取るのか?」
「いんや、すでに頼んでるのがあるからな、こっちは無料で良いぜーい」
「いいのか」
「それくらいサービスさせてくれやーい、七大魔王の討伐だぜーい?」
準魔王も全部倒してあるから当分はここのダンジョン全ておとなしくなるだろう、
魔物を探すのが大変なくらいに……そのあたりのジレンマは今に始まった話ではないが、
あんまり放置すると敵が強くなりすぎてスタンピードの可能性があるので倒した方が良い。
(まあこの国はオークションと闘技トーナメントがあるし)
ニィナさんがずーっと難しい顔で考えている。
「確かに高級鑑定水晶を持っていると便利だな」
「こっちで認定書出しても良いぜい、それでどの冒険者ギルド行っても本物として使えるぜい」
「それは凄いな、鑑定自体はアンジュもできるが、認定があれば確かな証拠に使える」
僕らがずっと冒険者を続けるならあって良いし、
いざとなったらギルドに売ってお金にもできそうだ。
「もっちろん、鑑定水晶に加工する以外の使い道もあるが……」
「デレス、どうする」
「ぼ、僕ですか?!」
「好きに選んで良い、デレスの意見なら誰も文句は言わない」
「うーん、うーーーーーん……」
考えに考えたのち……
「七大魔王はまだあと六匹も居るんです、まずは水晶にしちゃいましょう」
「よしわかった、ガネス殿、頼んだ」
「あいよー! あとについては明日だ、今日は休みな、明日は街中大騒ぎだぜーい」
さすがにこんな夜中にパレードはないか、
と外を見たらすでに白みはじめていた、もうすぐ朝かあ。
「あ、ダイナミックアテンションの皆さんもお疲れ様でした!」
思わず僕が労をねぎらってしまった、ニィナさんの仕事なのに!
「いやいや、良い物を見せてもらったぜ」
「しばらくは休ませてもらいますよ、それにしても素晴らしい、おめでとう」
顔役のおふたりもしばらく暇になるかもしれないのに、
本当に喜んでくれている、分配も少しは行くだろうからね。
(あ、姫姉妹がソファーで寝てる)
時間が時間だから変なのに悪戯される心配は無いが、
でろでろエクスタシーの皆さんは心配しているだろう。
「アンジュちゃん、送ってあげて」
「あーいあーい」
眠っているまま一緒に転移、
レベルも上がってるんだろうなー、
今回もったいないが妖精の指輪を誰にもはめさせなかったのは、
あのふたりのレベルを同時に上げさせるためでもあるんだよな、
あのパーティーで一番強いのが姫姉妹ってなったら過度に護られる事もなくなるはず。 多分。
「さあデレス、後はもう自由だ、昼前まで各自休もう」
「はい、疲れましたっていうか早くお風呂に入りたい」
「あの、あのー」
あ、ある意味一番の大活躍だったルエナさんがまだ居た!
今度はリーダーのニィナさんが対応する。
「ルエナもご苦労だったな、後は自由にして良い」
「その、お約束は朝までで、まだ時間があります」
「魔王を倒したのだぞ? レベルも上がっているはずだ」
うん、いかに高レベルであっても七大魔王を倒すと無条件でひとつ以上は。
妖精の指輪を誰かがつけていたらダメだけど。
「いえ、えっとあとまだ一時間四十五分、時間があります」
「何がしたい」
「私の本来の仕事を、デレスさんに」
ごくり。
「だそうだ、確かに娼館から雇ってはいるからな」
「え、ええ、で、でも、ルエナさん疲れているんじゃ」
「実は私、大きな戦闘をして興奮すると、その、身体が疼いて」
あーそれで現役ソロ冒険者やりながら娼館に居るのか。
「デレス、どうする」
「い、いいんですか?!」
「好きに選んで良い、デレスの意見なら誰も文句は言わない」
「うーーん、うーーーーーーん……」
さっきの時より長く考える!
「ニィナさん、怒りません?」
「ルエナの褒美と考えるならまあ我慢しよう、ただ」
「ただ?!」
「次に私がデレスと愛し合う夜は、相当ハードなものになるだろうがな」
「う、うう……」
でも多分、雇った時間内ならすでに払ったお金で大丈夫だろうし、
なによりしばらくこの街から離れちゃうから、だから、だから……!!
「あ、あー! アンジュちゃんおかえりー!」
「ただいま、だよ」
「僕、ルエナさんを娼館まで送ってくるよ! ちょーっと時間かかるかもしれないけどね!」
あ、じとーっとした目になったニィナさんクラリスさん、
アンジュちゃんは急に顔を魔法で隠すしヘレンさんは何か悲しげ。
(いや、僕だってせっかくのチャンスは!)
「アンジュちゃん、転移で」
「やだ」
「……ルエナさん、徒歩で行きましょう」
「はい!」
「では送ってきまーす」
あとはまあ、あ! お風呂入れました! 泡泡のね!!