第165話 利用するべき人と利用されている人
「ファイアーダンス3!」
「ファイアーダンス4!」
ナタイラさんライリアさんの姫姉妹が黒い炎と白い炎を敵に放つ!
ここ七十六階のフライングベリーやフライングピアーを焼き倒すふたり、
体当たり系の敵だが距離さえしっかり保っていればレベル21でも危険は無い、僕らもついてるし。
(あ、僕らって僕とニィナさんとクラリスさんです、ヘレンさんは例の残り七人とパーティー組み直して見張り中)
ニィナさんは腕組んで監督顔だ。
「なんだ、やる気を出せばやれるではないか」
「ありがとうございます」「まだまだやれます」
まあ個人初期スキルが戦闘意欲向上(攻撃系全微増)だからね、
でもやる気っていうものは、やりはじめて湧いてくるものってリッコ姉ちゃんが言ってたような、
あの脳筋お姉ちゃんは考えるより身体を動かせっていうタイプだからなあ。
「こうやって毎日、ファイアーダンス系の魔法を打ち続ければ熟練度も上がるだろう」
「その、姫は危険だから下がっていて良いと」「それでも一日一度は撃つようにしています」
一回かよ!
熟練度が上がるのに何年かかるんだっていう、過保護にも程がある。
「奴らは、でろでろエクスタシーの連中は何を考えてそんな悠長な事を」
「やっぱりモチベーションなんでしょうか、奴隷にされてもうどうしようもないっていう」
「国を再興するなり取り戻すなり、本気で考えるなら己を強くしたいはずだが」
そのあたり自分たちで言ってたような気もするんだけれど、
現実的に、完膚なきまでに叩き潰されて心が折れてしまっているのかも?
「やりたいけれど現実逃避しちゃってるんでしょうか」
「ナタイラ、ライリア、そのあたりはどうなんだ」
「はい、戦争中に行方がわからなくなった別働隊が居るようです」
「それが仲間を新たに引き連れて、私達を回収して島を取り戻す日を待っていると」
「実際にそのような手筈は約束されているのか?」
あー黙り込んだ、と思ったらファイアーダンス1と2を敵に放つ。
(それって別働隊なんじゃなく、逃げただけでは……?!)
口にするのは残酷なので黙っておこう。
「早めに魔力を上げたいですね、今にして思えば能力上げる種、このふたりに飲ませれば良かったです」
あんの種泥棒どもめ!
「もう少しレベルが上がったらリューイ達が狩っていたアルラウネの森で狩らせよう」
「ふたりで、ファイアーダンスで敵を一掃してくれるならこれほど楽な事は無いですからね」
「ああ、このふたりは鍛え上げれば利用できる、他の七人はむしろ邪魔なくらいだ」
レベル五十になって雑魚を一掃してくれるなら正メンバーに加えても良い、
その時はそれこそ白金貨二百枚の価値があったって思えるから、
残りの七人を本当に娼館に売っても良いくらいだ、でもおっかさんは東Eエリアでも売れなさそう。
「あの、ナタイラさん、ライリアさんでもいいんだけど」
「はい」「なんでしょう」
魔力切れで休憩のタイミングだ、
かわりにクラリスさんが近づく敵を無詠唱で一掃している。
「本人が居ないから聞くけれど、おっかさ……バラカさんって旦那さんとかは」
「立派な勇者様でした、それはもうお強い」「でも戦争で、敵の手で……」
「あ、そうなんだ、子供とかは」
「立派な魔剣士様でした、剣から魔法を放つお強い方で」「でも戦争で、敵の手で……」
「な、なんかご……いや、わかった」
またニィナさんに『奴隷に謝るな』って怒られる所だった。
「じゃあカミーラさんは、ってやめておこう」
彼女に興味あると思われると色々面倒だ。
見るとニィナさんは地図で先のエリアを調べている、
クラリスさんは火力が強すぎて、一掃しすぎて暇になっている、こっちに来た。
「そういえばデレス様、アンジュちゃんの情報なのですが」
「はいクラリスさん、アンジュちゃん情報とは珍しい」
「弓や投てき、長距離魔法系の経験値稼ぎができる場所がすぐ下の階層にあるそうです」
「え、すぐ下っていうと七十七階?」
「はい、安全地帯のような島があって、そこから遠くの敵を倒し放題、敵も来られないとか」
そんな美味しい狩場、誰かに占領されていそうだけどな。
「よしデレス、見るだけ見に行こう」
ニィナさんの号令で進行する、
地図通り行けばもうすぐ下り坂だ。
「この先かあ、あ、他のパーティーが、あれは」
見覚えがあるお嬢様ポーターが最後列に!
「なんだ、シンディじゃないか」
「はい、ニィナ様、デレス様、クラリス様、その節はお世話になりました、それと」
「奴隷は今は良い、なんだこの列は」
見ると彼女たち『スピードファクトリー』の面々が長い列に並んでいる。
「はい、昔、幻術師様が設置した安全エリアへの行き来が復活して、
パーティーひと組につき三十分ですが有料でそこへ渡れるので、その順番待ちを」
「ずいぶんと待ちそうだな」
「安全エリアは島になっていて、区画を四つに分けてあって一度に四パーティーしか入れないんです」
「これだと何時間待ちだ? 大変だな」
「六時間待ちですね、でもそれ相応な経験値が得られますから、魔石は取りには行けませんが」
列を見回っているアサシンが来た、
あれ? あの顔どっかで見た少年だな、
しかも目の前で見た覚えが、ええっと、あれは……
「デレス、先頭を見てみよう」
「あっはい」
「あらシューサーちゃん、こんにちは」
クラリスさんが挨拶するとぺこりと頭を下げた、
そうか、アンジュちゃんと特別クラスの同級生の、
いや特殊クラスの方じゃなく特別な、幻術師は幻術師の、アサシンはアサシンの授業を受ける方の!
(と、いうことは、ひょっとして……)
他にも列に見知った顔が居た気もするが先を急ぐ、
シンディちゃんの言った通りだと六時間なら四十八組も並んでいるのか、
と七十七階エリア入ってすぐの場所は崖の上だ、崖下は底が見えない、
先を見ると……あったあった、遠くに崖に囲まれた島が!
さらにその奥に居る敵を安全に倒しているようだ、うちの奴隷姫姉妹を鍛えるのに最高の環境といえる。
「さあ、人数でお支払下さい、ひとり金貨一枚ですよ」
おじさんに促されて魔法使い系パーティーがぞろぞろ魔方陣へ、
その隣の魔方陣に別のパーティーが転移して戻ってきた、こっちは弓系か。
「いやーこれ絶対レベル上がったわー」
「次は矢をもっと用意してこようぜ」
「元が取れたどころじゃないな、また最後尾に並び直したいくらいだ」
「ごめん俺、回復役だからなにもしてない、経験だけおこぼれ貰って悪いな」
「気にするなって! こういう時、稼げるときに稼ごうぜ!」
と去って行く五人を見送る小さな幻術師さま、ってあれ?!」
「ではアンジュ、次のパーティーを」
「あいあい」
と入れ違いで一緒に転移して行った!
(アンジュちゃんが、働かされてるううううううううう!!!)