第160話 奇跡の帰還と強制帰還
目が覚めると、そこはいつもの宿のベッドだった。
「♪起きた! ♪起きた! ♪起きた!!」
「……うるさいよアンジュちゃん、いてててて」
真上に浮かびながら顔を覗き込んでいるアンジュちゃん、近い近い!
横からは癒される光が僕を包んでいた、回復魔法をかけてくれているのは白いサキュバス、
そしてヘレンさんが僕に抱きついてきた!
「よかったぁあああああ!!」
「い、いたいいたいいたい!」
「ごっ、ごめんなさい、でも、良かったあぁ!!」
髪の毛を乱して眼鏡がずれてる、
あれ、ヘレンさんってそんなに僕に思い入れとかあったっけ?
外を見るともう夜か、あれ? 一番大切な人が居ない。
「ニィナさんは? あ、シカーダちゃんを見てるとか?」
「んと、シカーダちゃんは、バウワーさんとペロちゃんが見てる、よ」
「デレス様、ニィナ様はアンジュ様にお願いしてコロメの部屋で待機中だそうです」
「うっわ、ダイレクトで問い詰めるのか」
「ううん、コロメをヤルって、すっごい怒ってた、よ」
……すっごい嫌な予感がする、
あの悪女の事だ、何も考えず僕とシカーダちゃんを始末しようとしたとは思えない、
口封じなら僕やアンジュちゃんも含まれている、と、いうことは!
「アンジュちゃん、今すぐニィナさんを連れ戻して!」
「えっ、今?」
「うん、速攻で、今すぐに、たった今、早く!」
その言葉にすぐさま姿が消え、
戻ってきたと思ったらニィナさんがベルセルクソードを振り下ろした所だった!
「うわっ!!」
ピタッ、と間一髪、僕の顔の直前で止まる!
危なかった、あのまま行ってたら粉砕される所だった!
「……デレス?!」
「ニィナさん、よく寸前で止めてくれましたね」
「デレス! デレスうううううう!!!」
ベルセルクソードを放って僕を抱きしめる!!
「痛い痛い痛い、今までで一番痛いから!」
「はっ! す、すまない! それにしても、これは……?!」
「コロメがお尻ついてて、おっきい剣でヤルところだったよー」
アンジュちゃんの話からするとまさにヤル直前だったんだな、危なかった、
確かに転移してきたニィナさんの表情は今まで見た事ない怒りの顔だった。
「そのニィナさん、落ち着いてください」
「意識を取り戻したのか!」
「はい、なんとか、それで状況を聞いて、その」
「……そうか、これはコロメの罠か、私がコロメを斬ろうとした瞬間にデレスの元へ転移させ」
「違います、転移をお願いしたのは僕です!」
あ、アンジュちゃんが気まずそうに外見てる!
「アンジュちゃん、転移させるなら方向とか考えようよ、ね?」
「てへぺえろ~」
「それ誰に教わったの」
「シューサーくん、だよ」
「そいつ一度連れてこーい!」
アンジュちゃんが一瞬消え、
再び現れたと思ったら普通に食事中の少年が現れた、
座ってたのせいか尻もちをつくもすぐに立ち上がる!
「本当に連れてこなくていいから!」
「あいあい」
また消えてアンジュちゃんだけ戻ってくる、
アサシンだっけ、めっちゃ驚いただろうな、今度謝っておこう。
「ていうかシューサーくんの家、行ったことあるんだ」
「あそびにいったよー、二回くらい」
「それでデレス、どういう事だ」
ようやく落ち着いたニィナさん、
水差しを一気に飲み干したみたいで空になってる。
「あのコロメの事です、僕が殺されたとして、ニィナさんが勘付いて襲ってくる事は想定済みでしょう」
「私はバウワーから話を聞いた、シカーダは意識がなかったが察しはついた」
「ええっと、何があったかちゃんと説明しないといけませんね、とにかくニィナさんを回収できて良かった」
コロメが九十以上の高レベルなら単独のニィナさん相手なら勝てるはず、
でもアンジュちゃんの話だとコロメを倒す、ヤルまさに瞬間に転移させてきた、
もちろんニィナさんのテクニックでレベル差をひっくり返した可能性もあるが、
シャマニース大陸という人外魔境で生き抜いたコロメがそんなヘマをするとは思えない。
(絶対、何らかの罠を張っていたはずだ)
「すまないデレス、我慢できないので少し時間をくれ」
「はい、何でしょう」
と、唇を重ねてきた!!
「ーーー!!!」
……とまあしばらく蹂躙されたのち、
落ち着いたニィナさんや他の皆さんにも説明をする。
(って説明中、アンジュちゃんまで顔にキスしてきてるのはなんだろこれ)
商業ギルドに呼び出されてからシカーダちゃん買い取りの契約を済ませ、
引き渡し場所がダンジョンのとんでもなく危険な崖上だったこと、
ぎりぎりで救出したらシカーダちゃんに刺され、魔法スキルで回復したら一緒に谷底へ道連れされた事、
シカーダちゃんは母親の命と引き換えに僕の暗殺を依頼されていた事などなど。
(イビルウィザードについては黙っておこう)
「で、崖下で死にかけていた所を、ケルピーを連れたバウワーさんに助けてもらったんです」
「助けた所からは聞いた、バウワー、自分が奴隷のままだったら指示なくケルピーを放つことはなかったそうだ」
「そ、それじゃあ」
「奴隷解放しておいて良かったな、それが生死を分けた」
「運が良かったですね」
今回は色々と運が良い。
ヘレンさんも心配そうに僕の髪を撫でてくれる。
「デレス様、そんな谷底に落ちて命があったのも幸運ですね」
「う、うん、レベルが高いのとあとは、身体が小さいのが良かったかな」
普通の大きさなら途中でバランバランになってたと思う。
「あ、僕の身体、どこもなくなっていませんか?」
「だいじょうぶだよー、サキュバスで傷口塞ぐとき見たからー」
サキュバスでって言うと語弊があるが、
白いホーリーサキュバスの治癒魔法で治した時に確認したのだろう。
「アンジュちゃんも見てくれてたんだ」
「だよー、ボクもヒールいっぱいかけたよー」
「ありがとう、とりあえずは大丈夫かな」
まさに奇跡の生還だな、
製作依頼中のエリクサーを使わずに済みそうだ。
「デレス、とりあえずこの事はきちんと冒険者ギルドへ話そう」
「ええ、でもコロメの隠匿魔法が」
「そのあたりは今日の話で変わった、明日には届くはずだ」
「え、何が届くんですか?」
「実はな、私も驚いたのだが……」
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一方その頃、コロメは―――
「んもう、派手に壊してくれたわねー」
部屋で暴れたニィナの壊したものを片付けていた。
「奴隷も全員いなくなったし、そろそろボロが出る前に、逃げよ☆」
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僕はニィナさんの話を聞いて驚いた。
「じゃ、じゃあ明日まで待てば良かったんじゃ」
「すまない頭に血が昇った、あと確実に解決できるとは限らないからな」
「アンジュちゃんも止めなきゃダメだよ、って無理か」
婚約者間にも序列というものがあるし、
そもそもアンジュちゃんにはそんな頭は回らない、
いやいま空中でくるくる回っているけれども!
「その、僕はまだ動けそうにないのでギルドの人に来て貰う訳には」
「私がギルマスに説明しておく、今からでも行ってこよう、アンジュ」
「あいあい」
と、ふたりして瞬間移動した。
(残されたのは僕とヘレンさんだけ、あ、ホーリーサキュバスも居るけど)
そんな僕に唇を重ねてきたヘレンさん!!
「あ、ななな、何を」
「デレス様、奴隷の身分で申し訳ありません、愛しています」
「え、え、なんでー?!」
「もう、私にはデレス様しかいないからです、どうか、どうか私の愛を、受け入れて下さい」
「ちょ、ちょっと、なんで脱ぎ始めて、だ、だれかーーー!!」
(ターゲットがリューイさんから、僕に変わったのかーー?!)
このあとバウワーさんが来てくれて事なきを得た。