第159話 崖の上の少女救出とまさかの展開
「あ、あんな所に!」
慌てて駆けつけた地下二百四十四階、
岩の崖があり上でシカーダちゃんが震えている!
下からわらわらと登ろうとしていた巨大鹿モンスターのラナウェイムースたち、
鹿の上に鹿が乗ってその上に乗って、でシカーダちゃんの所まで到着しそうな場面だ!
「くおらお前らあああああ!!」
僕はガラにもなく熱血漢な感じで凶悪鹿たちを倒していく!
全部で五十体くらいだろうか、ひとりなので時間はかかったがなんとか全滅させた。
「ふう、ふう、ふう」
「あ、あうぅ、あり、がとう」
めっちゃ泣き崩れた顔のシカーダちゃん。
「待ってて、すぐ助けに行くから」
崖をよじ登ってようやく到着するともう体力がない、
へとへとになりながらもぎゅっと抱きしめてあげると、
すっごい泣きはじめた、僕の胸元に入り込んで……
「落ち着いて、落ち着いて」
「ごめんなさい、ごめんなさあい」
「い、痛いよ……え、痛い?!」
見ると僕の胸に鋭利なナイフが突き刺さっていた!
「こっ、これは!」
思わず突き飛ばしたら反対側に落ちそうになるシカーダちゃん!
僕はナイフを抜くと血が噴き出す! ……が。
「ううっ、うん、大丈夫だ、治ってゆく」
(勇者魔法スキル、オートリザレクションのおかげだ)
レベル七十五で覚えた、死にかけると勝手に蘇生してくれる……
一度使うと次に使えるのがいつになるかわからないが、発動してくれて良かった。
「痛みも消えてる……あ、シカーダちゃん!」
「え? な、なんで、生きてる……の?」
このナイフ、即死のナイフっていうらしい、
あ、光に包まれて消えた! どう見てもコロメが用意した武器だろう、
一度使うと無くなる高級アイテム、こんな物まで使って!
「シカーダちゃん、なんでこんな事を」
落ちそうになってた反対側は底が見えない、
こんな暗闇の谷に落ちたら助からないだろう、
本当にシカーダちゃんが落ちなくて良かった、と抱きしめてあげる。
「ごめんなさい、ごめんなさああああい!!」
「いいからいいから、危ないよ、今の僕、本当にもう体力残ってないから」
「その、あの、その、命令されて、それでっ」
泣きじゃくってる、
落ち着かせてあげないと。
「もう奴隷解放の書類があるから、その首輪、外せるよ」
「そうじゃないんです、そうじゃ……」
「え、どういうこと?」
「母さんが、お母さんの病気がまた悪くなって、それで、コロメさんが、デレスを殺したら、今度はエリクサーで完治してくれるって!」
「え、エリクサーを使って? まさかあ」
奴隷ひとりとエリクサーなんて、釣り合わなさすぎる。
「騙されてるよ、それ」
「だって、だって、だってえ」
「とにかくシカーダちゃんのお母さんはどうなっているのか、今、様子を見るために……」
ぎゅうっと僕の身体を胸元から押してくるシカーダちゃん!
「ちょ、ちょっと、シカーダちゃん?!」
「もう、もうこうするしか、ご、ご、ごめんなさあああああああああ」
「ええ、え、えええええ?!」
シカーダちゃんが一気に押すと僕は崖から奈落の闇へ落ちる!
しかもシカーダちゃんまでも一緒に!!
(あ、これ助からないな)
仕方ない、とシカーダちゃんを抱きしめ僕の上に落ちるように態勢を整える、
まあ無駄だろうけど……シカーダちゃんは涙を流しながら絶望の表情、
コロメめ、こんな形で証拠隠滅してくるとは……という事はニィナさんアンジュちゃんも危ない!
「くそ、くそっ!」
岩の斜面に身体を打ち付ける!何度も何度も!
あっという間に血だらけに! ああ、なんとかシカーダちゃんだけでも助からないかな……
(ニィナさん、クラリスさん、アンジュちゃん、ヘレンさん……ごめん……そして、ありがとう)
こうして僕は意識を失った。
……明るい光を感じる、
これは、あの世への入り口かな?
それとも神様の包んでくれる光か、
宗教にはちゃんと入ってはいないんだけれどな、
女神教に入っていればこうやって死んでもクラリスさんたちと会話できたかも知れないけれど。
(……泣き声が、聞こえる?)
「ううっ、うっ、うえええええええん……」
この声はシカーダちゃんだ、
うっすら目を開けるといくつかのまばゆい光り、
眩しいが段々と目が慣れてくる、そこに見えたのは……
「……え、え、え?!」
四本の、光を放つ幻術師の杖?!
それを持っているのは灰色の布を身にまとった四体の人型魔物、
大きいのひとつと小さいのみっつ、この姿は、イビルウィザードだ!
「お前たち、こんな所にいたのか!!」
以前見逃した魔物、そして人数分残してあげた幻術師の杖、
それがいま、こうやって治癒魔法で僕の命を……なんて運が良いんだ。
「ううう、でも動けないっ、いたたたた」
あちこち骨がまずいことになってるな、
それどころかちゃんと両腕両足あるのかなこれ、
シカーダちゃんは血まみれで泣きじゃくってるだけだし。
(エリクサーがあれば一発なんだけどな、ハイエルフの涙は……アイテムボックスから出せるかな)
なんとか左手が少し動く、
手首をアイテムボックスへ突っ込んで、
と全身の激痛に耐えながら、もっがいていると……!!
「ブヒンッ! ブヒヒヒッ! ヒヒヒヒヒーーーンッッ!!」
よく聞いた鳴き声が近づいてきた!
慌てて逃げるイビルウィザードたち、
そしてやってきたのは……!!
「キューピー! クーピー! パッピー、と(それに乗った)バウワーさん!」
「おおお、これは大変じゃ、大変じゃ!」
「よ、よくこんな所まで」
「いやのう、この子らが急に騒ぎ出しての、縄を引き千切らんばかりで、それより治療じゃ!」
「そっちの、シカーダちゃんもお願いします!」
こうしてキューピーに僕が、クーピーにシカーダちゃんが乗せられ、
時間がだいぶかかって彷徨うようにして到着したのが東Sエリア行きの緊急魔導昇降機だ。
「こんな所にこんなものがのう、さあ、もう安心じゃ」
「あの、シカーダちゃんの、首輪を外してあげて下さい、すぐ、これで」
アイテムボックスからハイエルフの涙ではなく奴隷売買契約書を出し、バウワーさんに渡す。
「今はそんな事は」
「いえ、緊急なんです、下手するとシカーダちゃんが口封じに」
シカーダちゃんはいつのまにか意識を失っているようだ。
「うぬう、わ、わかった、これはすぐギルドで渡そう、それより治療が先じゃ」
「ありがとう……ござ、い、ま……」
こうして僕は、再び意識を失った……。