第155話 見た物はしょうがないとしてもさあどうしよう
僕は今更ながらあの状況を思い返す。
「あっ、今から戻ってあのでかいシャドウを倒しては」
「無駄だ、出口を塞ぐ事になる、わかりやすく言えばあの冒険者ごと倒す事になる」
「じゃ、じゃあ」
流れる沈黙、
アンジュちゃんは意味もなくぷかぷか浮いてる。
「決定的な場面を見たな」
「はい、確実な証拠、と言っても実証はできないのか」
「私とデレス、アンジュが見た所で物的に証明できるものがないからな」
あのシャドウを倒せばまた首輪が出てくるかも知れない、
でもあのコロメの事だ、ガス魔石を持って出てこないと確認したら、
自分でアレを倒して隷属の首輪を回収する、くらいの事はしているだろう。
「……私達が見たものを、他の者にも見せられれば良いのだが」
「そんな便利な魔道具や魔法があれば良いんですけれどね」
「あるよー」「「?!」」
僕とニィナさんは同時にアンジュちゃんを見る!
「レベル100~125で得られる幻術師魔法だって~」
「アンジュ、それは本当か」
「シフリンのとき、授業で聞いたー」
ちゃんと教えられた事、頭に入っていたんだ!!
「でも世界でふたりしか使えた人、いないんだってー」
「えっ、今まで?」
「うんー」
でも過去に事例があるって事は、
冒険者ギルドも信じてくれるかも知れない。
「デレス」
「はいニィナさん、アンジュちゃんは『大器晩成』持ちですから」
「だな」
僕は妖精の指輪をアンジュちゃんに渡す。
「とりあえず報告だけでもしてきましょうか」
「……あの放り込まれた僧侶が生きてるとは思えないからな」
「どことぶー?どことぶー?」
「冒険者ギルドのギルマスってもう戻ってきてるんでしたっけ?」
「明日だな、となると西のガネスだ」
その言葉に西冒険者ギルドへとんだアンジュちゃん、
勇者専用受付へ並んでメイド風受付嬢、と思ったが見た事ない若い子だ。
「ようこそ冒険者ギルドへ!」
「初めて見るな、新人か」
「はい、東B冒険者ギルドの一般受付で研修が終わって本日からこちらへ」
「ずっとか」
「そうですね、いつものお二方がいらっしゃる時は一般受付がメインですが」
ああ、いつもの二人ってハイテンション受付嬢とメイド風受付嬢か、
ハイテンションの方は明日帰ってくるはずだけれど、メイド風の方は休憩中か休みかな。
とりあえず冒険者カードを渡す、チェックしてもらっていつものように返してもらう。
「こちらのサブギルマスに会いたいのだが」
「ガネス様ですか、本日はお休みですね……あ」
「どうした」
「ギルマスから伝言が、『ニィナスターライツ』のリーダーと話がしたいと」
「もう出勤しているのか」「明日午前、リーダーのみと極秘に会いたいそうです」
メモを渡される、地図みたいだけどよく見えない、
こういう時は身長差が憎い、アンジュちゃんは浮いて上から覗いている、いいな。
「わかった、ではとりあえず狩場へ行く」
「あら、こちらの記録だと二百二十四階付近へ出られたばかりになっておりますが」
「変更だ、地下二百六十階くらいにしておこう」
うん、シャドウの狩場はコロメが居たからね、
もし帰ってたらでかいシャドウを倒して首輪回収とかしたかったけれど、
まだ居てかちあったら何がどうなるか怖い、相手は高レベル悪女勇者だ、避けた方が良い。
「三人パーティーですと危険ですので無理しないで下さいね」
「わかった、アンジュ」
「あーい」
と瞬時に転移する、
びっくりしただろうなあの新人受付嬢、
と到着した岩場の上、いやローパー系魔物の上だ!
(狩場への転移はこれがあるから怖い!)
慌てて触手を避けニィナさんがベルセルクソードをぶっ刺す!
「うわー岩の下もローパーがあんなに!」
「アンジュ、一掃できるか」
「ん~がんばるー」
こうして一時的にコロメの事など忘れ、
三人で必死に狩りを続けたのであった。
「あ、触手ってちょっと気持ちいい」
「アンジュちゃん?!」
(最近饒舌になってきたってそんなこと言っちゃらめええええ!!!)
夕方、やはり三人でこのくらいの時間だといかに妖精の指輪があるとはいえ、
アンジュちゃんはレベルアップしなかった、でも、もうちょっとらしい。
勇者専用受付へ戻るとまだあの新人メイドさんだ、アンジュちゃんの鑑定でわかっているとはいえ手を水晶にかざす。
「……ニィナスターライツのデレス様」
「え、僕?!」
「はい、明日、商業ギルドで商談のご相談だそうです」
「誰から?」
「勇者コロメ様からですね、必ずひとりで来て欲しいそうです」
罠の予感しかしない!!
提示された時間はこっちも明日の午前中だ。
「ニィナさんどうしましょう」
「……アンジュ、隠匿でついてけるか」
「学校があるよー」
「ニィナさん、どっちみち多分、コロメには隠匿がバレます」
「そうか、うーむ」
指名されたのは僕だからなあ。
「商業ギルドで会う訳だから大丈夫でしょう、ですよね受付嬢さん?」
「そうですね、商談となると商業ギルドの方も同席されるでしょうから」
「うん、話だけなら大丈夫でしょう」
どんな商談かわからないけれど、
想像がつかない事もない、商談というかこれはおそらく、取引だ。
「わかった、危険を察知したらすぐ逃げるのだぞ、
ギルド内なら大丈夫だと思うがクラリスの件もあったからな」
「あー、みんなの前で刺されたあの」
あの時はアイテムで助かったんだっけ、
それなら僕だって、レベルが上がって覚えた特殊スキル魔法で一回は復活できる!
「では戻ろう、アンジュ」
「あーい」
宿屋に戻るとクラリスさんが居た、
随分と真剣な表情だ、どうしたんだろう。
「あの、皆さん、申し訳ありません」
「どうした?」
「私、旅に出ようと思います」
一体何があったのーーー?!